第86話 #突然のデート回(ライデン視点)
俺はライデン。飛竜の里に住む、
突然だがリブレイズのリオさんと、デートをすることになっちまった。
隣を歩くリオさんは「困っちゃいましたね、あはは」なんて言いながら笑っている。俺も表面上は愛想笑いをするものの、内心では物凄いチャンスをもらったと喜んでいた。
……だってリオさんとイイ仲になれたら、とは少なからず思っていたからだ。
俺がリオさんと初めて会ったのは、
リブレイズのウワサは前々から聞いていた。彼女たちは
だが、彼女は見た目に違わない強さを持っていた。Aダンジョンに指定されている竜峰の魔物をバッタバッタとなぎ倒し、怒り狂った昇竜王の猛攻をも耐え忍んだ。
そして誰もが成し遂げられなかった昇竜王の説得を、たった数十分の対話で終えてしまった。
ここ数十年で、一番に興奮した瞬間だった。そしてリオさんの何事にも臆さない姿に感動した。
五歳以上も離れた女の子に、俺は強く憧れた。この人は英雄と呼ばれるべき人なんだと確信した。
だが彼女への印象はある日、転機を迎える。それはリオさんが竜騎士になりたいと言い始めた時だ。
「ライデンさんが師匠になってくれれば、私だって竜騎士になれるハズです!」
才能を継承させる名目で、俺はリオさんと五日間の行動を共にすることになった。
……そして、一緒に飛竜の背に跨った時。後ろに乗ったリオさんが、俺の背に腕を回して抱き着いてきたのだ。
その時、リオさんが十五歳の少女であることを思い出した。
想像していたより細い腕に、小さな体。あれだけすごいと思っていたリオさんが、まるで甘えるみたいに俺の背中に抱き着いてくれた。
俺しか知らない、彼女の一面。そんなバカみたいなことを思ってしまい……気付けばリオさんに惹かれる自分に気が付いてしまった。
その五日間は夢のように楽しい時間だった。
リオさんは誰にでも気さくに接する、根っからの明るいコだ。だから彼女の笑顔が、俺だけに向けられる特別だとは思っていない。
だが里に住む女性にはない底抜けの明るさと、尊敬から来る憧れもあって……俺は不覚にも歳の離れた女の子に、心奪われてしまったのだと自覚した。
「――ライデンさん、ニコルのこと詳しくないですよね?」
「……え!? ああ、そうだな!」
ふと考えごとをしていたせいで、リオさんへの返事がワンテンポ遅れてしまった。
「じゃあ昔行ったことのある店に行ってもいいですか?」
「それじゃあ……お願いできるかな?」
「もちろん!」
そう言ってリオさんは、惜しみない笑顔を向けてくれる。
(……久しぶりに会えただけで、完全に舞い上がってるな)
リオさんの表情を見ているだけで、幸せな気分でいっぱいだ。しかも言いつけられたデートにもかかわらず、律儀にこなすつもりでいるらしい。
(そんな純粋なところも……って、さすがに全肯定が過ぎるか)
自分自身にツッコミを入れつつ、グッと気を引き締めなおす。これがデートであるなら、俺はさっきからリードされっぱなしだ。
この町に寄ったのが初めてとは言え、さすがにリオさんに頼りすぎだ。なんとか会話くらいでは、上手くリードしていかないと。
リオさんに案内されたお店は冒険者酒場だった。まだ昼間なので人入りは少なく、ぽつぽつとヒマそうな客がつまみを口に時間を潰している。
「……いらっしゃい。って、リオちゃんじゃねーか。久しぶりだな!」
「お久しぶりです、店長さん!」
リオさんは店長に元気よくあいさつし、その後も客に笑顔で会釈を振りまいている。
どこでも変わらぬリオさんに、俺はどこか微笑ましい気持ちになる。が、同時――
後ろをついて回る俺に気付くと、どの客も途端に顔をしかめ始める。
(なんだテメェ? お前はリオの何様なんじゃ、ゴラ?)
(リオちゃんが楽しそうにしてんのは、別にお前が特別だってワケじゃねんだぞ!?)
(おめーの席、ねぇから!)
……そんな心の声が聞こえてくるような気がしてならない。俺は首を縮こめながら彼らに会釈をし、窓際の席へと座った。
「ライデンさんはなにか食べます?」
「せっかくだからもらおうかな、リオさんは?」
「私はお昼がまだだったので、いただこうと思います。午前中は魔王を倒すのに忙しかったので!」
「魔王?」
「あっ、こっちの話です」
なんかよくわからないが、忙しかったらしい。
とりあえず食べてくれたほうがありがたい。リオさんと一緒の時間が増えるし、奢りがいもある。
リオさんはパンとスープ、それにボアのステーキと結構がっつり。俺はブドウ水と、小麦菓子を多めに頼んでおいた。
注文に来た店主には探られるような目を向けられたが、ビビってばかりはいられない。これを本当のデートにできるかは、俺の立ち振る舞い次第だ……!
