第79話 再戦、ラグナレク!

 ふたたび三十層に戻ってきた私は、すぐさま脱出ゲートの方に向かって行く。


 やることはもちろん、ゲートを使っての帰還。……ではない。


 私は持っていたアサシンダガーを、大鏡の形をしたゲートに向かって振り下ろす。


 ガキン!


 ゲートの鏡面は音を立てて砕け散り、ボス部屋の入口と出口が消えていく。


 すると部屋の中央にホログラムのような映像が出現し、少しずつ実体を持った部屋の主――ラグナレクの姿を形作られていく。


「みなさん、来ますよ!」


 私の警告と共に、みんなが武器を抜いてそれぞれの陣形につく。


 そしてラグナレクのセンサーが青から赤に変わり、私たちはラグナレクとの再戦を開始した。


 すぐさま全員が予定していた行動を開始。私は挑発で注意を引き付け、スピカが天罰で弱体付与。フィオナは吹雪ブリザード減速スロウを付与し、キサナはかぶと割りで防御ダウンを入れる。


 素早さLVを上げたおかげで、今日はラグナレクの行動が少しばかり遅く見える。


 熱線も余裕をもって回避し、追尾ミサイルのハッチを開いている間にトリモチをぶん投げる。


 早くも素早さ二段階ダウンを受けたラグナレクは、また一層足を重くする。


 発射されたミサイルとの距離もまだ十分にある。私はまとめて三つの雷迅を取り出して二つをミサイルの弾幕に、そして残ったひとつを本体に向かって投擲した。



 クラジャンに雷・電気という属性はない。炎・氷・風・土の四属性に聖・闇の二属性。これが弱点や吸収などの対象になっている属性だ。


 六属性に含まない攻撃や魔法はすべて無属性で、雷迅らいじんも無属性の魔法攻撃として扱われている。そのため雷迅はラグナレク相手にも、有効な攻撃手段になるのだ。


 弾幕に使った二つの雷迅はすべてのミサイルを撃破、そして雷迅を浴びたラグナレクもわずかだがダメージを受ける。


 ラグナレクはお返しとばかりに、熱線の発射口を向けてくるが――遅い。すでに回避ルートを見極めていた私は、レーザーをかわしてラグナレクに向かって突っ込んでいく。


 そして前回は一度も出来なかった、強奪!


 二刀流スキルを獲得した私は、両手武器での連撃をお見舞いする。右手に持ったアサシンダガーと、左手に握った逆鱗刀げきりんとうでの強奪二連撃。


 逆鱗刀はノボリュと戦った時にかっぱらった、盗むレアで手に入れた武器だ。錬金武器のため保管していたものだが、グラディウスよりは攻撃力があるため左手装備にしておいた。


