第67話 激動の一ヶ月を終え……お疲れ様会!

 激動の一ヶ月が終わったある日、私たちリブレイズはさとの借り宿舎しゅくしゃに集合していた。


 ひとつのところに全員が集まるのは久しぶりだ。なにせ今日までは仕事に手いっぱいで、顔を会わせるヒマもなかったから。


 だが忙しい日々も今日で一段落。ということ……


「みなさん、今日までお疲れ様でしたっ!」

「「「「お疲れさまっ!」」」」


 私たちは手元のグラスを打ち鳴らし、簡単なお疲れ様会を開くことにした。


 タクシー運営も軌道に乗り始めて、地獄のお手伝い期間が終了。明日からはマリオット商会から特別な呼び出しがない限り、クランとしての自由行動を再開していいことになっている。


「しかし大変な一ヶ月じゃった。しばらくは頭を空っぽにして、編み物でもしていたい気分じゃ」

「ちゃんと休んでくださいよ? レファーナさんが倒れたって聞いた時、本当にびっくりしたんですから」

「なに、ただの睡眠不足じゃ。これが後のカネになると思えば安いもんじゃ」


 一番忙しかったのは間違いなくレファーナだろう。里に設置された本部で見るレファーナは、ヒゲと議論をしてるか気絶したように寝てるかのどちらかだった。


「金をもらう以上はしっかり手伝ってやらんとな。それに商会に全部丸投げすると、リブレイズに不利な決定がされるかもしれんしの」

「いやぁ、もう本当に色々ありがとうございます……」

「アチシもリブレイズの一員じゃ、発展のために動くのは当然じゃろ。それにリオとは今後も、切っては切れぬ付き合いなりそうじゃからのぅ?」

「もー、嬉しいこと言ってくれるぅ!」


 めずらしくデレてきたレファーナに、私は頬をこすりつける。が、今日ばかりはイヤがらず黙って受け入れてくれた。


「あと商会との調整役として、頭の良さそうなヤツ何人かに声をかけておいた。事務方のメンバーとして引き入れたいので、近いうちに顔合わせをしてくれ」

「はいっ、必ず!」


 私が返事をすると、今度は足元にスピカが抱き着いてきた。


「ねーねー! スピカもぉー!」

「はい、スピちゃん! いい子で待っててくれた?」

「もち! リオに言われた通り、チンピラたちと魔物肉の回収を手伝ったよ!」

「えらいっ!」


 スピカは途中までぐうたらしてたが、途中から近場の冒険者たちと魔物肉の回収に出てもらっていた。


 里の近くにあるCダンジョン孤島ことうには、肉厚のグレートマンモスが出現する。


 崩落コラプスで巨体を穴に落としてしまえば、同行者のレベルが低くてもなんとかなる。瀕死に陥らせた後は部位切除を同行者に頼む、という方法で食料確保に大きく貢献してくれた。


 飛竜特需であふれ返った採集クエストにランクはなく、回収した食料の重さだけで報酬が定められている。


 そのため大きな体を持つマンモス狩りを駆使し、スピカは期間中に一人の力で400万クリルを獲得してくれたのだった。


 これはスピカが自分だけの力だけで獲得した報酬だ。本当であれば獲得した報酬は私に預けてもらう必要があるのだが、これはお給金の前払いということで全額あげてしまうことにした。


「わーい、大金持ち! これで一生遊んで暮らせるぞー!」

「なに言ってるの、スピちゃん。私たちはもっと大きなクランを作るんだよ? それなのに400万クリルなんかで満足しちゃダメ!」

「まじ~? じゃあスピカはもっと大金持ちになれる?」

「なれるなれる! だから満足は絶対にしないこと!」

「ひゅーーー! リオ最高、一生ついてく!」


 ゴキゲンなスピカと話し終えた後、続いてキサナの隣に腰かける。


「キサナもお疲れ様っ、装具の製作は大変だった?」

「こっちはそうでもないよ、りおりーの方が大変だったんじゃない?」

「私はノボリュ君と各地を飛び回ってばかりだったよ。でも空を飛ぶのが楽しかったから、そんな気にならなかったかな?」

「りおりーは変わらず陽キャだなぁ。ボクなんかまだ飛ぶのを怖がってる陰キャだし……」

「それ陽キャ陰キャ関係ない! っていうか、ごめんね? 再会してすぐなのにコキ使っちゃって」

「全然いいよぉ。ボクも脳死作業してる方がなんだか安心するし」

「あははっ! さすがクラジャン廃人!」


 私は笑いながら、キサナの肩をぱしんと叩く。


(思えばキサナとは再会してから、あまりじっくりと話せてないんだよね)


