第58話 翠緑最奥ボスと、初の他属性魔法剣

 私たちはその後、サクサクと翠緑すいりょくのフロアボスを撃破。十層ではアルラウネ、二十層では首長竜くびながりゅうプレシオスと対峙した。



 名前:アルラウネ

 ボスランク:B

 ドロップ:甘い蜜

 レアドロップ:植物ダンジョンのタネ

 盗めるアイテム:ローズウィップ(C)

 盗めるレアアイテム:アルラウネの唾液




 名前:首長竜プレシオス

 ボスランク:A

 ドロップ:竜のキバ

 レアドロップ:サンゴの杖(A)

 盗めるアイテム:海龍の肉

 盗めるレアアイテム:ドラゴンメイル(A)




 アルラウネはスピカの聖光瀑布ホーリー・フォールで消し炭に。ドラゴン種のプレシオスは氷弱点なので、フィオナの吹雪ブリザード剣を主軸に討伐した。


 手に入ったアイテムは「甘い蜜・海龍の肉・ドラゴンメイル(A)」、確定枠では「万能粉・サンゴの欠片」を獲得した。


 レアドロップのサンゴの杖(A)も取りたかったが、時間と性能のバランスを考えて今回は断念。


 当たり前だけど盗むレアより、レアドロップの方が入手難度が高い。討伐が必要なドロップと違って、盗むレアは倒さずに粘ってれば必ず手に入るからね。



 そして探索を開始して四日目。


 二十六層でキャンプを張っていた私たちは、いよいよ最深部三十層を目指して歩き始めた。


 ダンジョンに四日も入っていると、スピカも段々と破壊に飽きてくる。そのため目についた魔物からは、出来る限りスティールアンドアウェイでアイテムを回収しておく。



 名前:バーサク・ハムスター

 魔物ランク:A

 ドロップ:ネズミのしっぽ

 レアドロップ:ダイヤの前歯

 盗めるアイテム:花のタネ

 盗めるレアアイテム:ハム野郎の着ぐるみ(E)



 名前:キメラ

 魔物ランク:A

 ドロップ:マジックポーション

 レアドロップ:強壮の血液

 盗めるアイテム:怪鳥の羽

 盗めるレアアイテム:風進化の結晶




 名前:エメラル・ドラゴン

 魔物ランク:A+

 ドロップ:ドラゴニックパーカー(C)

 レアドロップ:竜騎士の胸当て(A)

 盗めるアイテム:竜のウロコ

 盗めるレアアイテム:エメラルド



 狙いは色々あるがハム野郎の着ぐるみ(E)と、エメラルドは回収しておきたい。


 前者はもちろんスピカ用で、後者は換金アイテムとして。アダマンタイト拾いをした後だと見劣りするが、エメラルドは一個30万クリルで売却できる。


 加えて風属性装備の錬金にも使えるので、多く拾えることに越したことはない。


 ということで三十層に着くまでの間、私はスティールアンドアウェイで以下のアイテムを回収した。



 ネズミのしっぽ×3

 花のタネ×8

 ハム野郎ヤローの着ぐるみ(E)×2

 マジックポーション×2

 強壮の血液×2

 怪鳥の羽×7

 風進化の結晶×2

 ドラゴニックパーカー(C)×1

 竜騎士の胸当て(A)×1

 竜のウロコ×14

 エメラルド×3



 今回は移動がてらの回収なので収穫は少なめ。


 だがレアの取得率がいい、きっとスピカの持つスキル『幸運』の恩恵だろう。幸運はランダム要素の絡む「ドロップ・クリティカル・回避」などに若干の上昇補正が掛かる。実装されている才能で幸運を獲得できるのは、遊び人と占星術師せんせいじゅつしくらいだ。


 そこで私はコラプスロッド狩りをしていた時、先にスピカを帰していた失態に気が付いた。


(蟲毒でスピちゃんに残ってもらえれば、もうちょっと早く回収が終わってたのかな……?)


 スピカを離脱させたことで『幸運』の効果はおそらく切れていた。あの時に引き止めていればもう少し効率よく……と思ったが、飽きっぽいスピカを用もなく引き止めるのも難しい。


 なかなかスピカを上手く扱うのも難しいな……と考えていると、いつしか三十層のボス部屋に到着していた。



 このメンバーであれば翠緑すいりょくのボスにも手こずることはない。ということで、私はこの戦闘でちょっとした実験をすることにした。


 私は持っていた炎のリングを六個ずつに分け、スピカとフィオナに配っておく。そしてスピカには聖光瀑布ホーリー・フォールの自制と、合図があったらある行動をして欲しいと頼んでおく。


