第61話 レファーナと、商会幹部との交渉

「お話はわかりました。ではリブレイズが昇竜の説得に行ってきます!」

「おお、助かります!」

「ですが説得が成功した後について、こちらからもお願いがあります」


 私の言葉を聞いたヒゲが、顔を上げて鋭い視線を向けてくる。


「話はアチシ、リブレイズのレファーナが引き継ごう。お願いというのは説得後に発生するであろう、飛竜タクシーの運営利益についてじゃ」

「運営、利益ですか……?」

「そうじゃ。もし説得が成功したあかつきには、三百年前に発達していた飛竜タクシーが復活するであろう。すると大陸の輸送社会に革命が起きる。それなのにたかが1000万クリルでアチシらと縁を切ろうとは……殿様商売が過ぎると思うてな?」


 レファーナの言及に、里長さとおさは困った表情でヒゲに助け舟を求める。


 すると黙っていたヒゲは舌打ちをし、ようやく会話に加わり始めた。


「……なにが望みだ?」

「アチシらが欲しいのは一回こっきりの達成報酬ではない。飛竜タクシー再開で生み出される、運営利益じゃ。アチシらリブレイズも運営に関わりたいと思うておる」

「なんだと? つまりお前らと共同で運営しろということか?」

「そうじゃ、商業同盟というところかのう」

「ふざけるな。俺たちマリオット商会はタクシーの再開に備え、三百年前からずっと事業計画を立ててきたんだぞ!? こんなにも長い間、金を生まないモノのために俺はっ……!」

「じゃろうな、その商魂はあっぱれじゃ。その時のためにここへ派遣されたお前さんも、相当な苦汁くじゅうを舐め続けてきたことじゃろう」

「……」

「アチシとて利益の大半を食おうとは思うておらん。現在のリブレイズは総勢五名の小さなクランじゃ、派遣してやれる人員もほとんどいない。実際の運営はお主らのおんぶにだっことなるじゃろう」

「それがわかっているなら、商業同盟なんて無理とわかっているだろう。お前らは一体なにを提供しようと……」

「だから言っておるじゃろう。飛竜たちを説得してやると」


 レファーナは自信満々に言い放った。


「アチシらが提供できるのはこの一点のみ。じゃが、これが成されなければ1クリルとて生み出すことはできん」

「しかし、たかが説得程度で……」

「その説得程度に三百年もかかっておるのじゃろうが、アチシらはすでに勝算があってこの提案をしておる。いざとなれば暴君を討伐し、別の飛竜を王に据えれば済む話じゃしの?」

「……本気で言っているのか? トライアンフですら逃げ出すほどの相手だぞ?」

「でなければ、こんな強気な提案はせぬ」


 ヒゲは腕を組んで思考に沈み始める。持ちかけられる話が具体的かつ強気ということもあり、本気度が伝わり始めたようだ。


「もちろん断っていただいても結構じゃ、その場合アチシらは自前で飛竜タクシーの商会を立ち上げよう。その時にはお前さんらが、噛ませて欲しいと言っても遅いがの?」

「初期投資にいくらかかるか分かっているのか?」

「知らん。が、アチシらリブレイズは優秀なクランじゃ。リーダーのリオは一ヶ月でA冒険者まで上り詰め、本聖堂から大聖女の巡礼同行まで任された。お主だってそのウワサを聞いていたから、わざわざ今日は同席しておるのじゃろう?」

