第57話 緑あふれるAダンジョン、翠緑

 ギルドでカルロスと別れた後、私たちは宿に戻って一泊。翌日から翠緑すいりょくのあるエレクシア南方へ向かって歩き出した。


 今回は馬車ではなく徒歩移動。


 本当は町中で馬車に乗ろうとしたのだが、目が飛び出るほど金額が高かった。どうやら貴族が周囲に権威を示すための値段設定らしい。


 よって今日は無エンカ五倍速。実際のところ五倍速もあれば、移動速度は馬車とそこまで変わらない。疲れるから数日かかるような長距離はごめんだけどね。


 ちなみにレファーナは隆々亭でお留守番だ。別で装備製作のクエストを見つけたらしく、それを宿で受けてくれている。



「しかし良かったのか? 大男がリオを探しているという話だったが、レファーナ殿を一人にしてしまって」

「私も一応聞いたんですけどね。でも一人の時はステルスフードを被ってるし、安全がウリの隆々亭だから大丈夫だろうって」

「……確かにそれもそうか。王都でも一人暮らしをしていたと聞くし、余計な心配はかえって失礼か」


 フィオナと横並びで歩くだいぶ先で、スピカが見かけた魔物に容赦なく破壊の雨を振らせている。最近は破壊不足とのことで、たまった魔力を出さないと不健康になるとか言っていた。デトックスかな?


「ちなみにリオは、怖くはないのか?」

「大男のことですか?」

「ああ、私はなんだか落ち着かなくてな。主君に選んだ方が、狙われると聞いては……」

「大丈夫なんじゃないですか? 無エンカと絶対先制もありますし、きっと不意打ちされることはないと思います」

「……リオは本当に恐れ知らずだな。もちろん、それが頼もしくもあるのだが」

「任せてください! それに盗賊の才能レベルも上がったおかげか、最近は五感もやけに鋭くなった気がするんですよね」


 一番変わったと感じるのは視力だ。覚醒の儀を行う前。私は古書館で本を読みまくっていたせいで、人より視力が低かった。


 だが気付けば遠くの魔物を普通に見つけられるし、人の顔だって一キロ離れててもハッキリ見分けられるようになっていた。


 音や気配にも敏感になった。いまでは目を瞑っていても、足音だけで仲間がどこにいるか大体わかる。回避値ステータスが上がるということは、こういった感覚が鍛えられることをいうのかもしれない。



「だからあんまり心配してくれなくても大丈夫ですよ。きっと返り討ちにしちゃいますから!」


 私は二の腕に力を入れ、力こぶを作って見せる。が、フィオナはなぜか寂しそうな顔をした。


「主君が自衛できるのはいいことだが……私はリオの騎士なのだぞ。たまには大人しく、守られてくれてもいいではないか」


 フィオナが目線を下げ、言葉尻を弱めながら言う。


「…………もしかしてフィオナさん、ねてるんですか?」

「な、そんなわけないだろう!? 主君に対し、拗ねるなど……」

「でも拗ねてましたよね? ほっぺたちょっと、膨らんでましたよね??」

「だ、だから、拗ねてなど……」

「わあぁ、顔赤くなってる。かわいいーーー!」

「か、からかうのはやめてくれっ!」


 フィオナがぷいとそっぽを向き、手の平をこちらに向けて顔を隠そうとしている。


「もうもうっ、そういうことなら言ってくださいよっ! 私はフィオナさんに守られたいっ、イケメン女騎士に守られたいっ!」

「っ~~~!」


 フィオナは頬を染めながら悔しそうに奥歯を噛んでいる。これがくっころというヤツだろうか? やっぱり違う気がする。




 それから数時間後、私たちは翠緑すいりょくのある鉱山までやって来た。


 炭鉱の近くには作業員の住まう集落があったので、そこで尽きかけていた食料を補充。いまはお金に余裕もできたので、スピカの好きそうなパンやジャムも購入しておいた。B以下ならともかくAダンジョンともなると、数日ごしの探索は避けられないからね。


 その後は炭鉱入口の詰所つめしょで、依頼者でもある現場責任者と話をすることが出来た。


「この度は依頼を受けてくださりありがとうございます。まさか依頼した翌日に冒険者が来てくれるとは」

「いえ、私たちも渡りに船のタイミングだったので!」

「現在は安全が確認されるまで発掘作業を中止させております。中へは自由に出入りしてください」

「わかりました! いち早く作業が再開できるよう、ささっと探索を済ませてきます!」

「よろしくお願いいたします。そしてご安全に」

「はいっ!」



 あいさつを終えた後。私たちは炭坑内にあるダンジョン、翠緑すいりょくへと足を踏み入れた。


 ダンジョンの内観はゲームで見た通り、みずみずしい緑の葉をつけた大森林が広がっていた。


「わーーー! きれーな森だねー!」

「ああ、ここまで鮮やかな緑は見たことがない」

翠緑すいりょくって名前を付けただけのことはありますね」


 エメラルドを意味する、翠の字が当てがわれるだけのことはある。ゲームグラフィックを担当してくださったみなさん、あなたたちのおかげで現実クラジャンはこんなにも素敵になりました。


 天井からは光が差し込み、微かな鳥のさえずりが響いている。エンディングを迎える時は、こんな場所で寝転がりながら最後を迎えたいよねえ。


 ……と、話が脱線しかかったところで探索を開始。近くにいる魔物を”観察”しながら、降りる階段を探していく。




 名前:フォレスト・オーク

 魔物ランク:B

 ドロップ:薬草

 レアドロップ:木炭

 盗めるアイテム:トゲ棍棒(E)

 盗めるレアアイテム:毛皮の腰巻き




 名前:トレント

 魔物ランク:B

 ドロップ:聖水

 レアドロップ:猛毒草

 盗めるアイテム:植林の苗木

 盗めるレアアイテム:大木の苗木




 魔物の名前やアイテムを見ていると、なんだか懐かしい気持ちになってくる。


 特に人面樹トレントの持つ苗木なえぎは、領地に森を作る際の必須アイテムだ。これらを平地に植えまくることで、意図的に平地を森にすることが出来る。


 始めたての頃はトレントから盗む方法が主流だけど、やり込みが進むと買ったほうが早くなるからね。


 私も手探りで一周目をプレーしていた時は、成功率の低い盗む連打で苗木を回収していた。大変だったけどあの頃はあの頃で楽しかったなあ……


 感傷に浸りながら人面樹トレントを見つめていると――光の雨が降り注いで彼らを一掃する。


「オバケの木は滅びろ! 聖光瀑布ほーりーほーる!」


 周囲の木々を巻き込んだ破壊の後には、燃え尽きた樹木の骨組みだけがさびしく残っていた。


「リオー、はやく下に潜ろうよー! スピカ、早くボスと戦いたい!」

「……うん、そうだね」



 もうあの頃には戻れない――


 私は薄っすらと目を細めながら、スピカの後を追うのだった。




―――――


 おまけで立ち寄ったクエストなので、次のお話で翠緑すいりょくは踏破する予定です!

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