第56話 ミラ・ギルド本館にて
「さすがミラの冒険者ギルドだな。なにやら品格のような物を感じてしまう」
「ですね、造りやデザインも洗練されてる感じがします!」
木造のニコルとは違い、ミラのギルドは大理石で造られた立派な建物だ。王城の一室と言われれば、あっさりと信じてしまうだろう。
また冒険者同士のトラブルに備えてか、数人の衛兵まで配備されている。受付の数だってニコルの倍はある、唯一の欠点はガーネットがいないことくらいだ。
私たちはとりあえず掲示板に向かって、いま出ているクエストを確認する。
(もうAクランにまで昇格したし、Sの討伐クエスト以外は受けられる。でも……)
パッと見た限り、Aランク以上のクエストが見つからない。これがマチルダに聞いた、トライアンフの
まさか既に攻略済み? いや、攻略済みなら今日まで飛竜を目にしないのは変だ。攻略条件も普通ではないし、単純な脳筋冒険者でも対処は難しい気がする。
「なんじゃ、シケたクエストしか出てないのぅ」
「スピカもツワモノと戦いたい! 体に魔力があまってる!」
「どうする、リオ。さすがになにも受けずに去る、というのも味気ないように感じるが……」
「一度、受付に相談しに行きましょう。詳しい話も聞いてみたいですし、ビラ置きの相談もしたいので」
「じゃな。受けるクエストが減っているのであれば、蟲毒へ行ってくれる冒険者も多いかもしれん」
蟲毒はそもそもAランクの特注ダンジョンだ。
ビラのキャンペーンは初心者向けだが、手ごたえのあるクエストがない以上、中級以上の冒険者も遊びに来てくれるかもしれない。
私たちが受付に向かうと、優男っぽい事務員が一礼して言った。
「冒険者ギルド、ミラ本館へようこそ。お嬢様方のお相手をさせていただくのはこの私、カルロスと申します」
「はい、よろしくお願いします!」
「お元気な挨拶、ありがとうございます。では本日のご用件をお伺いいたします」
「用件は色々あるんですけど……なんか高難度のクエスト少ないなーって思いまして」
「ああ、申し訳ございません。現在、諸事情により低難度のものに集中しており――」
「私たちスタンテイシアのAクランなんです。今日届いたクエストでもいいので、なんかいいのありませんか?」
「……! それは失礼しました。では冒険者ライセンスをお借りしても?」
カルロスにライセンスを手渡すと、カードリーダーのような魔道具でスキャン。すると私たちの実績みたいなものが宙に表示される。
おそらく投影の水晶を応用した魔道具だろう、やっぱ都会は進んでるなぁ。
「ふむ。落とし物の回収から、猛毒草の回収。そしてDダンジョンの踏破に……ヒュドラの討、伐?」
実績を見るたびにカルロスの笑みが、引きつっていく。
そして信じられないような顔で私たちに視線を戻し……ハチの着ぐるみを被った、青髪少女にようやく気付く。
「ス、スピカ様っ!?」
カルロスが思わずその名を口にしてしまう。するとその声を聞いた、冒険者たちのざわめきが広がり始める。
「……マジだ、あの格好。昨日見た大聖女さまの新衣装だぜ」
「ついにスピカ様の
「大侵攻も被害なしで食い止めたって聞いたし、周りの三人もトライアンフ以上の実力者かも?」
自分の失態で騒ぎを大きくしたことに、カルロスもいよいよ余裕の表情が消え始める。
「じ、実績のほう、拝見いたしましたっ! 急ぎ本日到着分のクエストを確認……いえ、奥の応接室まで御案内します」
「ありがとうございます!」
人目を避けるためだろうか、カルロスの厚意で私たちは奥の部屋に通してもらえることになった。
***
応接室に通してもらった後、カルロスは真面目な表情で私たちに頭を下げた。
「先ほどは失礼しました。まさか大侵攻を食い止めた、リブレイズの方々であるとは気付けず……」
「お気になさらないでください。むしろ特別扱いしてもらったみたいで申し訳ないです!」
「これくらいの待遇は当然です。今後も御用があれば私の方で承ります。……これでも受付主任を務めているので、いくらか融通は利かせられるかと」
「主任か、悪くないのぅ。であればお主には、より高い地位に昇進してもらわねばな?」
「……ハハ、がんばります」
レファーナの言葉にタジタジとしながら、カルロスは曖昧な笑みでうなずいた。
「で、今日届いたクエストはなにかありましたか?」
「はい。現在はこちらの一件だけになりますが……」
討伐クエスト:南方の鉱山で発見されたダンジョン、
クエストランク:A
達成報酬:700万クリル
だが私が探しているのは『昇竜王の説得』だ。そのクエストが受けられるなら最優先で終わらせたい。
「ちなみに昇竜王に関係するクエストって出てませんでした?」
「……昇竜王の説得ですか? あのクエストは何年も出たままになっており、また告知期限が過ぎたので依頼者に継続するか確認中です」
「それ、私たちが絶っっっ対に達成させるので、すぐ依頼者に連絡してもらえます?」
「わ、わかりました。そのようにお伝えします」
「その間に
「ありがとうございます!」
「それともうひとつお願いしたいんですが、こちらのビラをギルドに置かせてもらうことは出来ますか?」
例のビラを一枚、カルロスに手渡した。
「特注Aダンジョンの、挑戦キャンペーンですか……」
「はい。駆け出し冒険者が一気にレベルアップできるので、きっと冒険者の受けられるクエストランクも上がると思うんです!」
「……なるほど。一度持ち帰りにさせてもらいますが、ギルドで配布するのは難しいかもしれませんね」
「えっ、どうしてですか?」
「ミラは首都で、人が集まることでさらに栄えている町です。地方に人を集めるような企画に協力すると……町のお
申し訳なさそうなカルロスに、レファーナが一言を付け加える。
「もしギルド配布での紹介が成立すれば、一件につき5000クリルの報奨を出す。……といっても難しいか?」
「そう、ですね……我々も組織なので、申し訳ありません」
「構わぬ。こちらこそ無理を言ったな」
レファーナは私に目配せをし、小さく首を振る。これ以上は食い下がるな、ということだろう。
「他になにかご用件は御座いますか?」
「用件ではないんですが。トライアンフというクランについて、すこしお聞きしたいのですが」
私がその名を出すと、カルロスはハッとした表情で眉間にしわを寄せた。
「そうでした、まずこの話を一番にお伝えするべきでした」
「えっと?」
「これは昨日、ギルド別館の受付嬢から聞いた話ですが……坊主頭の大男が『リブレイズのリオ』をすごい剣幕で探していたとの事です」
「えええ!? トライアンフの人ですか!?」
「彼らは目まぐるしくメンバーが変わるので、一員かは断言できません。ですが……その可能性は高いかと」
大男が
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