第72話 合宿一週目、まずは第三才能の獲得!

 炎竜ハウスに到着したその日。私はメイトラと師弟契約を結び、初日から稽古けいこをつけてもらっていた。


「さすがはリオ様、ウワサに名高い素早い動き。ですが忍者は音もなく移動するもの、静と動のタイミングにしなやかさが足りません」

「っ! わかりました、気をつけますっ!」


 私はメイトラの指導のもと、炎竜ハウスの庭で模造刀を打ちあっていた。


 だが近距離でバシバシと打ちあうような、剣術の稽古ではない。


 間合いを大きく取って、距離を詰めた時にだけ刃を交える――ヒットアンドアウェイを意識した、足の速い戦闘種ならではの特訓だ。


 私がこれまでに繰り返してきた戦術と同じではあるが、慣れない長物ながもの装備が間隔を狂わせる。


 手にしている模造刀は短剣ではなく、刀身の長い日本刀と呼ばれる類のものだ。


 忍者は短剣だけでなく、刀も装備できる。私はこれからも短刀をメイン武器とするつもりだが、不慣れな鍛錬もしなければ稽古にならない。そのためあえて刀を使わせてもらっている。


 リーチは長いが必殺の間合いが違う。また自分がその身で覚えることによって、刀装備を相手にした時の間隔も理解できるようになる。


 才能獲得の稽古で実戦経験も積めれば、一石二鳥というわけだ。



 キサナも魔道弓兵の才能を得るために、シャーリーに付きっきりの指導を受けている。腕にボウガンを装着してマジックアローの発射訓練をしているが……なかなか遠くの的に命中しないようだ。


 と、私が脇見をしていると、すかさずメイトラが打ち込んでくる。


「リオ様、よそ見をしている余裕はありませんよ。今日はこのあと忍具にんぐの実践訓練も控えているのですから」

「っ、すみません。集中します!」


 メイトラは涼しい顔で、重い一撃を打ち込んでくる。炎竜団の恩人であろうと容赦しないところは、逆に好感が持てる。


 そうして私とキサナは師弟契約の五日間、しっかりと師匠の教えに従い――しっかり第三才能を取得したのだった。





 その日の夜。私たちは炎竜団の食卓で振る舞われた、豪勢な食事に舌鼓を打っていた。


「……っはぁ、本当に疲れた!」

「ボクもクタクタですよぉ。張った弓って腕だけじゃなく、全身を使うんですもん。体中がずっと筋肉痛にですよぉ……」

「ハハハ! それでもしっかり五日で才能が獲得できたんだ、二人とも大したもんだよ」


 ルッツは疲労困憊ひろうこんぱいの私たちを笑いつつ、鍛錬漬けだった今日までのことをねぎらってくれる。


「それでもすごいわよ~。才能習得の最短は五日って聞いたけど、人によっては十日も半月もかかっちゃうんだから~」

「アイシャの言う通りだな。俺たちも継承屋を始めて日は浅いが、本当に五日で継承できる人は本当にまれだったからな」


 ルッツとアイシャが言っているのは、師弟契約後に行われる稽古日数の話だ。ゲームでは五日という固定時間だったが、真面目度や鍛錬時間によって時間差が生じているらしい。


 どうやら私とキサナは五日で習得基準を満たせたらしく、しっかり予定期日に稽古を終わらせることが出来た。


 そしてこの五日ですっかり仲良くなったのだろうか。キサナの向かいに座るシャーリーは、疲れた表情の弟子キサナに笑みを向けている。


「キサナっち、本当にマジメだったもんねぇ。年下のアタシなんかの言うこと、ちゃーんと聞いてくれるんだから。今時こんな謙虚なオトコいないよ」

「あ、ありがとうございますっ。ボクも師匠がシャーリーさんみたいな優しい方で、本当に良かったですっ」

「しかもちょいちょいカワイイのなんの。……なんかキサナっちと一緒だと妙に癒されるし、アタシのペットにしたいかも?」


 そう言ってシャーリーは長い爪で、キサナおじさんのほっぺをぷにぷにつついている。


「あうっ、あうっ。からかわないでくださいよぉ……」

「そういうとこなんだよねぇ」


 現代で言えばギャル属性のシャーリーに、弱気なキサナがやりこめられている。


 外見だけでいえば若い女性と、破戒僧はかいそうみたいな組み合わせだ。しかし立場が逆転しているでせいで、おねショタみたいな関係性が築かれている。これが真のTS異世界転生か……



