第91話 せっかくなので防具も新調! そして職人さんふたたび……

 炎竜ハウスに帰った後。私はバザーの売買で、思わぬ大金を手にしたことを告げた。


 するとレファーナは狂喜乱舞、目を輝かせて胸元に抱き着いてきた。


「リオーっ! よくやったぞ!! これで飛竜タクシーの初期費用は完済っ、利益を満額回収できるぞっ!」

「私、えらいですかっ!?」

「最高にえらい! お主は大陸一のクランリーダーじゃっ!」

「やったーー!」


 めずらしくレファーナが手放しに褒めてくれた、うれしい。


 機嫌の良さに任せ、私たちは手を取り合ってくるくると回り始める。レファーナが軽過ぎるせいで、途中からジャイアントスイングみたいになってたけど。



 現在の手持ちは1億6508万クリル。


 初期費用1億に、今月の出す予定のお給金は1400万。それでもまだ5108万クリルが手元に残る。


 まだモルガンに鍛冶かじ工場こうばの貸し切り費用を払ってないが、今後はタクシー利益も入ってくる。ようやくお金にも余裕が出始めた。


 トライアンフのダンジョンから無事に帰れたら、昇給やボーナスなども検討してあげよう。


「あとレファーナさん、折り言ってお願いしたいことがあるんですけど……」

「なんでも言うが良い。アチシは過去最高に機嫌が良い、言いづらいことでもドンドン言うておけ」

「実は今回。レファーナさんには縫製師ほうせいしとしての、お仕事を頼みたいんです」

「縫製師。そうじゃそうじゃ、アチシは縫製師じゃった! しばらくカネのことばかり考えとったので、あやうく忘れるところじゃったよ!」


 そう言ってレファーナはハッハッハと笑い出す。


(ホントに機嫌いいな、この人……)


