第92話 トライアンフ戦を前に、作戦会議!

 それから数日後。フィオナが実家から帰ってきたので、私たちはトライアンフ戦の作戦会議を始めた。


「まずはナガレさんからもらった、トライアンフのメンバー情報をおさらいしておきます」


 私は紙に起こしたクラメン情報をテーブルの上に広げる。


 戦闘種に属する冒険者は十五名。彼らは五人ずつ三パーティに分けられている。


 パーティはゴールド・シルバー・ブロンズの三チーム、価値が高い色の方が強いと考えて構わない。


「そして注意しなければならないのはゴールドの五人。そしてシルバーとブロンズでリーダーを務める二人です」


 要注意と記載された七人、そのうちルキウスの息がかかっている結成組けっせいぐみは四人。ゴールドの大将と副将、そしてシルバー・ブロンズでリーダー務める二人だ。


「するとチームゴールドは三人が悪し様に使われる、歯車組はぐるまぐみということか。……だが不思議だな? 結成組が二人に、歯車組が三人。扱いの悪い歯車組の比率が多いのに、パーティとしてうまく機能するのだろうか?」

「上の二人はとても強い冒険者らしいので。特に大将の暗殺者は、エレクシアに三人しかいないSS冒険者の一人みたいです」


 ゴールドの五人が持つ才能は上から順に『暗殺者・剣聖けんせいさむらい占星術師せんせいじゅつし・バーサーカー』の五人で構成されている。


 このうち上二人はひと月前にもらった資料で、レベル100の上限を既に超えている。下三人はいずれもレベル90未満で、今の私たちなら難なく勝ててしまいそうだ。だが――


「これはあくまでひと月前の情報です。この間に彼らも成長しているハズですし、第二才能以下も取得したと予想されます」


 私はみんなに幸せになって欲しいと思って、才能継承のルールを世界に公開した。だが情報の開示先が選べるわけではない。強くなるための情報であれば、当然トライアンフの血肉にもなっているはずだ。


「だからあくまでこの資料は一ヶ月前のもの。……そしてナガレさんを信じきれない以上、ウソが含まれている可能性も考慮しなければなりません」

「一応、私の方でも軽く調べてみました」


 と、申し出たのは元受付嬢のガーネットだ。


「トライアンフは十年以上前から活動する有名なクランです。彼らは自分たちの戦力を誇示するため、ステータスを公開していた時期がありました。その情報と照らし合わせる限り……ナガレさんの持ってきた情報はかなり正確だと思われます」

「そうだったんですね、ありがとうございます!」


 ガーネットの補足によって、情報の精度は高いと証明された。


 ちなみに要注意リスト七人のデータは、以下の通りだ。



☆☆☆



・ゴールド大将

 名前:アルフレッド(■結成組■)

 第一才能:暗殺者(レベル:106)

 第二才能:武闘家(レベル:80)

 冒険者ランク:SS


・ゴールド副将

 名前:オーウェン・オルコット(■結成組■)

 第一才能:剣聖(レベル:101)

 第二才能:魔法剣士(レベル:68)

 第三才能:聖魔術師(レベル:60)

 冒険者ランク:S


・ゴールド中堅

 名前:ナガレ(◎歯車組◎)

 第一才能:侍(レベル:88)

 冒険者ランク:S


・ゴールド次鋒

 名前:アリアンナ(◎歯車組◎)

 第一才能:占星術師(レベル:78)

 第二才能:闇魔術師(レベル:58)

 冒険者ランク:S


・ゴールド先鋒

 名前:マキシマ(◎歯車組◎)

 第一才能:バーサーカー(レベル:85)

 冒険者ランク:A


☆☆☆


・シルバー大将

 名前:モルグル・ジェイド(■結成組■)

 第一才能:魔物調教師(レベル:85)

 第二才能:弓兵(レベル:70)

 冒険者ランク:S


・ブロンズ大将

 名前:インフェルノ・ゴッド・デュランダル(■結成組■)

 第一才能:盗賊(レベル:80)

 第二才能:剣士(レベル:32)

