第68話 忘れた頃に仕掛けてきた、不穏な敵対クラン

「トライアンフと同盟、ですか?」

「ああ。互いにエレクシアで名を馳せたクラン同士、仲良くやろうということらしいが……」

「単純に仲良く、という気はせんのう」

「そう、ですね」


 一週間ほど前。


 トライアンフを名乗る三人組が、リブレイズのリオを訪ねて飛竜の里へやって来た。


 だが私はその日、ノボリュと東の国へ飛び立ったばかり。すると彼らは同盟の意志があることだけを伝え、また来ると言ってさっさと帰ってしまったらしい。


「あまりいいウワサは聞いてなかったので、一悶着ひともんちゃくあるかと身構えたのだが……あっさりきびすを返したので、拍子抜けしてしまったな」

「マチルダに色々聞かされた後じゃからの。しかしいつ来るかも告げず、また来ると言うのも迷惑な話じゃ」

「本当にその通りです。これでは我々が動きづらい、待ってなければ不義理のようにも見えてしまいますから」

「あながち、それが狙いかもしれんの。アチシらにくだらんケチをつけるためにな」


 レファーナが茶化すように言うが、誰も笑う人はいない。トライアンフのウワサを鵜呑うのみにするなら、あながち冗談にも聞こえなかったから。


「……相手の思惑がそうだったとしても、今の私たちは待つ他ないのかもしれないな」

「じゃのう。以前ならともかく、いまは飛竜の里やマリオット商会と繋がりが出来た。アチシらがいなくなったことを理由ダシに、彼らへちょっかいをかけられても寝覚めが悪い」

「―――ハッハッハッ! お宅ら、結構いい読みするじゃないの?」


 突然、男の笑い声が室内に響きわたる。


 リブレイズの面々は驚きのあまり、辺りを見回していたが……少し前から気付いていた私は、まっすぐ入り口に向かって振り返る。


 そこには着流きながしに身を包む、痩身そうしんの男が佇んでいた。


「……なにかご用ですか?」

「おや、嬢ちゃんは冷静だねえ。やっぱ高レベルの盗賊ともあれば、人より五感は鋭いのかな?」

「あなたのほうこそ。ここまで気配を消せる才能持ちってことは……暗殺者、ですか?」

「俺はそんな立派なもんじゃねえよ。もうちょっと足の重い、『さむらい』で生きてるゴロツキさ」


 着流しに、腰に携えた刀。


 なるほど。その姿は時代劇なんかで見た、野武士のぶしを思わせる風貌だ。


 気配を薄くして近づいて来れたのは、侍も『エンカウント率減少』が習得可能だからだろう。


 盗賊は身をひそめる意味合いで気配を消すが、侍の基本動作はだ。後を立てずに歩くという意味で、侍もエンカウント率減少が習得できるのだろう。


「みんな、気をつけろ! こいつは先日に訪ねてきた、トライアンフの一人だ!」


 フィオナは声を張り上げ、剣を抜いて私の前に立つ。


 すると男は力ない笑みを浮かべ、両手を上げて降参といったポーズを取った。


「おっとっと、順番が前後しちまったな。驚かせちまってすまねえ、俺は敵意を持ってここに来たわけじゃない」

「抜かせ! 気配を消して近寄った賊の言うことなど、誰が信じるか!」

「本当だよ。なんなら武器を取り上げ、縛ってくれてもいい」

「…………」


 フィオナは剣を抜いたまま、チラと私に視線を向けて判断を仰いでくる。


(この人は途中から私に気づかれたことにも気づいていた。それがわかってて声をかけてきたなら……話だけは聞いてもいいかもしれない)


「……では武器だけ、お預かりします」


 私はその場から動かず、男が腰に下げている刀――三日月みかづき(A+)を盗んだ。


 すると武器が消えたことに気付いた男は、ようやく軽薄な笑みを消して驚いた顔をする。


「ハハ、すげえな。そんなことまで出来んのか?」

「ふふん、すごいでしょ? 人に使ったのはこれが二回目ですけど」

「そいつぁ残念。嬢ちゃんの初めてにはなれなかったワケだ」


 すると男はその場にあぐらをかき、持っていた下げ袋から何着かの羽織り物を取り出した。


「悪いがお嬢さん方、これからの話は超極秘で頼みたい。だから気配を完全に消せる『かくみの』を身に着けて欲しいんだが――」

「大丈夫ですよ。私には『エンカウントなし』があるので」

「……なるほど、道理でアンタらの目撃情報が少ないワケだ」


 男は笑いながらかくみの(B)を下げ袋に戻す。あれはステルスフード同様、フィールド上で気配を消せる装備だ。どうやら彼は完全に気配を遮断した上で私たちと話したいらしい。


「じゃあ早速だが本題に入らせてもらう。俺が今日ここに来たのは、トライアンフとしてではない。リブレイズに個人的な頼みがあってきたんだ」

「その前に、あなたの名前を聞いてもいいですか?」

「……おっと、悪かったな。俺の名前はナガレ、トライアンフ・チームゴールドの中堅ちゅうけんだ」

「チームゴールドって?」

「ウチのクランは戦闘種を三つのパーティに分けている。ゴールド・シルバー・ブロンズの三組で、俺は上の中って意味だ」

「トップクラスの実力者じゃないですか。そんな方が私たちに、どんな頼みがあるって言うんです?」

「なぁに、大したことはない。俺たちトライアンフってクランの崩壊に、ちっとばかし協力して欲しいだけだ」


 ……全然、大したことあるだろ。


 私たちはそう思いつつ、ナガレの話に耳を傾けるのだった。

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