第95話 新防具も完成! クラン内ファッションショー開幕?
「……頼まれとった防具、なんとか仕立て終えたぞぉーっ!」
トライアンフ領へ向かう前日。作業部屋に籠っていたレファーナが、やり切った表情で私たちにそう告げた。
「本当ですかっ! ありがとうございますっ!」
「喜ぶのはまだ早い、まずは服に袖を通してみぃ」
「はいっ!」
私たちは作業部屋に足を踏み入れると、頼んでいた三着の衣装がトルソーにかけられていた。
「うわあっ、素敵っ! ゲームで……じゃなくてカタログで見るよりずっと可愛い!」
「ふふん、当然じゃろ。誰が手掛けたと思っておるのじゃ?」
「もちろん、天才縫製師のレファーナさんです!」
レファーナが満足そうに頷くのを横目に、私たちは仕立てられた防具を試着することにした。
まずはキサナの僧衣、
伐折羅と名のつく防具は、守備力よりも追加効果の攻撃力アップ目的で身につける防具だ。
錬金前は『攻撃力上昇(大)・ターン経過にて効果量減少』というデメリットがあったが、ランクアップ後は『効果量減少』が消滅。長期戦でも安定したパワーを出すことができる。
普通の僧服より重量は増したが、キサナの戦闘スタイルに身軽さは不要だ。デメリットになることはないだろう。
「はぁ、なんだか落ち着きます。レファーナさんが織ってくれたものだと思うと、人の温かみを感じるというか」
「なに恥ずかしいことを言うておるか。それに半分はキサナ自身で織ったものじゃろう?」
「それでもいいんです。データじゃない本物の防具ってだけでボクは……」
「データ?」
「あ、ああっ!? なんでもありませんっ!」
お次は私が装備する、
これは名前の通り、忍者が装備することを意識した軽装備である。
回避値・素早さに上昇補正が入るだけでなく、魔法防御力が高いのもポイントだ。
深い
「りおりー似合いますね! すっごくいいですね!」
「ホント? 暗い色の服ってあまり
「全然そんなことないですよっ、新しいりおりー発見って感じです! ちょっと真剣な表情してもらってもいいですか?」
「え? ……こ、こう!」
「カ、カッコイィーーー!」
私がちょっとキメ顔をしてみせると、キサナが感激して胸元で手を握りしめる。
(そういえばキサナちゃんって衣装の色変えとか、アバターにこだわりを持つタイプのプレイヤーだったなぁ)
そんな懐かしいことを思い出しつつ……お次は本命、フィオナのドレスアーマー・
ドレスアーマーとは、美の象徴であるドレスと
当のフィオナはカーテンの向こうでお着換え中だ。
肩がはだけているデザインのため、普通の防具と違ってインナーの上に羽織れるものではない。そのためレファーナがカーテンの中で着付けを手伝ってあげている。
「……ほ、本当にこんな格好をせねばならないのかっ?」
「当たり前じゃ。それがドレスアーマーと呼ばれる物じゃからのう」
「しかし私には似合わないだろう? こういった華やかな衣装は、もっと淑やかな女性が召してこそ……」
「ええい、ゴチャゴチャとうるさいわ。アチシがお主のことを思うて作ったのじゃ、ありがたく受け取らんか!」
レファーナの一言で覚悟を決めたのか、フィオナはようやく大人しくなった。
着付けを終えたレファーナがカーテンを開くと……そこには紛うことなき
あまりの美しさに、私は思わず言葉を失ってしまう。
デザインは鎧よりドレスといったおもむきの方が強い。純白なドレスをベースに、純金であしらわれた金具が華やかさを一層引き立てている。
「フィ、フィオナさんっ……!」
「やめろ。わかってる、私には派手過ぎるデザインであることは――」
「なに言ってるんですかーーー!」
興奮した私は目をキラキラに輝かせ、心の中でシャッターを無限に切り始める。
フィオナは恥ずかしさがこらえられないのか、顔を真っ赤にして俯いている。あまりの可愛さに鼻血が吹き出てしまいそうだ。
「あーもぅ、マヂ無理。かゎぃすぎ……結婚しょ……」
「か、からかうのはよせっ! 私なんか普通の女性より肩幅も広いし、背丈だって男のように高いし……」
「魅力的でしかないのに、自信なくしてるトコとかたまんにゃぃ……ゃっぱ嫁にもらぉ……」
「くっ……」
奥歯を噛んで悔しそうにする姿にまた見悶える。
くっころまでもう少しだろうか? ていうかファンタジー世界の女騎士、総じて
キサナもあまりの
「しかしこの衣装、なんだかスカート丈が短くないか?」
「あっ、それは私のリクエストです!」
「リクエスト? なにか深い意味があるのか? 一応は防具である以上、できるだけ身を覆う部分は多い方がいいと思うのだが」
「いえ、私の趣味です」
「……は?」
間抜けな声で聞き返すフィオナを余所に、私の口から性癖マシンガントークが繰り出される。
「私、好きなんですよねぇ! いつもは勝ち気な女性がフォーマルな場でドレスに身を包み、いつもは見せない女性らしさをムンムンに振る舞った後、なんか武装集団みたいなのが突っ込んできて戦闘を余儀なくされるシーン!!! すると、これまでのおしとやかさは鳴りをひそめ、武装手段をバッサバッサと倒していくんですけど『ええいっ、動きづらいっ!』とか言って、自分からスカートの丈を破ってミニになる瞬間!!!!! だけど少し破りすぎちゃって、ふとももスレスレまで見えちゃいつつ激しいバトルを繰り広げながら魅せる脚のチラリズム&ハードボイルド!!!」
「りおりー、それめっちゃわかりますよぉーーー! あと早口になりすぎでござるーーー!!!」
「フォヌカポーーー! すまんでござるキサナ殿ーーー!!!」
私とキサナが限界オタクと化した。フィオナとレファーナはドン引き。
するとそれまで大人しかったスピカが、レファーナの裾をクイクイ引いて不満そうに言う。
「ねぇねぇー、スピカにはなんか新しい衣装ないのー?」
「ん? スピカにはエレクシア教の立派な法衣があるじゃろう? 高ランクダンジョンに潜るのであれば、それに勝る防具など存在せんわい」
「えーでもスピカもたまにはイメチェンしたーい!」
「ふむ。じゃったら装備効果を損なわぬよう、多少ディテールくらいはいじってやろうか?」
「なにそれー、どーゆうことー?」
レファーナがカタログを取り出し、法衣のカスタマイズ案をスピカに話し始める。するとそのタイミングで、作業部屋にメイドさんがやって来た。
「リオ様、鍛冶師モルガン様より遣いの方がいらっしゃいました」
「来たっ、終末剣だ! フィオナさん一緒に行きましょう!」
「こ、この格好で行くのか!? 相手は男性だろう!?」
「いつまでも恥ずかしがってちゃダメです! すこしは慣れていかないとっ!」
「ま、待て。わかったから手を引っ張るな!」
数々の新装備にテンションの上がっていた私は、フィオナの手を引いて客間へ向かって走り出す。
現実で見る終末剣はどれほどカッコいいのだろう。胸のトキメキに身をまかせ、私は勢いよく客間へと飛び込んだ。
――だが客間で待つ人を見た瞬間、私の体はピキッと硬直してしまう。
「あ、リオさん。三日ぶり」
「ヴィクトール、さん……?」
終末剣を運んできてくれたのは、名前を知ったばかりの鍛冶職人ヴィクトールだった。
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