第96話 終末剣ラグナレクと、ヴィクトールの失敗

 鍛冶師モルガンの使い。


 それを聞いた私は終末剣で頭がいっぱいになっていたが、客間に腰掛けるヴィクトールを見てその場に立ちすくむ。


「あ、ヴィクトールさん……」

「ども。何日かぶりです」

「え、あ、うん。はい」


 笑顔にも無表情にもなれず、私は引きつった表情で視線をあちこちに散らしまくる。


「リオ? いつまで入り口の前に立っているつもりだ?」

「あ、すみません……」


 フィオナが不思議そうに私の顔を一瞥いちべつすると、客間のヴィクトールに一礼。そして主人に付き従う騎士の定位置、椅子の横に立つ。


(できればフィオナさんも隣に座って欲しいなあ……)


 なぜかヴィクトールを前にすると、いつものテンションで話せない。嫌いなワケじゃないけど、苦手意識のようなものを感じてしまう。


 私は対面に座って、テーブル越しにヴィクトールと向かい合う。


「時間ギリギリになったがなんとか完成したぜ。これが注文の品、終末剣・ラグナレクだ」


 そう言って脇に下ろしていた桐箱を机の上に乗せる。そして桐箱のフタを開けると……すべてを呑み込むような、漆黒しっこくの両手剣が鎮座していた。


「……思わず魅入ってしまう、存在感のある剣ですね」

「ああ、俺たちも打ち終えた時は誰も口を聞けなかった。なんつーか武器ってより、生き物を見ている感じがする」


 そうだ。これは人間が振り回す武器という感じがしない。


 この剣には意思があり、使い手を呑み込んでしまうのではないか。そんな威圧感を持っている。


「フィオナさん、この剣を持ち上げてもらえますか?」

「……あ、ああ!」


 同じように剣に魅入っていたフィオナが、一呼吸遅れて返事をする。


 そしてつかへと手を伸ばし、両手でグッと握りこむ。


 ――瞬間、威圧感はフィオナと融合した。


 まるで使い手の力量を認めたかのように、終末剣はフィオナの一部へと収まった。


 純白の姫騎士と、漆黒の両手剣。相反する光と闇は互いを潰し合うことなく、完成された芸術品のように違和なく混ざりあった。


 そしてフィオナは私たちから一歩離れ、剣を中段に構えると……引きつった表情で言う。


「……試し振りは、やめておこう。もし室内で振り回せば、屋敷に被害が出てしまう気がする」

「そうですね。いまのフィオナさんからは、強大な魔族でも見てるようなオーラを感じます」


 私の言葉を聞くと、フィオナはムッとした表情をする。


「魔族って……もう少し例えようがあるだろう?」

「あはは、ごめんなさい」


 私が頭を搔いて笑うと、フィオナも困ったような笑みを見せる。それと同時、どこか張りつめていた空気は霧散していった。


「あなたが終末剣の使い手っすか」

「ああ。このような素晴らしい剣を用意していただき、感謝する」

「むしろ礼を言いたいのはこっちの方です。こんな大層なモノ、装備出来るヤツいないんじゃないかって不安になってたくらいだ。使いこなせそうな騎士サマがいて、正直なとこ安心しました」


 そう言ってヴィクトールとフィオナは、互いを認め合うように笑みを交わす。


「で。こっちがリオさんに頼まれていた、アサシンダガーだ」

「あっ、一緒に持って来てくれたんですね」

「俺も作るって言いきったしな。……まずは品の方を見て欲しい」


 なぜかヴィクトールは気まずそうな表情で、鞘に納められたアサシンダガーを差し出してくる。


 だが鞘を抜いて現物を確認すると……モルガン製の物と違って、刀身が虹色に光っているような気がした。


「……申し訳ない。溶湯ようとうがうまく混ざり切らなかったせいか、刀身ににじみが入っちまった。性能や使い勝手に違いはないが、美品とは言えない出来になっちまった」

「えっ、全然いいじゃないですか。むしろ虹色に光るなんて、オシャレじゃないですか」

「だが完成品だ、って胸を張っては言えねえ、だから詫びとして自己負担で作り直させて欲しい」

「な、なに言ってるんですか! そんなのダメですよ!」


 アサシンダガーはアダマンタイト三個で作るSランク武器だ、単純計算でも600万クリルもする。


 失敗作を売ったって差額で100万クリルは損をするだろう。そんな物を一職人に払わせるわけにはいかない。


「でも作るって言い出したのは俺の方だ。それなのに勝手に失敗して……こうでもしないとカッコつかない」

「だから、大丈夫ですって!!!」


 私はうつむくヴィクトールの肩に手を乗せ、声を張り上げる。


「性能差が出ないなら全然気にしません! むしろ忙しい中で作ってくれて……本当に感謝してるんですから!」

「でも……」

「でももヘチマもないっ! 誰がなんと言おうとっ、このアサシンダガーは返しませんからねっ!」


 そう言ってダガーを鞘に仕舞い、マジックポーチへと投入。はい、これで私の物~!


