第74話 二十九層へ到達、さっそくレベルを上げていきましょう!

 私たちはその後もグングンと足を進め、二十六層の庭園エリアへ足を踏み入れた。


 二十一層から始まった灼砂しゃくさは、現実映えする光景だったが――いかんせん暑すぎる。こんなところに長く滞在はしたくないと、その日のうちに歩き切ってしまった。


「現実の探索はままならないですねぇ……」


 汗をたっぷりかいたキサナに、私も同意の声を上げる。


「そうだね。もし氷河ひょうがに潜った時なんか、どうなることやら」

「やめてくださいよぉ! 想像すらしたくないっ!」


 防具の他に防寒具まで着こみたくない。重装甲で身を固めた盾役タンクなら気にならないかもしれないけど、身軽さがウリの回避盾としてはちょっと……ね。


 そして四日目の夜。


 二十六層でテントを張った私たちは、夕食を摂りつつ明日からのレベリングについて話し合っていた。


「あらかじめお伝えしていた通り、パーティーは二つに分けてレベリングをしたいと思ってます!」


 クラジャンの経験値はパーティで分散されるため、少ない人数で戦った方が入る経験値は多くなる。であれば五人パーティで戦うのは非効率だ、全滅リスクがないのであれば少人数で別々に戦うのが望ましい。


「よって二十九層のレベル上げでは、以下のメンバーで行います!」


 まずはジェラルドを盾とした、フィオナ・キサナの三人パーティー。


 そして残った私とスピカが第二パーティーだ。


 この組み分けをしたのはスピカの経験値を増やすためだ。どんなに大聖女が優秀でも、レベルを上げてポイントを増やさなければその性能は生かせない。


 そのためスピカは二人パーティに。そして一番に周回効率上げられるのは、アサシンダガーを使った即死レベリングだ。


 すると私とスピカの組むのが一番に効率が良く、後の三人が一緒になってもらうのが最良だと考えた。


 これには特に反対意見もなく、みんな揃って了承してくれた。


 が、スピカだけは少し不満そうな声を上げる。


「リオと二人はいいけどさ~。スピカもそろそろ新しいスキルとりたいよー、もう聖光瀑布ほーりーほーるばっかするのも飽きてきちゃったよ!」


 スピカにはクラン加入当時から、勝手にスキル盤を進めないようにお願いしてある。


 もちろんクラジャンを愛する者として、プレイヤーには自分の望む姿に成長してもらうのが一番だとは思っている。


 だが大聖女のスキル盤は有能スキルの宝庫だ。しかも大聖女はレベルが上がりづらく、使えるポイントも渋すぎる。無計画に取り進めていいとは、さすがに言いづらい。


 そもそも聖光瀑布ホーリー・フォールも私たちと出会う前、ノリで取得したものらしい。もちろん強いスキルではあるのだが、この調子で決めさせてしまうと支離滅裂なラインナップになりかねない。


 だから多少のガマンをお願いしていたのだが……今回のレベリングで、その呪縛は解き放とうと思っている。


「安心して! スピちゃんも今回しっかりレベルが上げられたら、新スキルを二つ取ってもらおうと思ってるよ!」

「ホント!? ……って、回復とかゆわないよね~? スピカが好きなのは破壊だよ?」

「ひとつはどうしても取って欲しい補助スキルがあるんだけど……もうひとつは好きな攻撃スキルを選んでもらって構わないよ!」

「ふうん? ならいっか、仕方ないから付き合ってあげる!」

「ありがと~!」


 スピカもなんとかキゲンを持ち直し、おやつかばんに入っていた携帯用パンケーキにかぶりつき始める。


 すると今度はハムサンドを片手に、フィオナが助言を求めてきた。


「リオ。私もスキルポイントを多少あまらせているのだが、なにか取り進めたほうがいいスキルはあるか?」

「う~ん。フィオナさんの魔法剣士は、基本的にいまあるスキルで十分やっていけるんですよね」


 魔法剣士は基礎になっている魔法剣LVを上げ、ひたすら火力を上げていくことに存在価値がある。


 特技スキルについても全体攻撃の『横薙よこな一閃いっせん』、守備を犠牲に火力を上げる『捨て身の一撃』。そしてコラボ魔法剣の『吹雪ブリザード剣』である程度、揃えるべきものは揃っている。あとは習熟スキルの『魔法剣LV』と『属性魔法LV』を強化し続けてくれれば十分だ。


 が、フィオナはどこか物足りなさそうな目で私を見つめてくる。


(くぅっ、卑しい女騎士めっ! どこでおねだりなんて覚えてきやがったァッ!?)


