第55話 エレクシア首都、ミラで自由行動

 教皇たちとの話し合いが終わった後、私たちは夕飯をご馳走になり大聖堂で一泊。


 明けた翌日、ミラで自由行動を開始した。


 ちなみに町中の移動中はずっとエンカウントなしをかけている。スピカが見つかるたび、いちいち声をかけられても大変だからね。


「して、これからどうする? せっかくミラまで来たのじゃから、すぐニコルへ帰るということもなかろう?」

「当然です! ひとまずはしばらく泊まれる宿屋を探しに行きましょう!」

「ふむ、そしたら筋骨隆々亭がよかろう」

「えっ!? あれってミラにもあったんですか?」

「出資元に冒険者協会もついてるからの、大陸全土に支店があるはずじゃ」


 筋骨隆々亭……お前そんな規模だったのか。


 どうやら女性冒険者にも活躍の場を増やすため、冒険者協会も進んで協力しているらしい。ガーネットにオススメの宿を聞いた時、するっと答えられたのも納得だ。


 私たちは近場の隆々亭に寄り、四人が泊まれる大部屋を一週間予約。軽装に着替えてふたたび町へと繰り出した。


「さて、せっかくミラに着いたことだし! 広場のフリマを見に行きましょう!」

「……リオ。フリマとは一体なんのことだ?」

「フリーマーケットのことです! 商人でなくとも主催者に許可をもらえば、誰でも一日だけお店を開くことができるんですよ!」


 フリーマーケットはプレーヤー間でアイテム取引を行うことが出来る場所だ。


 ゲームでは普通の買取屋に持ち込むより、高く売れると判断したものがよく出品されている。


 無限に必要な錬金素材だったり、わけあって属性変更した装備。過去イベント限定のアイテムなどをよく見かけた。


 とはいえ、一部の高ランク装備やレアアイテムは制限されている。なんでもアリにするとリアルマネー取引の温床おんしょうになっちゃうからね。


「見たことない売り物がいっぱいだねーー!」

「当然じゃ。ミラでは手に入らない物の方が良い値がつくからの」


 だが現実ではそこまでマニアックな商品はなく、遠方の品や中古装備がよく出回っているようだ。


「わわ、見て! たくさんの着ぐるみが売ってるよ!」


 スピカが指差したのは着ぐるみを専門に出品する露店だった。


 高ランク装備そっくりの鎧やローブに、魔物への擬態として使えそうな凝った物まである。


「ねえ、リオ! ハチさんじゃない着ぐるみも欲しい、買って!」

「……そうだね、二着までなら選んでいいよ」

「ホント!? リオ大好き!」


 キラキラと目を輝かせるスピカに対し、レファーナが怪訝な表情で耳打ちしてくる。


「……よいのか? 甘やかしすぎるのも教育に良くないぞ?」

「いやぁ。どっちかというと、これは私のためなので……」


 スピカに着ぐるみを飽きられてしまえば、また装備を一級法衣に戻されてしまうかもしれない。バランスブレイカーを制御する意味でも、スピカには飽くなきコスプレイヤーでいて欲しい。


「決めた! これとこれにする!」


 スピカが選んだのは……ゴブリン激似の着ぐるみと、コミカルなドラゴンの着ぐるみだった。


「毎度あり~、二着で15000クリルっす~」

「あの、すいません。ちなみに攻撃力をゼロにする着ぐるみって売ってません?」

「なんすかそれ、呪いの装備?」


 もちろん売っているはずもなかった。


 その後。私たちはフリマをぐるりと一周し、めずらしい特産品の買い食いだけをして過ごした。


 フリマを見学した後はレファーナの頼みで、ミラで一番大きな買取屋へ。


 私はレファーナに付き添い、フィオナとスピカには外で待機。近くにアイスクリームの屋台があったので、そこで時間を潰してもらっている。



「レファーナさん、なにか買い取って欲しい物があったんですか?」

「まあな、リオにも関係する物じゃ」

「私に関係する物?」


 考えている間もなく、買取口のカウンターに従業員がやってくる。そしてレファーナがポーチから取り出した物を見ると、従業員はギョッとした表情を見せた。


「こ、これは……ア、アダマンタイトですか!? 少々、お待ちくださいっ!」


 レファーナが買取口に置いたのは……三つのアダマンタイトだった。


(あれってマジックポーチを作ってもらう時に渡した、アダマンタイトだよね……?)


 一個200万クリル換算で、20個渡したアダマンタイト。とっくに現金化してると思ったけど、まだ手元に残ってたんだ。


 でもどうして三個だけ?