「もし失敗が悔しいなら、次は頑張ってください。……これからもモルガンさんの工場にはお世話になると思うので」

「すまない、恩に着る」

「頭なんか下げなくていいですよ。さっきも言いましたけど、虹色に光るダガーなんてキレイですし」


 私は本心でそう言ったのだが、ヴィクトールは苦笑しながら頬を搔く。


「……褒めてくれてるのかもしれないが、あまり嬉しくはないな」

「ふふん。そしたら次はイジりようのない、完璧な武器を作ってくださいね?」

「ああ。次は非の打ちようがない武器を持ってくる」


 と、最後は笑ってくれてその場はお開き。工場の貸切費用100万クリルを支払い、ヴィクトールを玄関までお見送り。


「リオさん、またダンジョンに潜るんだろ?」

「はい。今度はエレクシアのSランクダンジョンに」

「俺みたいな職人のに言われても、しょうがないだろうけど。気を付けて」

「ありがとうございますっ! ヴィクトールさんも無理されないでくださいね?」

「ああ。それと言いそびれてたんだが……新しい防具、似合ってる」

「え!? あ、ああ、ありがとうございますっ!?」


 フィオナのドレスアーマーが目立ちすぎて忘れていたが、私も新衣装を着たままだった。


 忘れていた頃に服なんか褒められてしまい、恥ずかしくなってしまう。


「じゃ、あまり長居してもしょうがないから。また」

「はい。わざわざ送り届けてくださって、ありがとうございましたっ!」


 私は玄関で手を振り、ヴィクトールの背を見送った。


(……さて。いよいよ準備が整った!)


 桜都への探索準備はこれにて完了、あとはやるべきことを果たすだけ。


 たくさんの強化手段は手にしたが、探索先は特注ダンジョンだ。予期せぬギミックで全滅することがないよう、しっかりと対策も練っておかないとね!



―――――



 ☆着せ替え後の装備状況☆



【リオの装備品】


 疾風神雷(S+) 素早さ上昇(小)、打撃攻撃で忍具『雷迅』の追加効果

 アサシンダガー虹(S) 即死効果50%

 忍装束・星影(S) 素早さ上昇(中)、回避値上昇(中)、魔法ダメージ20%カット

 エンジェリックリボン(A) 全状態異常無効

 セーフティジェム(A) 即死効果無効

 マジックポーチ(SS) すごい


 ※サブウエポン:アサシンダガー(S)、逆鱗刀(S) ドラゴン種へのダメージ+50%


【フィオナの装備品】


 終末剣・ラグナレク(SS+) 攻撃された相手は被回復量半減、任意で闇属性攻撃に変更可、ターン経過ごとに攻撃力上昇(15ターン目まで)

 ドレスアーマー・聖白(S+) 聖属性攻撃吸収、受けた魔法の魔力MPを吸収、魔力自動回復(小)

 エンジェリックリボン(A) 全状態異常無効

 セーフティジェム(A) 即死効果無効

 恵みのロザリオ(A) 魔力自動回復(中)、消費魔力軽減(小)



【スピカの装備品】


 コラプスロッド(A+) 土属性、使用時「崩落コラプス」発現可能

 エレクシア一級法衣・子供サイズ(SSS) 魔法効果量350%上昇

 エンジェリックリボン(A) 全状態異常無効

 恵みのロザリオ(A) 魔力自動回復(中)、消費魔力軽減(小)

 おやつかばん(C) 意外とやれる


 サブウエポン:人喰らう鉤爪(S) 人間種へのダメージ+100%


【キサナの装備品】

 マスターキー(S) 相手の防御力を無視して攻撃

 伐折羅ばさら怒髪天どはつてん(S) 攻撃力上昇(大)

 エンジェリックリボン(A) 状態異常無効

 セーフティジェム(A) 即死効果無効


 サブウエポン:人喰らう鉤爪(S) 人間種へのダメージ+100%

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