第77話 合宿三週目、三十六層でまたまたレベル上げ!

 三十層ボス、ラグナレクを倒した翌日。私たちはふたたび深層に向けて足を踏み出した。


 もちろんダンジョンの景観も変化。三十一層からはマグマの煮えたぎる火吹ひぶき、三十六層はラストダンジョンの魔王まおうじょうだ。


 火吹はフィオナにも探索経験のあるダンジョンだ。そのため三十一層に入った瞬間、フィオナのテンションは最高潮に。


 なつかしい光景に思い出が刺激され、饒舌じょうぜつに昔語りを始めてしまった。フィオナはあまり自分のことを話さないタイプなので、楽しそうに話す姿を見てるとキュンキュン来てしまう。


 二時間ほどノンストップで語り聞かせた後「すこししゃべりすぎたな……」と照れている様もウルトラグッド。奈落の景観変化を楽しんでくれたようでなによりだ。



 そして三十六層に到着した私たちは、ふたたびレベリングを開始した。


 パーティーは先日と変わらず、二チームに分けて行う。私とスピカの二人、そしてジェラルドを盾としたフィオナ・キサナの三人だ。


 今回もレベリングは三日を予定している。その後はラグナレク周回、帰りぎわに四十層ボスも撃破するつもりだ。


 ちなみに三十六層でお相手をしてくれる魔物は、以下の通り。




 名前:シュレディンガー(ミミックの上位種)

 魔物ランク:S

 ドロップ:銅の錠前

 レアドロップ:鉄のインゴッド

 盗めるアイテム:砂金

 盗めるレアアイテム:ミリオン・データ




 名前:ケイオス・デュラハン

 魔物ランク:S+

 ドロップ:皮のムチ(E)

 レアドロップ:デモンズシールド(A)

 盗めるアイテム:サタンマスク(A)

 盗めるレアアイテム:深淵のリング(A)




 名前:煉獄れんごく牙竜がりゅう(レッドドラゴンの上位種)

 魔物ランク:S+

 ドロップ:炎のリング(B)

 レアドロップ:ブレイズブレイド(A+)

 盗めるアイテム:炎進化の結晶

 盗めるレアアイテム:煉獄外套(S)




 うす暗い魔王城という景観もあいまって、気持ち的にも強敵と戦っている気分になってくる。ザコ敵のランクもS+になり始め、一戦一戦も重くなり始める。


 しかもアサシンダガーの即死が入るのも煉獄牙竜のみ、レベル上げとはいえ多少の慎重さが求められる。


 ミミックの上位種、シュレディンガー。こいつは防御も高いので、スピカの『天罰』で弱体を付与してもらう。


 そして弱ったところに私は強奪を連打。盗むレアのミリオン・データは100万クリルの売却値がつく、最近はウマウマなアイテムも少なかったのでたくさん盗んでおきたい。


 またシュレディンガーは倒れた際に、スケープキャット(S)と呼ばれる魔物を召喚することがある。


 この魔物はシュレディンガー本体より経験値が多いため、むしろ呼んでくれた方がありがたい。しかもアンデッド属性なので、極光のリングや聖光瀑布ホーリー・フォールで弱点をついていける。


 同じくデュラハンもアンデッドなので、聖属性の攻撃を連打。煉獄牙竜はアサシンダガーで暗殺待ちをしてれば問題ない。


(しっかしスピちゃんも戦闘がサマになってきたよね)


 ラグナレク戦では聖光瀑布ホーリー・フォールでミサイルを撃墜してくれたりと、機転の利いた行動に助けられてしまった。仲間にした頃は手に負えない横暴大聖女だったが、最近はおとなしく破壊以外の役割もこなしてくれている。


 なにか心境の変化でもあったのだろうか?


 気になった私はその日の夜。夕食中のスピカに聞いてみた、すると――



「あたりまえじゃん! スピカだってそこまでおバカじゃないし、攻撃がきかないなら回復やさぽーとをやったりもするよー!」

「そ、そっか」

「それに破壊はキサナとヒオナもやってくれるからねー」

「でも、いいの? スピちゃんは破壊の方が好きだと思ってたんだけど」

「もちろん破壊は好きだよ? でもスピカとちがって、みんなは攻撃されたら超いたいんでしょ? だったら弱らせたり回復のほうが役に立つとおもって」


 スピカはくりっとした丸い瞳で、さも当然のことのように言う。だが私はスピカの言葉が嬉しくて、たまらず小さな体を抱き締める。


「……うぅぅぅっ、スピちゃん好きーーーっ!」

「えー、リオどしたのー?」

「嬉しいの! スピちゃんがみんなのことを考えてくれてて!」

「そりゃ考えるよぉ。スピカだって役に立ちたいし、みんなが痛そうにするの見たくないし……」


 自分の気持ちを話すスピカは、頬を染めて照れくさそうにうつむき始めた。どうやらスピカは「らしくない」ことを言っている自覚があり、恥ずかしいという感情が芽生えているみたいだ。