「でも驚いたよ、リオさんとまたこんな早く会えるなんて」
「私も驚いちゃいました。ライデンさんは領主さんに会いに来たんでしたっけ?」
「ああ。ニコルの町を本当の意味で管理してるのは、スタンテイシア東の領主。エルスター
ニコルにも町長はいるが、その領地を貸しているのはその上のエルスター辺境伯だ。
だが辺境伯だけでは周辺の土地すべてを管理し切れない。そのため土地ごとに別の貴族や、トップを立てて管理を任せてると聞いている。
俺も隣国の領主への挨拶と聞いてビビっていたが、高圧的なタイプの貴族ではなかったので楽な会合だった。
「へえ、そうだったんですね! てっきり一番偉いのは町長さんだと思ってました」
「町長とは会ったことあるの?」
「いえいえ、平民の私なんかじゃ会えませんよ! ただの冒険者が会えるのは、せいぜいギルドマスターくらいです!」
「リオさんがただの冒険者ないわけないでしょ。じゃなければ店主さんや常連さんも、リオさんのこと気にかけないって」
「えっ?」
「……さっき俺、睨まれちゃったよ。リオさんにちょっかいを出す、変な男が来たぞ~見たいな目で」
「えっ、ホントですか!? でも、ちょっと懐かしいかも! 私も初めてこの店に来た時、みんなから同じような目で……」
その後もリオさんとは、会話の切れない楽しい時間が続いた。
(もしかして、結構イイ感じなんじゃないか?)
これで自分が特別になれたと思うほど傲慢じゃない。でもリオさんの『一緒にいて楽しい人』に、自分が入れてもらえたようで安心はする。
頼んでいた食事も届き、互いにリラックスした時間の中でおしゃべりは進む。だがリオさんは時折、ブッ飛んだことを言う。
「ちなみにリオさんは、いつ頃までニコルに?」
「一週間くらいですね。欲しい物もあるので、明日は歩き回る予定ですし……」
「へえ、リオさんの欲しい物ってなんだろう。いつも肩にかけてる、ポーチみたいな小物とか?」
「違いますよぉ、アダマンタイトです」
「…………アダマンタイト? 希少鉱石の?」
「はい! 北のSランクダンジョンの魔物が持ってるんです。だから明日は朝ごはん食べたら、盗りにいこうかなーって」
Sランクダンジョン。
そんな危険な場所へ、散歩に行くノリで言わないで欲しい。――リオさんへの親近感ポイントが50下がった。
「へ、へえ。アダマンタイトかぁ……」
「はい! 青くてキラキラしてて綺麗なんですよ!」
「そ、そっかあ。俺は見たこともないからな……」
「あ、じゃあこれ見てください!」
そう言ってリオさんがゴキゲンで取り出したのは、いつも腰に刺さっている短剣だった。
「見てください、アダマンタイト三個で作ったアサシンダガーです! こないだ研ぎ直したばかりなんですけど、見惚れるくらいキレイじゃありません?」
確かに机の上に置かれた短剣は、宝石でも見ているかのような美しさだ。……だが俺は自分の好きを共有してくれる、リオさんのかわいらしさで胸がきゅっとしてしまう。
「確かにすごいキレイだ。ちょっと触らせてもらってもいい?」
「あ、気を付けてくださいね。刀身に触れると50%の確率で即死しますから」
「即死」
「はい! あ、でも最近スピちゃんが一緒のおかげか、運よく即死率が上がっている気がします!」
「運よく即死率が上昇」
デート感のない単語に、気持ちが一瞬でスンとなる。――リオさんへの親近感ポイントが50下がった。
(ていうか当たり前に会話の中に出てくるスピちゃんって、大聖女スピカ様のことだよな……)
リオさんへの親近感が高まると同時に、ふとした単語で高嶺の花であることを思い出す。
そしてリブレイズには大聖女だけでなく、
しかも大聖女を預けたクランリーダーが結婚するなら、教皇が
……それからもリオさんとは楽しい時間が過ごせたものの、大きな一歩を踏み出せずにデートはお開きとなった。
(まずは俺自身の気後れをどうにかしないとな……)
リオさんがすごい人であることは間違いない。もし俺が本気でこの気持ちを通すなら、しっかり見合うくらいの男にならないと。
一集落の里長になれた程度じゃ、所詮お山の大将だ。その先も見据えていける男にならないと。
ライデンは気弱になりそうな自分の心を奮い立たせ、もう少し真面目に将来を考えようと心に決めたのだった。
―――――
ライデン編に続きがあるかは未定です(笑)
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