第80話 ラグナレク周回を終え、いざ四十層へ!

 炎竜団のジェラルドと別れた後、私たちはラグナレク周回を再開した。


 時折、降らされるサテライトレーザーは痛かったものの、攻略パターンが固まった以上は事故の心配もない。


 初日は七時間の周回で22体を討伐し、二日目には八時間で25体を討伐することが出来た。


 さすがに周回後は疲労のあまり、みんなぶっ倒れるように眠ってしまった。


 それは私も同じ。これまで最長十五時間のレベリングをした私でも、ラグナレク戦には相当の神経と労力を使う。


 アサシンダガーで暗殺待ちをするレベリングとは、疲労の度合いが違い過ぎる。


 さて。それでは47体のラグナレクを倒したということで、今回拾えたアイテムを確認しよう。



 光の石 ×47

 オートボウガン(A) ×40

 ギャラルホルン(S) ×14

 鉄鉱石 × 47

 オリハルコン ×22



 いやーーーさすがにヤバイっす!


 二日でギャラルホルン14本に、オリハルコン22個はゲームでもやったことない数字ですよ!


 これを全部売り払うだけでも、2億クリルくらいのお金にはなる。もちろん錬金に使ったりするので、全部お金に変えたりはしないけど!


 しかも今回の探索で得たアイテムはこれだけじゃない。


 道中のレベル上げでもたくさんのアイテムが盗めている。これらを全部整理した時に、いくら手に入るかを考えるとニヤニヤが収まらない。


「リオはずいぶんと満足そうだな」


 朝食中。私が楽しげにステータスバーを眺めていると、フィオナも一緒になって覗き込んでくる。


「それはもちろん! これだけの素材が手に入れば、Sランク以上の武器や防具も作って行けますからね」

「……ちなみに先日聞いた、ギャラルホルンの錬金も可能なのか?」

「はい、ですが時間は結構ギリギリです。なので急ぎ四十層まで向かいましょう!