 接近戦を仕掛けられたラグナレクは、すぐさま武器を握ったアームを振り下ろしてくる。だが逃げると避けるは私の十八番、後方への跳躍で難なく回避。


 そしてふたたび熱線とミサイルの発射をしようとしたところ――


「お前の相手はリオだけじゃないぞっ!」

「攻撃はボクたちの役目ですからねっ!」


 魔力消費マージストライカー状態のフィオナがギャラルホルンを振り下ろし、キサナの鉄球がラグナレクの機体を吹っ飛ばす。そして――


「いくぞー! スピカの新技っ、いくりぷすっ!」


 スピカがさけんだ瞬間、世界が暗転。視界は不自然なほどの闇に閉ざされ、不気味な静寂が一帯を支配する。


 直後。


 ラグナレクが立っていた場所から、機械のひしゃげるような金属音が立て続けに響く。


 そして再び世界に灯りが戻ると……ラグナレクの機体には無数の爪痕が刻まれおり、円形のフォルムは潰されたようにひしゃげていた。



 これが無属性攻撃魔法、イクリプスの演出だ。


 世界が闇に閉ざされた一瞬の間に、未知の何かが対象を切り刻む。という、ゾッとさせるような攻撃演出だ。


 立て続けに強力な攻撃を受けたラグナレクは、見るからに弱っている。


 だがボスとしての矜持きょうじは残っているのだろうか。挑発対象の私にセンサーを向け、ふたたびミサイルを発射。


 しかしここまで弱らせれば後は追い込むだけでいい。回復も不要と判断したキサナが鳳凰演武ほうおうえんぶで連続攻撃に入り、フィオナも捨て身で接近戦を持ちかける。


 体力だけは低めのラグナレクは瞬く間に機能を停止し――前回よりも半分以上短い、10分ほどでラグナレクを討伐してしまった。



「まさか、あれほど苦戦したボスがこんな楽に討伐できるとはな……」


 自分の力が信じられないとばかりに、フィオナが呆然としながらつぶやく。


「前回と違って回復に割く時間も減りましたからね、弱体付与までの流れもスムーズでしたし」


 これは私が早くトリモチを投げられたことによるものだろう。前回はラグナレクの手数に追いつかず、トリモチを投げられず熱線の直撃を受けてしまった。


 ジェラルドに盾役を代わってもらう一幕もあったし、サテライトレーザー被弾後の立て直しにも時間をかけてしまった。


 それらに割いた時間がなくなれば、戦闘時間が大幅に減るのも当然だ。


「リオー! スピカの新技見てた? 真っ暗になるやつ!」

「見てたよ、イクリプス! カッコいい技だよね!」

「ねー! でも真っ暗になった時に攻撃したのって誰? 神さま? 魔王?」

「魔王ではないと思うけど……とりあえずスピちゃんに味方したい、つえーヤツでしょ!」

「つえーヤツかぁ! いつかごそんがんをはいけんしたいね~」


 スピカはイクリプスで登場した何者かの強さに、心をときめかせている。真っ暗演出が入ってからの攻撃モーションなので、会うのは難しいと思う。だが夢を見るだけならタダだ。


 それにもし正体が解き明かされるのなら、クラジャン廃人の私だって知りたい。現実になってようやく正体が明かされるとか、ムネアツ展開過ぎるだろう。


 みながラグナレクの討伐に浮き足立っていると……盾役として待機してくれていたジェラルドが、苦笑交じりに言った。


「おいおい。もう俺の出番なんて、ないじゃねえか」

「あはは……さすがにもう二枚盾は過剰になってきちゃいましたね」


 前回はジェラルドのフォローに助けられた。だが大幅な強化と戦術の最適化で、余裕と言っていいほどの立ち回りが出来るようになってしまった。


 すると必然的に、ジェラルドが同行を続ける意味がなくなってしまう。


「……あとはお前らだけで、十分だろう。俺にも継承希望の弟子が待っている、先にゲートで帰らせてもらう」

「約半月お付き合いいただき、本っっっっ当にありがとうございました!!!」

「……構わない。お前たちのおかげで、経験値も稼がせてもらった」


 気負わせないようにしてくれているのか、ジェラルドは軽い調子で返事をしてくれる。


 が、最後にのっしのっしとキサナの方に歩いて行く。


「……お前との晩酌、楽しかった。機会があれば、また飲もう」

「は、はいっ! ボクなんかでよければ是非ッ!」


 ジェラルドはわずかに口元を緩め、キサナの胸に拳を軽くぶつける。男同士ということもあり、二人には友情と呼べるような物が芽生えているようだった。


 ジェラルドは長々とした別れのあいさつは好まず、軽く片手を上げて脱出ゲートの中に消えていった。


「……さて。じゃあ気を取り直して、ラグナレク周回。再開しますよっ!」

「「「おおっ!」」」


 こうして私たちは熟練の盾役に別れを告げ、ラグナレク周回を再開するのであった。



―――――



 ※おまけ:成長したジェラルドのステータスです。


☆☆☆


 名前:ジェラルド

 第一才能:聖騎士(レベル:64→100)

 第二才能:鍛冶師(レベル:34→52)

 冒険者ランク:S



【ジェラルドの装備品】


 ホーリーブレイド(A+) 聖属性

 アテナの大盾(S) 完全防御率30%、炎・聖属性ダメージ50%減少

 純金の鎧(A+) 注目率上昇(大)

 エンジェリックリボン(A) 全状態異常無効

 聖火炎竜団の紋章(S) 炎属性・聖属性攻撃力10%上昇



【習得スキル】


・聖剣技【LV:5】

・鍛冶技術【LV:4】


・挑発

・防御集中


・防御力上昇【LV:10→12】

・魔法防御力上昇【LV:8→10】

・体力上昇【LV:6→10】


☆☆☆

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