 冒険者ランク:S


☆☆☆



 ウワサに聞いた通り、全員が攻撃に特化した戦闘種で構成されている。盾役や回復、戦闘補助ナシで戦ってるという情報も事実のようだ。


「思ったよりみんなよわくなーい? これならスピカの聖光瀑布ほーりーほーるでイチコロだよー」

「あはは、でも一ヶ月前の情報だからね。それにスピちゃんの聖光瀑布ホーリー・フォールは有名だから、対策されてる可能性が高いかも」


 リブレイズが有名になったのは、大侵攻スタンピードを阻止したことがキッカケだ。


 その時に乱発した聖光瀑布ホーリー・フォールは、多くの人に目撃されている。当然トライアンフの耳にも入っており、光属性耐性の装備で対策されている事が考えられる。


 同じく私が盗賊であることや、フィオナが氷・風属性の魔法剣士であることもバレているだろう。そのためこれまで得意としていた戦術に頼りすぎないことが肝要だ。


「スピちゃんは今回のレベリングで、天罰やイクリプスを獲得している。だからトライアンフに襲われた時は、この二つを使って攻撃したほうがビックリさせられると思うよ」

「はへー、なるほどぉー」

「りおりー。ボクが注意すべきことはありますか?」

「キサナちゃんは戦ってるところを見られてないから、そこまではないかなあ。でも装備品が鉄球だけだと小回りが悪いから、別の武器で戦うことも考慮したほうがいいかも」

「わかった、考えておくよ」

「あと忘れちゃいけないのが……今回が初めての対人戦だってことだね」


 対人戦。それはゲームには存在しなかった、対プレイヤー同士の戦闘だ。


 クラジャンはプレイヤー間で戦闘する仕組みがないため、魔物と戦う時とはいくらかルールが異なっている。


 たとえば魔物の能力値を判別する鑑定スキルは、対人間に一切の効果を示さない。冒険者の情報を知るには『投影の水晶』を使うか、同じパーティに入ってステータスバーを開くのみ。


 このような魔物戦との違いを検証するため、私たちは炎竜団と模擬戦をさせてもらっていた。その結果、ふたつの大事なことが判明した。


「まず対人戦の違い、ひとつめ。それは原則、逃げられないということ」


 私の確定逃走は対人戦では発動しない。


 理由はおそらく対人戦という設定がクラジャンに無いので、戦闘フェイズに入ってないことが原因だろう。


 魔物との確定逃走では私が”逃げ”の行動を取ると、不自然なほどに私の姿を見失っていた。対人戦ではそのようなことはできない、ということになる。


 すると今度はエンカウントなしで気配を消せないのか? という疑問にぶつかる。これも検証させてもらった。


 まず前提として、最初から気配を消していれば私たちは相手に見つからない。だが一度発見されてしまえば、相手が私たち気配を消し直せない。


 エンカウントなしはパーティ単位にかかるフィールドスキルだ。そのため全員が同時に身を隠したりでもしない限り、エンカウントなしをかけ直すことは不可能だ。


 トライアンフ戦では複数対複数の戦闘になるので、そんなことはほぼ起こりえない。原則逃げられないと言ったのはそのためだ。


「そしてふたつめ。これは盗賊の私だけに言えることだけど……盗んだアイテムを自分の物にはできないということ」


 炎竜団との模擬戦で、私は『盗む』で彼らの武器や防具を取り上げることができた。


 だがその武器を装備したり、盗んだ回復アイテムを使うことはできなかった。おそらく取り上げることはできても、所有者の変更はできないのだろう。


 これまでも赤髪レイラの短剣、ナガレから刀を取り上げることはできた。最初から返すつもりだったので気付かなかったが、それらを自分の物には出来なかったようだ。


 だが自分の物にできなくても、手からは取り上げられる。これは上手く使えば、相手を動揺させる一手に使える。


 ――もし相手が致命傷を負って、回復アイテムを使おうとしていた時。その手からアイテムを取り上げることができる。


 ――どうやっても回避できない、強力な攻撃を受けそうになった時。相手の武器を取り外すことができる。


 ただし盗める回数は魔物と同じく、一回まで。そして盗んだ品は装備も使用も出来ないので、その場に投げ捨てるしかない。


 相手はそれを拾えば元通り、ただ大きな意表はつくことが出来る。というワケだ。


「だからみんな、ここぞというタイミングがあれば『盗んで!』って叫んで。余裕があればアイテムを奪い取っちゃうから!」


 フィオナ・スピカ・キサナの三人は同時にうなずく。


「あとは個々の冒険者対策だね。三チーム一斉に攻めてくるのか、それとも――」

「その前にリオ。一応確認しておきたいのだが」

「はい、なんでしょう?」

「その後、ナガレからの連絡はなかったのか?」

「……そうですね。もう一度は連絡をすると言われてたんですが」


 ナガレには追加情報がなくとも、当日までに一度連絡すると言われていた。だが約束二日前になっても連絡はない。


 彼にはいくつか連絡を取る方法を伝えてある。私たちのいる炎竜団ハウスまで押しかけなくとも、いまは各地の至る所に飛竜がいる。


 飛竜たちは念話という特殊なチカラを持っている。そのため適当な飛竜に伝言を頼めば、ノボリュ経由で簡単に言伝ことづてすることだってできる。


 それでも伝えて来ないということは連絡が取れない、もしくは意図的に連絡を寄越してこない事が考えられる。


 ナガレはクランリーダー・ルキウスに使われる歯車組だ。私たちに内通していることがバレていれば拘束……いや最悪のケースも考えられる。


 信用しきれない相手とは言え、連絡がなければ心配ではある。大した理由でなければいいんだけど。


 そう思いつつ、私たちはトライアンフ戦に向けての対策を練り続けるのであった。

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