「わかった」


 私たちはニコルに来てから、既に二十日を過ごしている。トライアンフの特注ダンジョンに潜るまで、あと十日しか残っていない。


 これまでスケジュール通りには動けているが、終末剣の錬金にはゲームより時間がかかる可能性がある。


 一段階目の錬金で出来る黄昏剣は問題ないだろう、だが二段階目の終末剣は間に合わないかもしれない。


 そもそも終末剣の錬金には、が必要だ。そのため少しでも早くニコルへ帰らないと。


 もちろん四十層に行かず帰る選択肢もあるが、ここまで来たからには倒して帰りたい。


 ギルドから四十層ボスの初討伐特典をもらうこともできるし、確定ドロップで落ちる『至高しこう聖杯せいはい』は回収しておきたいからね。



 ということで。朝食を終えた私たちは、四十層に向かって歩き出した。


 必要なレベル上げは終えたため、五倍速無エンカでザコ戦は全スルー。すたこらさっさと目的地へと向かう。


 すると移動中。スピカがヒマつぶしがてら、こんなことを聞いてくる。


「ねーねー。スピカたちは奈落でいっぱい強くなったけどさぁ、トライアンフってこんなレベル上げしないと勝てないくらい強いのー?」

「どっちかっていうと絶対に負けないようにするため、かな? 一応はワナにハマって不意打ちを受けるつもりだし」

「ワナにはまらないと、絶対ダメなの? トライアンフはふいうちをする悪者なんだからさー、大聖女の名のもとに正義執行せーぎしっこーできないの?」

「表向きには悪者って決めつけられないし、不意打ちされると決まったワケでもないからねぇ……」


 トライアンフという組織を正面から断罪するのは難しい。


 表向きは法も守りながら活動しているようだし、多少の無茶はスポンサーの貴族がもみ消してしまう。だからこそトライアンフが今日までのさばり続けているわけだし。


 だが表面上は上手くやっていても、内部のくすぶりだけは抑えられない。だからこそナガレが私たちの元へとやって来たんだ。




 ――あの日。ナガレからトライアンフの内部事情を聞かせてもらった。


 話によるとトライアンフの構成員は、加入した経緯でまったく別の組み分けをされているらしい。


 ひとつはクラン発足時からの『結成組けっせいぐみ』、そして後から勧誘を受けて入った『歯車組はぐるまぐみ』だ。


 そしてナガレは歯車組に属しており、妹を人質にされて抜け出せない状態にあるという。


 まず結成組は文字通り、トライアンフ結成時から所属していたメンバーだ。


 彼らはリーダーのルキウスに同調し、歯車組を使って楽に生活することを目的としている。クラン崩壊を企てているナガレとは、相容れない存在だ。


 そして歯車組はナガレと同じように、人質を盾にされて脱退することができないメンバーだ。


 歯車組のメンバーは元々、スラムで暮らす子供や若者だった。


 ルキウスや結成組はそんな子供に目をつけ、トライアンフで働くと住む場所や食べ物を与えるといって手を差し伸べた。


 もちろん、ほとんどの若者は喜んでトライアンフに加入。


 しかもトライアンフは覚醒の儀まで受けさせてくれて、得た才能を生かす仕事まで与えてくれるではないか。


 まさに地獄にも仏。


 ……だがトライアンフに加入してしばらく経つと、自分たちが逃げ出せない環境に追い込まれていることに気づく。


 いつの間にか一緒に勧誘を受けた家族は、働くための人質にされていたからだ。



 そもそも結成組は見境なく子供を勧誘していたわけではない。家族や恋人などの裏切れない関係持つ、二人以上のセットで勧誘していたのだ。


 加入当初は一緒の場所で住まわせ、十分な食事を与えてくれる。だが一ヶ月ほど経つと仕事場の寮に住んでもらうと言われ、離ればなれにされてしまう。


 これまでの待遇が良かったことから、その時点でトライアンフを疑う人はほとんどいない。家族と引き離された後、仕事にノルマが設定されてようやく疑いの心が芽生え始める。


 だが気付いた時にはもう遅い。ノルマが日増しにキツイものになっていき、達成できなければ一緒に加入した家族に制裁が行われた。


 それは体罰であったり、食事を与えられなかったり。普通であればそこで逃げ出すという選択肢も出てくるが、離ればなれになった家族を置いては逃げられない。しかも家族はどこに住まわされているかもわからず、自分だけ逃げればもう一人の家族がどうなるかわからない。


 かろうじて手紙の交換は許可されているので生存だけは確認できるが、この生活がいつまで続けられるかわからない。


 それにノルマは日増しにキツくなっていく、戦闘種のナガレも普通にクエストをこなすだけじゃ生ぬるい。


 ライバル冒険者を退かせてクエストを独占し、依頼主に価格を吊り上げさせる。ランクに見合わないダンジョンにも挑戦し、返り討ち覚悟で挑まなければならない時もある。


 だが毎月ノルマを達成してしまえば、もっと稼げるだろうとノルマはドンドン引き上げられていく。……まさに地獄だった。


 ――トライアンフの歯車で居続けるわけにはいかない。


 そう考えたナガレは現状打破のため、リブレイズへの内通をくわだてた。自分や妹の身に危険が及ぶことも、覚悟した上で。


 その後、ナガレからの連絡は入っていない。


 接触できたのは飛竜の里に忍び込んできた日が最後だ。同盟のためトライアンフの領地に行った時も、彼の姿を見ることはできなかった。


 完全に信じ切ることはできないにしても……あれだけの話を聞いてしまった以上は心配だ。なにかあったのではないか、と勘繰ってしまうくらいには。




「まったく、大人ってめんどくさいねー。スピカは悪者をぶっ飛ばすことだけに集中したいのに!」

「その時は私やレファーナさんがお願いするね。あれは悪者だからやっつけていいよーって」

「それがいい! ぜんあくの判断は子供にはむつかしいからねー!」


 と、スピカは潔いほどに思考放棄を宣言。


 ……善悪の判断を持とうとしない人が、世界最強の力を持ってるこの世界。本当に大丈夫?



 さて。そんなことを考えている間に、目標だった四十層に私たちは到着。


 魔王城を模していた三十六層から四十層。そして私たちの前にあるボス部屋の扉も、実際の魔王が控える謁見えっけんに続く扉と同じものだ。


 あまりにも禍々しい雰囲気に、フィオナは思わずツバをごくりと飲む。


 が、ラグナレク周回が出来るほどの戦力はあるので、そこまで危機感は持たなくても大丈夫だろう。


 キサナだってだいぶリラックスした表情で臨んでいる。ラグナレク戦を前にしていた時は、あれだけイヤそうな顔をしていたのに。


「……今回ばかりは気楽そうな表情だな、リオ?」

「そうですね。ラグナレクを軽くあしらえるようになったんですから、きっとこの先にいる相手も余裕ですよ」

「そうか、リオがそこまで言うのであれば安心だな。もう挑戦するのか?」

「みんなが問題なければ、今日中に偵察がてら一回倒しちゃおうと思いますけど?」


 今日は三十層から突っ走ってきただけなので、戦闘による疲労はない。


 一応みんなにお伺いを立てると、キサナは控えめな笑みで承諾。スピカも拳を掲げて挑戦の意思表示、決まりだね。


 私は軽く作戦を伝えた後、ボス部屋の扉を開けて中へ入る。


 部屋の中は不気味な月明りに照らされた、魔王のいる謁見の間。


 そしてレッドカーペットの先、玉座ぎょくざに座っていたのは赤いスーツを纏ったスマートな体格の悪魔だった。


 三十六層からずっと、本物の魔王城と変わらない光景が続いていた。だから玉座に座っているのも当然、同じに決まっている。


「…………は?」


 玉座でワイングラスを傾ける悪魔を見て、フィオナが間抜けな声を出す。


「なあ、リオ。私の見間違えだと思うのだが、あれは……」

「もちろん、魔王ですよ」

「な――!?」

「と言っても本人じゃありませんけどね。あれは現魔王のお父さん、先代魔王・アヴォロスです」


 ボスの名を聞いたフィオナは「それを早く言えや……」と言う目で、まばたきもせず硬直するのだった。



―――――


 カクヨムコン9の中間選考を通過できたようです、たくさんの応援ありがとうございました!


 これからも継続して更新できる予定なので、引き続き応援よろしくお願いします!


 また「★で称える」にて★★★していただけると一層の励みになります。評価をしてもいいと思っていただけた方は、ぜひお願いしますー!

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