 ちょっぴり微笑ましく思いつつ、私はポーチの中から製作素材を取り出した。


「作って欲しいのは『忍装束しのびしょうぞく星影ほしかげ』という防具です」

「ふむ。S+ランクの軽装か、いいじゃろう。ニコル発着場もアチシの手を離れたからの、たまにはリブレイズの縫製師として活動するか」

「ありがとうございます、じゃあ素材をお渡ししておきますね!」



【忍装束・星影(S+)の必要素材】

 忍装束(B)×1

 闇仕立てのベルベッド×2

 極光のリング(A)×1

 深淵のリング(A)×1



 忍装束はエレクシアで流通していない品だったので、パルシャナのバザーで購入。


 闇のベルベッドはイブリースからのドロップ、深淵のリングは奈落のデュラハンから盗んだアイテムだ。


 長くお世話になった極光のリングを使うのは惜しいが、闇属性の互換品である深淵のリングが二つ残っている。


 極光のリングは光属性・破壊光線はかいこうせんを発射できるのと同様、深淵のリングは闇属性・虚空穿こくうせんを発現できる。


 属性の違いはあるが、威力は破壊光線同等。これを残しておけばそこまで困ることもないだろう。


 もちろん忍装束・星影を装備するのは私だ。お恥ずかしながら防具については、未だにBランクのダンサーチュニックを装備したままである。


 デザインは好きだが、トライアンフ戦やSダンジョン踏破に着ていく防具ではない。そしてもちろん、着せ替えが必要なのは私だけじゃない。



「S+の軽装であれば、一日半もあれば出来るじゃろう。この天才縫製師、レファーナ様に任せておけ!」

「……えっとぉ。実はお願いしたいのは、一着だけじゃないんです」

「ほう? まあ良いわ、とりあえず言うてみい」

「フィオナさんにはドレスアーマー、そしてキサナちゃんの僧服も新調したいんです!」


 私が続けて依頼したのはこの二品、いずれもSランク以上の品だ。



【ドレスアーマー・聖白せいはく(S+)の必要素材】

 ピュアリ・アーマー(A+)×1

 エンジェリックリボン(A)×1

 ハルピュイア・ケープ(B)×1

 光の石×3



伐折羅ばさら怒髪天どはつてん(S)の必要素材】

 伐折羅ばさら大袈裟おおげさ(A)×1

 大数珠だいじゅず(A)×1

 鎖帷子くさりかたびら(D)×2



 ピュアリ・アーマー、ハルピュイア・ケープ、大数珠、鎖帷子。これらもバザーで購入してきた品だ。


 二人もまだAランクの防具だったため、一緒にグレードアップしておきたい。が、ゴキゲンだったレファーナも少しばかり引きつった表情。


「……この三品をあと五日で作れと?」

「出来ればお願いしたいなぁ、って……」


 私はできるだけかわい子ぶって、両手を合わせ上目遣い。するとレファーナは苦笑しながらも頷いてくれた。


「わかった、リオもずっと頑張っとるからな。生活種に仕事が落ちてくるのも、戦闘種が前線に出てくれるおかげ。サポートとあらば断る理由はなかろう」

「本っっっ当に、ありがとうございます!」

「しかし間に合わなかった時には、錬金術師キサナにサポートを頼むかもしれん。あやつの鍛冶はどんな調子じゃ?」

「予定では今夜、二本の黄昏剣が仕上がると聞いてます。あとは終末剣にかかる時間次第ですが――」

「――黄昏剣は先ほど打ち終わりましたよ」


 その時ちょうど、キサナが炎竜ハウスに帰ってきた。


「工場では明日から終末剣の製作に入る予定です。ボクもサポートに入る予定ですが、モルガンさん主導で打つので手隙になるかもしれません」

「もし手が空くようであれば、縫製のヘルプを頼む。さすがに五日で三着は約束できんからな」

「は、はいっ! お手を煩わせないようがんばりますぅっ!」

「そのようにかしこまるな。黄昏剣もオンスケで完成させたのじゃろう? お主の腕は信用しておるよ」

「あ、ありがとうございますっ!」


 レファーナに褒められたキサナが、嬉しそうに頬を染める。


(クラメン同士が互いの実力を認め合っている……! リーダーとして嬉しすぎる光景だっ!)


 私は滝のような涙を流して感動。頬を伝った涙をスピカにぺろりと舐められた。



***



 そして翌日。終末剣を打ち始めると聞いた私は、ふたたびモルガンの鍛冶工場かじこうばへ。


 ……ついでに職人から催促された、差し入れを片手に持ちながら。


 到着して中の様子を見ると、早くも終末剣の鋳造ちゅうぞうが始まっていた。すべての素材はドロドロに溶かされて、鋳型いがたの中で別の武器へと作り替えられている。


 黄昏剣の現物げんぶつを拝めなかったのは残念だが、ギリギリのスケジュールを組んだ私が悪い。


 いまはそこまで忙しくなかったのか、私に気付いた職人たちが軽く挨拶をしてくれる。


 もちろん、先日の野暮ったい職人さんも。


「ども」

「は、はいっ! おはようございますっ!」

「まだアサシンダガーは出来てない、ごめんな」

「終末剣のほうが最優先なので構いません。それと……」


 私は持ってきた袋を職人へ向けて差し出した。


「差し入れ、持ってきました……」


 言いようのない恥ずかしさを覚えつつ、私は両手で持参した袋をずいと差し出す。中に入っているのは、ラムネ瓶に入ったエナドリだ。


「買って来たばかりなので、まだ冷えてると思いますっ」

「マジ? 本当に持ってきてくれたんだ、あんがと」


 そう言って職人はふっと緩んだ表情を見せる。そして――


「おい、お前らー。リオさんが飲み物持って来てくれたぞ、冷えてる内にもらっとけー」


 すると工場こうばの至るところから「あざーーーす!」と声が上がる。瓶入りのエナドリはたちまちに売れていき、袋は瞬く間に空っぽになった。


「この仕事してっとノド乾くからさ。助かったよ」

「それは、良かったですっ!」

「言われて律儀に持って来てくれるとか、可愛いトコあるんすね」

「か、可愛いって……からかわないでくださいっ!」

「はは、すんません。冗談っす」

「冗談なんですか!?」

「じゃあホントっす」

「どっちなんだいっ!?」


 思わずパワーあふれるツッコミを入れてしまう私。すると職人はクックッと笑ってみせる……なんだか恥ずかしいな。


「リオさん、面白いっすね」

「べ、べつに私、おもしれー女じゃありませんからっ!?」

「いや面白いっすよ、少なくとも俺には」

「……なんか、バカにされてる気がします」

「んなことないって、良かったらまた来て。差し入れとか、なくてもいいから」

「わ、わかりました。あと進捗の方はどうですか?」

「問題ないっすよ、ギリギリにはなると思うけど。アサシンダガーは徹夜でもなんでもして、仕上げとくわ」

「無理はなさらないでくださいね? 本当にそっちは、オマケみたいなものなので!」

「でも欲しいかったんでしょ?」

「それは、はい……」

「じゃあ任せとけって、俺もSランク品を一人で作ってみたいし」


 職人が笑いながら言うと、モルガンから作業開始の号令がかかる。


「作業戻るわ。出来たら誰かに持ってかせる、飲み物ごちそうさん」


 そう言って片手をあげ、工場へ戻って行ってしまう。


「あ、あのっ!」


 私が思わず呼び止めると、不思議そうな顔がこちらを向く。


「……その、お名前を聞いてもよろしいですか? ずっと聞けてないままだったので」

「あーそうでしたね。――俺はヴィクトール、特に何者でもないヴィクトールっす」

「ヴィクトールさん、ですね。よろしく、お願いしますっ!」

「はは、なにそれ」


 そう言ってヴィクトールは軽く笑い、片手をぷらぷらと振り仕事へ戻っていった。


(……はぁ。ホントなにそれって感じだよ)


 近場にはいないタイプなので、彼の態度には翻弄されっぱなしだ。自分でもなにを言ってるのか、よくわからなくなってしまう。


 ともあれ、桜都おうとへ潜る準備は整ってきた。あとはフィオナが実家から戻り次第、バッチリと作戦を練っておこう!

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