 私がその疑問を口にしようとしたところ、カウンター奥から執事服を着たデキる風の男性が現れた。


「鑑定の方を変わらせていただきます。お品物、拝見してもよろしいでしょうか」

「かまわぬ」

「では、失礼して」


 男性は一礼をし、ひとつひとつ時間をかけて検品していった。そして三品の鑑定を終えたところで、ゆっくりと穏やかな声で言った。


「いずれも素晴らしいお品物です。こちら二点を……320万クリル、一点を280万クリル買取で如何いかがでしょうか?」

「売ろう、交渉成立じゃ」


 !?!?!?


 売却金額を聞いた私は、たちまちパニックに陥る。お金を受け取ってカウンターを離れた後、私が動揺しているのに気づいたレファーナがくっくっくと笑ってみせる。


「……驚いたか?」

「驚きますって! どういうことですかっ!?」

「なんてことはない。売り方に工夫を加えれば、いくらでも値段は釣り上げられるということじゃ」


 レファーナ曰く。受け取ったアダマンタイトはすぐに売らず、状態を良くするため加工をほどこしたらしい。


 まず鉱石の汚れた表面を、質の落ちない磨き布で丁寧に拭いていく。


 また内部の不純物を取り除くため、乾燥木材と共に密封。するとわずかに含まれた不純物が外に溶け出し、一週間もすれば純度が向上するらしい。


「売る時は地域も分散することじゃ、まとめて出品すると近郊での供給率が高くなる。すると次の取引では値下がりする恐れがあるからの」

「ひ、ひえええっ……そんなことまで考えてたんですね」

「すこしでも楽して儲かりたいなら、キチンとした知識が必要じゃ。リオも領地経営を考えておるなら、他人事ではないぞ?」

「肝に銘じます!」


 やはりレファーナはすごい人だ。知れば知るほどすごさが浮き彫りになっていく。私は背筋をピンと伸ばしてかしこまると、レファーナはふっと優しい笑みを見せる。


「で、先ほどの三つですべてのアダマンタイトは換金し終わった。……リオ、ステータスを開け」

「えっ?」

「いいから早くするのじゃ」


 私は言われるがままにステータスを開くと、レファーナから1900万クリルが送金されてきた。


「なんのお金ですか!? これっ!?」

「最初に約束しておった、4000万クリル以上に出た利益の差額じゃ。それをリオに支払った」

「……でもこれはレファーナさんが生み出したお金で、私に払う必要はないんじゃ?」

「いいから受け取れ。商談していた時と違って、リオは身内じゃ。炎竜団を救ってもらった恩もあるし……後ろめたい真似はしたくないのじゃ」


 そっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言う。そんなレファーナを前にして私は……


「もーーーーっ、レファーナさんホント好き! 大好きっ!!」

「事あるごとに抱き着くなと、何度も言うておるじゃろ!」


 このツンデレのじゃロリ天才縫製師は、どこまで私を落とせば気が済むというのだろう。ここまで言わせて断ることもできないので、アダマンタイトの利益はありがたく頂戴した。


 思えばエレクシアに来てから、何度か大金を受け取っている。ここらで少し計算し直しておこう。




☆☆☆


 ニコル出発時の所持金:2949万クリル


 大侵攻の討伐報酬   +1200万クリル

 サンキスティモールへの募金   -1000万クリル

 ダンジョン蟲毒・入場料   -1万クリル

 蟲毒紹介キャンペーンのチラシ制作代金   -5万クリル

 鉄仮面1000個の売却   +500万クリル

 修道女の護衛クエスト達成   +30万クリル

 盗賊団インフェルノ・ゴッド・カリバーン壊滅   +400万クリル

 賞金首インフェルノ・ゴッド・カリバーンの捕縛   +300万クリル

 大聖女スピカの発見   +2000万クリル

 筋骨隆々亭ミラ本店・一週間契約   -17.5万クリル

 着ぐるみ二着購入   -1.5万クリル

 アダマンタイト余剰利益   +1900万クリル

 食費・雑費   -4万クリル


 合計:2949万クリル   →   8250万クリル


☆☆☆



 なんかめっちゃ増えた!


 あとに見込める収入としては……鉄仮面758個の売却益と、蟲毒の紹介金かな。


 1億クリルも目前まで迫ってきたが、クランハウスや領地まで見据えるなら全然足りない。もっとお金をいっぱい溜めこまないと。


 そういえばミラではまだ蟲毒のビラ配りもしていない。


 これまでのように手で配ってもいいけど……サンキスティモールでお願いしたように、ミラの冒険者ギルドにもビラを置かせてもらえないだろうか?


 どちらにしろミラまで来たのだから、飛竜ひりゅう解放かいほうのクエストだけは完了させておきたい。


 このクエストを完了させないと、いつまでたっても最速の移動手段が馬車のままだからね。


 ミラに来るだけでも約半月もかかってしまった、ガーネットのいるニコルにはサッと帰れるようにしておきたい。


 そう考えた私は、ひとまずミラの冒険者ギルドへと向かうのだった。

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