 スピカもだいぶ破壊には飽きていたようなので、二つ返事で了承。フィオナも初の試みに目を丸くしていたが、それで戦術の幅が広がるならと頷いてくれた。


 作戦会議が終わった後、私たちはようやくボス部屋に足を踏み入れる。部屋の奥には花のドレスを着た精霊が、静かに佇んでいた。



 名前:ユグドラシル

 ボスランク:A

 ドロップ:ポーション

 レアドロップ:世界樹の錫杖(B)

 盗めるアイテム:フラワードレス(B)

 盗めるレアアイテム:巨大イバラの苗木




「じゃあ二人とも! 炎のリングで攻撃をお願い!」

「了解した!」

「あいあいさー!」



 私はユグドラシルに『挑発』をかけ、二人は後方から火炎球で攻撃。


 ユグドラシルは植物種なので火属性に弱い、火炎球だけでもそこそこのダメージソースになる。


 もちろん二人は素の火力が十分高いので、炎のリングに頼らなくても問題ない。だが盗むレアの試行回数を稼ぐため、あえて控えめな攻撃にとどめてもらっている。


「この指輪すごーい! 無限にほのおが出てくる!」


 スピカは新しいオモチャを手にしてご満悦。私はそのスキに盗んで避けて、を繰り返す。


 ユグドラシルは地に張り巡らせた木の根による刺突と、風マジックアローを私に向けて放ち続ける。だが何度もボス戦をこなしてきた私には、これらを避けるのに造作もない。


 そして盗むレアの「巨大イバラの苗木なえぎ」を手に取った瞬間、私は二人に決めていた合図を出す。


「スピちゃん、いまだっ! 炎のリングの力を、フィオナさんのホーリーブレイドに!」

「わかった! がんばれヒオナー!」


 スピカは炎のリング×6の力で、フィオナのホーリーブレイドを火属性に属性付与エンチャント


 炎魔法剣を使えるようになったフィオナは、ユグドラシルに炎を纏った剣を振り下ろす。


 炎が薙ぐ音と共に、ユグドラシルの体が両断。討伐されたユグドラシルは目をつむり、さらさらとその身を宙に溶かしていった。


「やったね、二人とも! 他属性たぞくせい魔法剣の試し切り、成功だよ!」


 魔法剣士は本来、自前で持っている属性魔法の剣技しか使えない。だが同パーティの属性魔法使いや、アイテムの力で属性付与エンチャントを受ければ他属性の魔法剣も使うことが出来る。


 もちろん自前の魔法剣ほどの威力は出ない、他属性の魔法剣はあくまで借り物の属性付与エンチャントだ。才能強化スキルで鍛えられた『氷魔法剣【LV:9】』などの恩恵は受けられない。


 そのため使い方としては相手に得意属性を吸収される場合や、不意な弱点をつくためなど限定的な使用に限られる。これまでは使う機会はなかったが、いつか必要な時が来るかもしれない。そのため余裕のある時に試しておきたかった。


「ねーねー、スピカ言われた通りにやったよ! えらい? えらい?」

「とっても偉い! ね、フィオナさん?」

「ああ、スピカ殿のおかげでいい練習になった。感謝する」

「いいよ! ヒオナもスピカの仲間だもん」


 私たちがわきあいあいとしていると、ユグドラシルのいた場所から宝箱。今回はめずらしく、確定枠を含めて三個の宝箱がドロップ。フルドロップだ!


 レアに設定されている世界樹の錫杖しゃくじょう(B)は、武器でありながら攻撃をするためのものではない。


 ふりかざした対象に中級回復魔法をかける、少し変わった武器である。効果文を読まずに装備すると、うっかり魔物を回復させてしまうので注意が必要だ。


「回復かあ、スピカにはあまり向いてない武器だね~」

「大聖女って一応そっち寄りだと思うんだけど……」

「まあ才能の枠に縛られる必要もあるまい。私とスピカ殿は、そろってリブレイズの火力組だからな?」

「ふふー、ヒオナとおそろい! リオだけ仲間外れ!」

「あっ、その言い方はイジワルだよ!」




 こうして私たちは翠緑すいりょくの踏破を終え、ミラへと帰還した。


 ギルドで報酬を受け取ると同時、『昇竜王しょうりゅうおうの説得』も帰ってきたので同時にクエストを受注。明日からは昇竜王のいるAダンジョン、竜峰りゅうほうへ出発するつもりだ。


 モチベーション的にはすぐにでも出かけたいが、今日はもう遅い。私たちは受付のカルロスにあいさつをしてギルドを出た――その直後のことだった。


「……見つけた。大聖女を連れた、リブレイズのリオ」


 ギルドの外で待ち伏せでもされていたのだろうか。クエスト終わりで気を抜いていたので、エンカウントなしをかけることも忘れていた。


 すっかり暗くなった夜の町で。


 話に聞いていた坊主頭の大男が、私たちの前に立ちはだかっていた。

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