「……」

「仮に必要資金が十億クリルだとして……ま、三年もあれば集まるじゃろう」

「…………」

「教皇にエレクシアの土地も借りてしもうたし、そこにリブレイズ商会本部でも立ち上げようかのう」

「………………わかった、具体的な利益配分について聞かせろ。手ぶらじゃ親方に相談もできない」

「話のわかる男じゃな、うっかり惚れてしまいそうじゃわ」

「ふざけるな。お前のような恐ろしい女を、嫁になど欲しくない」


 ヒゲが大きくため息をつき……ようやく緊迫した空気が緩み始める。これで交渉の第一段階は成功だ。


「しかし昇竜王の説得が成功しないことには、親方に話は通せない。それくらいはわかっているな?」

「もちろんじゃ、これからお主とアチシで細かい話を詰めよう。リオたちはその間に昇竜王に話をつけ、問題がなければ飛竜に乗って里へ戻ってくる。これでどうじゃ?」

「構わない」


 こうしてクエスト報酬は1000万クリルから、飛竜タクシーの共同経営権に変更されたのだった。



***



 話が一段落し、私たちが里長の家を離れた後。レファーナに物凄い剣幕で詰め寄られた。


「よいか、リオ。絶っっっっっっ対に、説得を成功させるのじゃぞ!?」

「はい、任せてください!」

「大商会の幹部にあれだけの啖呵たんかを切ったのじゃ。もしこれで説得に失敗なんてすれば……アチシは恥ずかしゅうて二度と表を出歩けんぞ!?」

「もぉ~~~心配性だなぁ、レファーナさんは~」

「そんな軽い調子だから心配しておるのじゃっ!」


 ひとしきり騒いだ後は、レファーナはぐったりした様子でつぶやいた。


「まあ、なんだかんだリオは有言実行だからの。ある程度は信用しておるが……いざという時はお主らも頼んだぞ?」


 レファーナはそう言って、竜峰へ登る仲間たちに目を向ける。


「説得に力添えできるかはわからないが……三十層までは無事に連れていくと約束します」

「スピカも~! 山登りって初めてだから楽しみ!」

「ひええぇぇぇっ、三十層って高いぃ! ゲームと違って足を踏み外して滑落したら、絶対に死んじゃいますよねぇ……?」

「……やっぱり不安じゃの」


 三者三様の返事に、レファーナはまた大きくため息をついたのだった。




 そして私たちはレファーナと里長の家で別れた後、さっそく竜峰りゅうほうの探索を開始!


 ……ではなく、まず回復アイテムを購入。


 体力の七割を回復できる、ブーストポーションを50個。


 これは三十層で戦うことになる昇竜王対策だ。普段であれば「避ければ楽勝!」と言いたくなるのだが、特殊戦闘なので耐久戦対策が必要になる。


 スピカは回復魔法があるけど、念のため多めに買っておいた。さすがに唯一の回復手段が、気まぐれスピカだけだとちょっと不安だし。


 加えて、飛竜の里からゲスト参戦者が一人。竜騎士の才能をさずかった里長の息子、ライデンだ。


「ずいぶんと華やかなパーティだな、よろしく!」

「はい、よろしくお願いします!」


 羽飾りの民族衣装を身に着けた、健康的に肌の焼けた青年だ。


「戦闘面では役に立てないと思うが、飛竜の乗りこなしだけは里一番だ。説得が終わった後のことは任せてくれ!」

「……失礼だとは思うんですが、おひとつ聞いていいですか?」

「もちろんだ、なんでも聞いてくれ!」

「これまで飛竜には乗ったことはないのに……ずいぶん自信がおありなんですね?」

「ああ。里には竜騎士の他に魔物調教師テイマーも多く住んでる。彼らの操るワイバーンでいつも練習させてもらってたのさ」


 なるほど、そういうことか。


 ちなみに竜騎士りゅうきしは、現実オリジナルの才能だ。


 ゲーム中の飛竜タクシーは、プレイヤーの移動手段でしかない。自由に飛竜を乗り回したり、飛竜を戦闘参加させることもないので、竜騎士という才能自体が必要なかった。


 だがクラジャンを現実に落とし込む過程で、飛竜を乗りこなせる職業が必要になったらしい。そのため竜騎士と『心得』という存在が生まれたようだ。


 知ってる世界なのに、たまにちょっとした未知というエッセンスが顔を出す。


 おかげで私は飽きなくこの世界を楽しめている。しかも現実で飛竜に乗れるということは、世界を一望できる光景がこの目で拝めるということだ。早くもワクワクが止まらない。


 私はそんな期待感を胸に、竜峰への道を歩み始めたのだった!



――――――



 おまけ:ライデンのステータスです。


☆☆☆

 名前:ライデン・ドラコボルト

 所属クラン:飛竜の里

 第一才能:農夫(レベル:13)

 第二才能:◎竜騎士(レベル:27)

 冒険者ランク:C

 残りスキルポイント:16


【装備品】

 ウォーハンマー(C)  クリティカル率+5%

 羽帽子(D)  風耐性10%

 鷲の戦闘装束(C)  攻撃力+10%

 


【習得スキル】

 ・斧術ふじゅつ【LV:5】


 ・騎竜きりゅうの心得

 

 ・狂戦士化

 ・薙ぎ払い

 ・かぶと割り

☆☆☆

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