 キサナを仲間に加えたあと、すぐ飛竜タクシーの手伝いが始まった。友達補正があったから打ち解けるのはすぐだったけど、いずれもっと腰を落ち着けて話したい。


 転生したという事実が明かせないだけに、同じ境遇のキサナはいるだけで精神的な支えになってくれている。


 それにキサナも私に劣らないほどのクラジャン廃人だ。この世界を楽しむ上でキサナの協力は欠かせない。


「でも驚いたよ。飛竜解放イベントのどさくさで、昇竜王を仲間にしちゃうなんて」

「あれはその場のノリ、みたいなところもあったけどね……」

「そのノリはボクに扱えないものだし、りおりーはやっぱりすごいよ」


 言いながら私たちは、開け放たれた窓の外に目を向ける。宿舎の外では月明りを浴びたノボリュが、マンモスの肉をムシャムシャと食べている。


 いまや彼もリブレイズの一員だ。体のサイズ的に建物には入れないが、こうしてお疲れ様会には参加してくれている。


 私は窓に近づき、一心不乱に肉をむさぼるノボリュへ声をかける。


「ノボリュ君も楽しんでる~?」

「リオか、やはり腹いっぱい肉が食えるというのは素晴らしいな。誇りで腹は満たせない、まさにその通りだった」

「私の言う通りにして良かったでしょ?」

「……まあ、そうだな。最近は桃竜とうりゅうの態度も、心なしかやわらかくなったと感じている」

「それはノボリュ君自身の力だよ! あんなにいさぎよく頭を下げるなんて思わなかったし!」


 一ヶ月前。飛竜の里で竜騎士たちに謝った姿は記憶に新しい。


 プライドの高かった昇竜王が、謝罪と共に彼らの三百年を褒め称えたのだ。あんなにも欲しかった言葉が、望んだ形でもらえるとは誰も思わなかっただろう。


「あれが男らしさだよ! あの時は私もキュンときちゃったよ!」

「そ、そうか?」

「そうだよ! あの調子でいけば、私の助言なんかいらないと思えるくらい!」

「ふむ、そうか。ではリオに乞うべき教えはほとんどなく、もう行動を共にする必要もないということか?」

「あ、いや、それは……」


 感情まかせに大絶賛したせいで、つい免許皆伝みたいなことを言ってしまった。ノボリュを仲間にするのは想定外だったとはいえ、お別れをするには早すぎる。


 竜騎士の才能を取ったのだって、気軽にノボリュと各国を飛び回るためだ。いつか卒業する時が来たとしても、さすがにまだ手放したくはない。


 そう考えた私は咳ばらいをし、手のひらクルーで言い返す。


「甘いっ、甘いぞノボリュ君! キミの悪いところである傲慢ごうまんな態度が、また顔を出し始めているぞ!?」


 ビシッと人差し指を突き出すと、ノボリュはしまったという顔をする。


「すこし褒められただけで、認めてもらった気になってはダメっ! むしろ相手に褒められたらチャンス、相手のおかげだと言い返して褒め返そう!」

「な、なるほど。難しいな……」

「これが出来れば相手はもっとキュンキュンくるハズっ! では今の会話をやり直しますっ!」

「あ、ああ……」


 ノボリュは若干うろたえつつも、私の無茶ぶりに付き合うため食事の手を止める。


「――あれが男らしさだよ! あの調子でいけば、私の助言なんかいらないと思えるくらい!」


 私がハイテンションでふたたびノボリュを褒め称える。するとノボリュはフッと優しい笑みを浮かべ、こう言い返した。


「……そんなことはない、すべてはリオの助言のおかげだ。お前がいてくれたからこそ、すべてが上手くいった。心より感謝する」


 ズキューーーーン!!!


(は、はわわ……思った以上に威力たけぇんだが?)


 まっすぐな感謝な言葉に、思わず顔がほてってしまう。こんな小芝居を大真面目に付き合ってくれる点もポイントが高い。


 私が素で動揺していると、ノボリュが自信なさげに聞いてくる。


「……ど、どうだろうか? 少しわざとっぽかっただろうか?」

「ふ、ふん。まあ悪くないんじゃないの?」


 つい口からツンデレみたいな言葉が出てしまう。くぅっ、なんか悔しいぜ……


 私は謎の敗北感を味わいつつ、窓に背を向けてみんなの元へ舞い戻る。


 すると話の中心にはフィオナがいて、みんなが難しい顔をしていることに気付く。


「フィオナさん、どうかしましたか?」

「ああ、すまない。この一ヶ月にあったことを話していたのだが……先にリオへ報告すべきだったな」


 首を傾げる私に、フィオナは真面目な顔でこう言った。


「つい一週間ほど前、私が里の警護に当たっていた時。トライアンフの連中が里を訪ねてきたことがあった」

「えっ!? トライアンフって、ウワサに聞いていたSクランの?」

「ああ。そして言伝ことづてもあずかっている。……互いの発展のため、トライアンフと同盟を組まないか、とな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る