 とは、もちろん口に出さず。心の中でフィオにゃんに萌えつつ、賢者の心持ちで冷静にお応えする。


「…………ふう。ではフィオナさんにはまず、魔法剣士レベル100を目指してもらいましょう」

「先にレベル100を目指したほうがいいのか? これまでは平均してレベルを上げた方が、ポイント効率がいいと聞いた気がするのだが」

「フィオナさんは三才能とも十分に育っちゃいましたからね。それに新スキルが欲しいなら、魔法剣士のマスタースキルがいいと思います」

「そのマスタースキルは……強いのか?」

「地味ではありますけど、強いですよ! それに今回の探索でドロップ品に恵まれれば、フィオナさんにはより強い武器も用意できますし!」

「そ、それは楽しみだな……」


 フィオナはむずむずと口元を緩め、期待感に胸をときめかせている。


 うんうん、やっぱり冒険者はこうでないと。新しいスキルや武器を手にいれた時こそ、ワクワクが最高潮に高まる瞬間だからね。


 もう一人のクラメンであるキサナは、ジェラルドとスルメをつまみに晩酌を始めていた。同姓かつ歳も近めなおかげか、ジェラルドも少し口が軽くなっているようだ。


(自分では陰キャとか言いつつ、なにげに好かれ上手だよね……)


 才能継承してもらったシャーリーにも気に入られていたし、キサナもそれなりに転生生活を満喫しているようだ。




 そして翌日、私たちは二十九層で三日間のレベル上げを開始した。二十九層に出現する魔物は、以下の通り。



 名前:マンダラ・マンドラ

 魔物ランク:S

 ドロップ:毒消し草

 レアドロップ:カプサイシン

 盗めるアイテム:猛毒草

 盗めるレアアイテム:エンジェリック・リボン(A)



 名前:アビス・ガーゴイル

 魔物ランク:S

 ドロップ:回帰の針

 レアドロップ:エメラルド

 盗めるアイテム:石つぶて

 盗めるレアアイテム:マーブルブレード(C)



 名前:マグマ・ゴーレム

 魔物ランク:S

 ドロップ:地熱の杖(C)

 レアドロップ:ブレイズブレイド(A+)

 盗めるアイテム:火遁

 盗めるレアアイテム:炎ダンジョンのタネ



 ゴーレムとガーゴイルはアサシンダガーでの即死狙い&強奪。


 マンダラ・マンドラは必ず六体以上で出現する、マンドラゴラの亜種だ。全体攻撃の聖光瀑布ホーリー・フォールと、忍具にんぐで使用できる特殊アイテム『火遁かとん』で攻撃。


 ザコ戦相手に火遁まで使うのはややコスパ悪めなのだが、今回の探索には一ヶ月の時間制限がある。


 第三才能を取るためのお稽古と、今日までの探索でもう十日が経っている。なのでコストを度外視しても経験値は多く稼ぎたい。



 離れた位置で戦っているフィオナたちも、上手く立ち回れているようだ。マグマゴーレムには吹雪剣、そしてマンドラゴラには炎属性付与の横薙ぎ一閃。


 一番かわいそうなのはガーゴイルだ。キサナの振り回した鉄球マスターキー一撃ワンパンで、粉々に砕かれていた。鉄球武器は飛行する魔物には特効ダメージがつく、そのため一撃でも食らえばひとたまりもない。


 ちなみに私とキサナは「二足のわらじ」というアクセサリーを装備しながら戦っている。これを身につけて戦闘に入れば、レベル1の才能をセットしていても常に最高レベルのステータスで戦うことが出来る。


 つまりレベル1の忍者をセットしつつ、レベル100の盗賊として。レベル1の魔道弓兵をセットしつつ、レベル75の僧兵として戦うことが出来る。



 ――そして三日間のレベリングを終えた後。私たちは早くも三十層ボスに挑む用意を始めたのだった。




―――――


 今回のレベリング結果は……次回!

 スピカも新スキルをひとつ獲得し、そのまま三十層ボス戦に入ります。


 ボス名は『人工災厄じんこうさいやく・ラグナレク』という名前らしいです……!

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