第76話 初の大苦戦! 災厄は過ぎ去ったものの……?

 私はジェラルドに回復の時間を与えるため、挑発でラグナレクの注意を引き付ける。


 攻撃手段は先ほどと同じく、熱線や追尾ミサイルによる遠距離攻撃。だが序盤ほどのキレはない、素早さに減少補正が入ってくれたおかげだ。


 それでも攻撃の隙はなかなか見つけられない。


 これまでのボスであれば回避しつつ『強奪』を狙えるのに、今回は素早さを落としても回避が精いっぱいだ。しかも素早さ上昇スキルを取ってギリギリの戦闘、いままでのボスとはレベルが違い過ぎる。


 私が攻撃を引き付ける傍ら、キサナは鉄球をたたき込みフィオナも『捨て身の一撃』でダメージを蓄積していく。


 スピカは弱体が切れるタイミングで『天罰』の定期的付与。『癒しの雨』と回復魔法も切らさないよう、忠実に”大聖女”をやってくれている。


 おかげで全滅は回避できそうなパターンに入り始めた。盗むレアのオリハルコンに手を出せないことは心残りだが、回避を続けてればいずれキサナとフィオナが倒してくれることだろう。


 ……なんて思っていると、ラグナレクは代わった挙動を取り始めた。


 全員から少し距離をおくと攻撃の手を止め、ピコピコと機械音を鳴らし始めたのだ。


(なんだなんだ……? 思い出せ、私はラグナレクの攻撃パターンを全部覚えているはずだ!)


 これまで目にしたのは熱線・追尾ミサイルの遠距離攻撃。そして近接戦闘での武器を振り回すところは見たが……まだ全体攻撃は見ていない!


「――っ、みんな上です! 上からのっ、聖光瀑布ホーリー・フォールに注意してください!」


 ラグナレクがピコピコ音を鳴らして、信号を送った先。それは――衛星兵器。


 もちろんこの世界にそんな物を作る技術なんてない、だから天井に映っている衛星兵器はただのマッピング映像だ。しかしの攻撃演出が始まっている以上、私たちにもう攻撃を止めるすべはない。


 途端、破壊の雨が降り注ぐ。ラグナレク唯一の全体攻撃、サテライトレーザーだ。


 それは聖光瀑布ホーリー・フォールの名前を変えただけの、同じ威力を持った全体攻撃スキル。命中率は低くとも一撃が重い、無差別な破壊の雨。


 庭園の芝生は次々と打ち抜かれ、周囲は土埃つちぼこりで視界の自由さえも効かなくなる。意識的に避けることも難しいので、少しでもダメージを減らすため頭をかばって攻撃を堪えしのぐ。


 ……そうして破壊の雨が降り終わった後、二発の直撃で済んだ私はふたたび『挑発』を打ち込んでこう叫ぶ。


「みんなは回復に専念して! スピちゃんも余裕があれば援護を!」

「あいあいさー!!!」


 光属性吸収を持つスピカはノーダメージなので、負傷した三人の援護に回ってもらう。キサナも取ったばかりの回復魔法を全体がけにし、足りない分はポーションを撒いて調整。


 キサナとフィオナが復帰するまでの間、なんとか回避に専念してその時間をやり過ごす。火力役アタッカーが復帰したのと同時、ジェラルドに盾を変わってもらって私も回復に。




 ――そうして、戦闘開始からおよそ一時間。


 横っ腹に鉄球を叩きこまれたラグナレクは、ボンと爆発音を立て……くずおれるようにその場にへたり込んでいった。


 そして目の役割を果たしていた赤いセンサーが消え、さらさらとその体を宙に溶かしていった。


「…………や、やった」


 入り口と出口の扉が復活し、後には三つの宝箱。


 運がいい、初戦からフルドロップだ。


 しかし今日ばかりは宝箱に駆け寄る元気もない。戦闘が終わると同時、全員がその場にへたり込んでブッ倒れる。はい、満身創痍です。


「……これだけレベルを上げてギリギリなのか。二十層までとは段違いの強さだな」


 フィオナが誰に言うでもなく、天井を見上げながらつぶやく。するとスピカもうんざりした様子で、大きなため息をついた。


「スピカがずっとサポートなんてありえないよ~! 子守こもりは大人の仕事でしょ~?」

「でも、スピカ様のおかげで助かりました。ボクが攻撃に多く回れたのは、スピカ様が後ろから支えてくれたおかげですから」

「……ふ~ん。スピカ、やくにたった?」

「はい、スピカ様がみんなを支えてくれたおかげです。本当にありがとうございました」

「なら、いっか!」


 機嫌を直したスピカが体を起こし、ダメージの残る私たちに回復魔法を撒いてくれる。『戦闘終了後全回復』のスピカはすっかり健康体だ、うらやましい限りである。


「ねえねえ、スピカが宝箱あけてもい~い?」

「もちろん。重いのが入ってたらそのままにしといて!」

「は~い!」


 スピカは三つの宝箱に駆け寄り、まずは確定枠の宝箱をひらく。


「なにこれ、宝石?」


 仰々しい大きさの宝箱に入っていたのは、スピカが指でつまめるほどの小さな石だった。


「それは光の石だね。錬金や鍛冶でたくさん使う、いくらあっても困らないものだよ」

「ふ~ん、あんま興味ないなぁ」

「……だよね、他の二つも開けてみなよ!」

「そうする!」


 そしてスピカが次の宝箱を開けると「ほわぁ~~~!」と感激に満ちた声を上げる。


「なんかすごそうな剣が出てきたよ! おっきくてスピカじゃ持てない!」

「……どれどれ」


 ドロップが三箱だったので中身は想像がつく。でも、せっかくだからその感動を分かち合いたい。


 私は体を起こして近づいていくと、みんなも宝箱の前に集まり始める。……そうだよね、冒険者だったら宝箱の中は気になるよね。


 私たちが肩を寄せて中を覗き込むと、そこには薄緑色の刀身を持つ両手剣が収められていた。


 これはラグナレクのレアドロップ、ギャラルホルン(S)だ。特に追加効果は持たないものの、単純な攻撃力はSランク武器の中でも上位クラス。


 だがギャラルホルンは、装備して振り回すよりよっぽどいい使い道がある。それはSS+ランク武器の錬金素材として使うことだ。


 一段階目の錬金でSSランク武器となり、二段階目まで鍛えることでSS+に成長する。この騎士剣さえ作ってしまえば、フィオナが武器を持ち替える日はもう来ないかもしれない。


 みんなが刀身の美しさに息を呑む中、キサナがこっそりと私に聞いてくる。


「一応、聞いておくんですけど。今回の探索で錬金の素材集めもやりますか?」

「そだね。さすがに素材集めはレベル上げを挟んでからにするつもりだけど」

「ですよね……ギャラルホルンを一回で拾えたら、そうなりますよね……」


 キサナは苦笑いをしながら、疲れたような表情でため息をつく。


 実際のところ、私も同じ気持ちだ。だってギャラルホルンを最強へ育てるためには、光の石×20+オリハルコン×3+ギャラルホルン2が必要なのである。……つまり最低でもあと19回は、ラグナレクと戦う必要がある。


 この武器は奈落で完成させられることを意識してか、必要素材がラグナレクに集中している。そしてギャラルホルンを一本拾ったからには、ラグナレク周回が決まったも同然ということである。


「「…………はぁ」」


 私とキサナが同時にため息をつく姿を、フィオナたちは不思議そうに見つめるのであった。

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