「もうもうっ! スピちゃんは本当にかわいいなぁ、マジ聖女!」

「むっ。なんかリオ、バカにしてる気がする」

「してないよ! ただスピちゃんがみんなのこと、大事にしてくれてるんだなぁって思って!」

「……リオ、ちょっとうるさい! あんま恥ずかしいこと言わないで!」

「ン~! 恥ずかしがってるスピちゃん、激萌え!」

「うぅっ~~~!! 今日のリオむかつく、あっち行って!」


 私の絡みがウザくなったのか、スピカはキサナの影に隠れてそっぽを向く。


(まさかスピちゃんの恥ずかしがる姿を見れるなんて……)


 なんだかおじさん。子供の成長を見てしまった気がして、ちょいと感動してしまったよ。


 近くで話を聞いていたみんなも同じ気持ちなのか、優しい目をスピカに向けている。だからこそスピカはますます意固地になって、そっぽを向き続ける。


 だがキサナがパンケーキを千切って口元に持っていくと、フキゲンそうな顔でもぐもぐと咀嚼はするのであった。



 ――そして三日間のレベリングが終わり、私たちのレベルは以下のように変化した。



☆☆☆


 名前:リオ

 第一才能:◎盗賊(レベル:100)

 第二才能:竜騎士(レベル:50→87)

 第三才能:忍者(レベル:91→100)


 残りスキルポイント:707→845


☆☆☆


 名前:スピカ・ハルシオン

 第一才能:大聖女(レベル:29→35)


 残りスキルポイント:4→22


☆☆☆


 名前:フィオナ・リビングストン

 第一才能:◎魔法剣士(レベル:98→100)

 第二才能:氷魔術師(レベル:80→87)

 第三才能:風魔術師(レベル:80→85)


 残りスキルポイント:119→161


☆☆☆


 名前:キサナ

 第一才能:◎僧兵(レベル:90→100)

 第二才能:錬金術師(レベル:70→77)

 第三才能:魔道弓兵(レベル:58→70)


 残りスキルポイント:1861→1921


☆☆☆




 さて、さてさてさて!


 ついにレベル100という数値がたくさん見えてまいりました!


 私も第三才能の忍者を100にしたことで、マスタースキルの獲得条件を達成。手に入れたスキルの名前は――『二刀流にとうりゅう』だ。


 このスキルは文字通り、二本の武器を同時装備することができるようになる。そして二刀流は盗賊とも相性がいい、なぜなら強奪の盗む判定を二回に増やすことができるからだ。


 とはいえ私の盗む成功率は100%、盗めるアイテムがふたつに増えるわけでもない。魔物から同じアイテムを複数回盗めるのは、逃げるなどで戦闘を終了させた後の話だ。


 じゃあなんの意味があるの? と思うかもしれないが、目的は盗むレアの回収率を上げるため。


 魔物は常に『盗めるアイテム』と『盗めるレアアイテム』は両方とも所持している。


 だが抽選ボックスは同じではない。そのため同じ敵に何度盗むを仕掛けても、レアだけ引けないという事態が発生している。


 しかし強奪を二回打ち込むことで、レアの抽選ボックスを引く確率を増やすことが出来る。必然的にレアの取得率が上がるというワケだ。




 そしてお次は、事前に約束していたスピカの攻撃スキルを取る番だ。


「やったー、やったー、はかいっ、はかいっ!」


 物騒な歌と共に、スピカは自分のスキル盤を覗き込んでいる。


「なにか取りたい候補は決まってるの?」

「うん! 名前がカッコいいからこれにしようと思う!」


 そうしてスピカが選んだのは――『イクリプス』と呼ばれる、無属性攻撃魔法だった。




―――――


 ※補足

 今更ですが盗むについての補足説明です。(細かいので読まなくて全然OK)


 まず『盗む』を使用すると、成功・非成功より先にノーマル・レアのボックス抽選が入ります。


  例:ノーマル抽選率90%、レア抽選率10%


 その後、ボックス内の盗む成功可否判定が入ります。10%のレアボックスを引き当てたとすると、次はそのレアアイテムが盗めるかどうかの判定が入ります。


 成功を引ける確率が30%だとすると、失敗70%の穴を埋める形で『スキル盗む成功率上昇』のレベルによって確率上昇が入ります。


 最終的に100%盗めるようになるので、元の盗む成功率が30%であれば失敗の70%を埋める形で補正が入ります。


 スキル成功率上昇が10%の場合、37%で盗む成功。

 スキル成功率上昇が90%の場合、93%で盗む成功という形で上昇。


 ちなみにスピカのスキル『幸運』ではレアボックスを引ける確率が上がります。もしスピカが300人くらいいたら、レアボックスしか引けなくなりノーマルが盗めなくなるかもしれません(絶望)

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