第90話 Sクランの商人、サルマーニュ

「そこの可愛らしいお嬢さん! どうやら大変素晴らしい審美眼をお持ちのようですね?」

「はい、持ってます!」


 未実装レアを出品する商人に、私はノリよく返事をする。それと同時に掌握眼を起動し、出品されている武器性能を確認する。



 ☆疾風神雷しっぷうじんらい(S+)

 素早さ+5%、攻撃時、忍具『雷迅』の追加ダメージ。



 しかもランクはS+、追加効果も含めて超優秀だ。絶対に欲しい。


「おっちゃん!! この短剣、いくらで売ってくれる!?」

「2000万クリルで御座います」

「安い、買った!」


 一秒も悩まず即決。互いにステータスバーを開き、おっちゃんに2000万クリルを支払った。


 突然の新武器ゲットにニヤニヤが抑えられない。早く実戦で振り回して、その性能をこの目で確かめたい。


(ていうか今更だけど、現実クラジャンでは普通に未実装レアの売買が出来るんだね)


 ゲーム版クラジャンでは、高レア品や未実装品の取引は禁止されていた。なぜならプレーヤー間での現金取引RMTが横行してしまうためだ。だが現実世界ではそのような制限はないらしい。


「素敵な取引ありがとうございました。それと失礼ながら……もしやあなた様は、リブレイズのリオ様では御座いませんか?」

「……あー、はい。そうです」

「やはりそうでしたか。最初は半信半疑ではございましたが、高額取引にも臆さない豪胆さを見て確信にいたりました。高名な冒険者様とお会いできて光栄です」


 ターバンを巻いた商人は、小娘の私にも礼儀正しく品のいい笑顔を向けてくれる。


「こちらこそ素晴らしい品を扱う商人さんと会えて感謝感激です! でもこんな武器を手に入れられるということは……おじさんも強い冒険者だったり?」

「いえいえ、ワタクシはしがない商人に御座います。ですがSクランの末席に所属させていただいており、冒険者が持ち帰った品を売り歩かせてもらっているのです」

「なるほど……もし良ければクラン名とおじさんの名前を聞いても?」

「お相手がリオ様ともあらば断る理由も御座いません。ワタクシはサルマーニュ、所属クランは『オアシス・トレジャー』と申します」

「サルマーニュさんですね、よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願い申し上げます。ちなみにリオ様は、を持っていたりしませんか?」

「世にもめずらしい品、ですか?」

「はい。特注ダンジョンでのみ得られる、特別な装備のことに御座います」

「!」


 やっぱりこの人、未実装レアの価値がわかってる!


 私は同志を見つけたかのような高揚感をおぼえ、秘蔵のコラプスロッドを見せてあげた。


「ほほう……これはA+の、土魔法の力が秘められた杖ですか」


 Sクラン所属の商人なら鑑定スキルくらい持っている。私が説明しなくとも、勝手にコラプスロッドの性能を読み取ってくれたようだ。


「なるほど、これは確かにめずらしい品に御座いますね。……もしリオ様さえよろしければ、一本500万クリルで譲ってはいただけないでしょうか?」

「500万クリルですか……」


 普通に考えればA+装備を500万で買い取るバカはいない。なぜなら普通のA装備ですら売値は20万クリル前後、サルマーニュは未実装レアの価値がわかった上で価格をつけている。


 現実には攻略情報がないため、未実装レアといわれてもピンと来る人はいない。


 私は攻略サイトを丸暗記したような知識を持っているので、なにが有用で希少品レアかを区別できる。


 だがこの世界に生きる人や初見プレーの人にとってみれば、そもそも全てが新しい物であるだけだ。


 宝箱を開けて「疾風神雷を手に入れた!」と言われても、その価値がどれほどなのかがわからない。


 店で普通に買える品なのか、売ったら二度と手に入らないのかもわからない。だからコラプスロッドの価値を見極め、500万で買い取ろうとするサルマーニュは只者じゃない。


「……ちなみにSクラン所属ということであれば、装備して使うことが目的ではないですよね?」

「おそれながらその通りでございます。私は商人、その価値がわかる御方へご紹介することが目的でございます」


 であれば転売目的での買取りだろう。未実装レアの価値がわかる、目の肥えた蒐集しゅうしゅうとコネがあるのかもしれない。


 転売と言ってしまえば聞こえは悪いが、私にはむしろ好都合。


 なぜなら普通の買取屋にも未実装レアの価値はわからないからだ。持っていっても30万クリルほどの値段しかつけてもらえないだろう。であれば価値のわかる人に、高値で買い取ってもらった方が得だ。


 しかもコラプスロッドの入手先は蟲毒こどく。いまでは大陸一・二のにぎわいをみせるダンジョンで、いずれコラプスロッドを手にする冒険者が増えてくる可能性がある。


 であればまだ500万の価値があるうちに売ってしまいたい。モタモタしてればサルマーニュや蒐集家が、別ルートで手にしてしまう可能性があるのだから。


「……ちなみに、サルマーニュさん。複数持っているとしたら、何本まで買い取ってもらえます?」

「複数ですか。では遠慮せずに申し上げると……四本までであれば同じ値段で買い取らせていただきたく思います」

「では四本、お売りいたします!」


 そう言って私は、ポーチの中から四本のコラプスロッドを取り出した。


「ああ、やはりリオ様は素晴らしい! 価値を理解した上で、複数本回収なさっておいでだったのですね」

「はいっ! 先ほど疾風神雷を売ったお金で四本、買い取ってくれますよね?」

「もちろんで御座います」


 そう言って私たちはまたステータスバーを開き、コラプスロッド四本の取引を成立。2000万クリルが戻ってきたので、疾風神雷は実質コラプスロッド四本と交換という形になった。


「いやぁ~! たまたま立ち寄ったパルシャナで、素敵なご縁ができて良かったです!」

「ええ、本当に。もしパルシャナ北部へ寄ることがあれば、ぜひオアシス・トレジャーの領地をお訪ねください。その時は一同で歓迎させていただきます」

「その時はぜひっ! ……あと、ちなみにコラプスロッドを追加で買い取る予算はありますか?」

「ふふ、やはりまだ隠されていたのですね? いいでしょう、では五本目以降は350万クリルでよろしければ……」


 こうして私はサルマーニュとのコネを作り、たくさんの取引をしてから炎竜ハウスへ戻った。


(めっちゃイイ人だったなぁ。なんだかんだコラプスロッドも、二本だけ残して全部買い取ってもらっちゃった)


 蟲毒こどくでかき集めた十六本のコラプスロッドは、以下のような形になった。



 装備:2本……スピカ・レファーナ

 500万売却:4本

 350万売却:8本

 残し:2本



 サルマーニュは私の売りたい分だけしっかり買い取ってくれた。おかげで買い物に来たはずなのに、ガッツリとお金を増やしてしまった。



☆☆☆


 手持ち:1億4028万クリル


 疾風神雷・購入  -2000万クリル

 コラプスロッドの売却  +4800万クリル

 その他・素材購入  -320万クリル


 最終の手持ち:1億6508万クリル


☆☆☆



 資金にもかなりの余裕が出てきた。


 ここまで来れば飛竜タクシーの初期費用、残り1億を支払っても良さそうだ。帰ったらレファーナに相談しよう!

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