 ちなみに私たちが稽古に励んでいる間、フィオナとスピカにはおつかいを頼んでおいた。


 今回の奈落レベリングでは、一気に四十層まで探索を進める予定だ。そのために必要な装備や錬金素材、アイテムの買い込みをお願いしておいた。


 もちろん買い物だけでは日にちが余ってしまったので、フィオナはルッツや聖騎士ジェラルドと軽く鍛錬。スピカはメイドさんとお話して仲良くなれたらしい。


 そして今回。炎竜団のジェラルドには、奈落レベリングの同行をお願いしてある。


 私たちは経験値を少しでも増やすため、パーティーをふたつに分散してレベリングする予定だ。


 すると私以外の盾役タンクがもう一枚欲しくなる。そのため炎竜団からジェラルドをお借りすることになっている。


 ジェラルドは口数の多くない中年男性だ。返事は最低限で「……ん」やら「そうか」などとしか発言しない。ちなみに既婚で三人の娘さんがいるらしい、長女は私より年上だとか……!


 そんなジェラルドは黙々と肉料理をよく噛んで食べている、小動物系大男のキサナとはどこか対照的だ。


 そしてレファーナは……に寄りかかって、すうすう眠っていた。私とガーネットは目を見合わせ、おとなしく眠るレファーナを微笑ましい気持ちで見つめてしまう。




 ――私たちが冒険者ギルドを出て三日後。炎竜ハウスを訪ねてきたガーネットは、リブレイズに入りたいと言ってくれた。


 現在の雇用主グレイグに渋られはしたものの「あんだけ伸び盛りのクランに、勧誘されちゃぁな」と言って許してくれたらしい。


 そしてリブレイズへ加入したガーネットには、レファーナの助手という大役をお願いした。


 飛竜タクシーと繋がりが出来てから、レファーナは仕事に追われる毎日だ。一人で対処できるはずもない仕事を、寝る間も惜しんで回してくれている。それを支えてやれるのは、事務処理能力を持った人が必要だ。


 そのサポートを任せるのなら、ガーネットが適任だとは思っていた。大好きな人で周りを固めたいという、私自身の望みにもかなっている。


 だが入ってくれる確証は持てなかった。だって受付嬢はガーネットの天職にも見えたし、ギルドで仲の良かった人もたくさんいたはずだ。でも――


「……私も、結構悩みました。でも世界が色々と変わってる今、新しいことに挑戦してみたかったんです!」


 そう言ってリブレイズに向かって、足を踏み出してくれた。


(今更だけど、クランリーダーって責任重大だよね……)


 私は好きでガーネットを誘ったが、それは彼女の人生を預かるということでもある。


 長年働いた冒険者ギルドをやめ、まだ結成二か月のクランに移動してくれたのだ。ガーネットの決断はとても大きなものだ。


 これでメンバーは七人と一匹。マリオット商会と飛竜タクシーも経営することになったし、二十名ほどのお手伝いさんも各地に派遣している。


 リブレイズはたくさんの人に影響を与える場所になりつつある。みんなを幸せにしなければいけないし……安心できる場所にしてあげないとね!


 とりあえずは目先の戦いに負けては意味がない。明日からは奈落で長期のレベル上げだ。ガス欠を起こさないよう、しっかりと体を休めておかないとね!



―――――


 登場人物が増えてきたので、簡単にまとめておきます!


■リブレイズ

 リオ:盗賊であり主人公、快楽主義者。

 フィオナ:騎士爵の娘、魔法剣士。フィオにゃん。

 レファーナ:のじゃロリ縫製師、最近とても忙しい。守銭奴。

 スピカ:破壊好きのちびっコ大聖女、快楽主義者。

 キサナ:リオの友達、転生でオッサンに。お酒好き。

 ノボリュ君:飛竜の王様、最低でも300歳。だが恋愛脳。

 ガーネット:元受付嬢、本作で一番普通の女の子。


■聖火炎竜団

 ルッツ:リーダーの魔法剣士、強いらしいがあまり出番なし。

 アイシャ:ルッツの妹で賢者。マイペースお姉さん、出番増やしたい。

 ジェラルド:聖騎士のオッサン、盾役。お酒好き。

 シャーリー:魔道弓兵のお姉さん、キサナがお気に入り。

 メイトラ:非クラメンの有能メイド、レベル50越えの忍者。

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