第51話 策士レファーナの金策
「いやぁ~、リオさんたちと会えて本当に良かった」
「私もです、また遊び来ますね!」
翌日、私たちはロブのあたたか牧場を後にすることにした。
コラプスロッドも満足いくまで集めたし、牧場改造計画の話もレファーナがかなり詰めてくれたようだ。
ちなみにロブの奥さんは、ついぞ一度も実験室から出てくることはなかった。
「すみませんね、無愛想な嫁で。次に来るときは挨拶するよう声をかけておきますよ」
「なに、自然体でかまわぬ。それにアチシらの宣伝がうまく行けば、奥方は今以上に殺虫剤を作ることになりかねんしな」
「はっはっは、その辺はお手柔らかに頼みますよー」
別れ際にレファーナとロブが握手を交わす。私たちがダンジョンに潜ってる間、どうやら大人同士の話もだいぶ進んだようだ。
「では、ロブさん。お元気で!」
「みなさんもお気を付けて~」
こうして私たちは初めてのクラン領地、あたたか牧場を後にしたのだった。
「そういえばリオ。アチシと会う前に受けたクエストで、大量の猛毒草を回収したとか言っておったな?」
「してましたね、奈落に潜る前の金策としては、かなり美味しかったので」
「あの時に回収した猛毒草。どうやらロブ嫁が殺虫剤の原料とするため、そのほとんどを買い取ってたらしいぞ」
「ええっ!? 意外なつながりっ!」
「本当にな。そしてアチシらの計画がうまく行けば……あの時の猛毒草はめぐりめぐって、ふたたびアチシらの利益となるのじゃ」
下山する途中。私たちはレファーナがロブと結んだ契約を教えてもらった。
あたたか牧場の持つAダンジョン、蟲毒への挑戦と殺虫剤は非常に相性がいい。上手く使えば駆け出し冒険者たちは、超速レベリングすることができる。
だがロブや牧場の人たちは、そこまで宣伝する気がない。いまの牧場経営の利益だけで十分といった具合だった。だから私たちリブレイズが、その宣伝を引き受けることにした。
まず、私たちはこれから練り歩く町で殺虫レベリングを大々的に宣伝。
レファーナが作ったチラシを持って牧場に行くと、殺虫剤10個を無料プレゼント。加えて蟲毒への入場料も半額。
このキャンペーン期間は一ヶ月。1件の紹介が成立すると、牧場からリブレイズに10000クリルの紹介料がもらえる契約だ。
「それ、大丈夫なんですか? 話だけ聞くと、牧場が大損のように聞こえますけど」
「そうでもないぞ? この辺りを見回してみろ、リオの目にはなにが見える?」
「なにって言われても……木と山しか見えませんけど?」
「その通りじゃ、辺りにはなにもない。するとレベリング目的でやって来た冒険者は、食料や寝床などの必要物資を牧場で揃えるしかなくなるじゃろ」
「……なるほど。牧場は冒険者の生活費で潤う、というわけですか」
横で話を聞いていたフィオナの言葉に、レファーナが得意げにうなずいた。
「蟲毒一層に出てくるアーミーアントは殺虫剤でイチコロじゃ。無料の殺虫剤10個もあれば、レベル1の冒険者でも20くらいまではレベルアップできる。楽なレベリングを知った冒険者は殺虫剤を自腹で買いつつ、一週間は滞在するじゃろう。牧場としても余裕で元は取れる」
「す……すごい! さすがは天才縫製師っ!」
「ふふ、任せろ。まずはサンキスティモールに戻ってチラシを撒きまくるぞ、お主らも手伝ってくれるな?」
レファーナの頼みに、私たちは三者三様の返事をする。
「もちろん!」
「心得た」
「よくわかんないけど楽しそう!」
その後。町に戻った私たちは広場で蟲毒のチラシ配りを始めた。
もちろん町長の許可は取っている。町の救世主の頼みであればなんでも受けると、二つ返事であっさり了承してくれた。
住人の食い付きも上々だ。前回の
「町の広場で英雄たちがなんかやってんぞ?」
「なんでも期間限定で、めちゃくちゃ楽なレベリングが出来るらしいぜ!」
「絶対にもらって来た方がいいわよ! しかも大聖女さまがとても可愛いカッコしてるの!」
スピカはいまもハチさん着ぐるみに身を包んだままだ。そのカッコでチラシを配る姿も妙にウケてしまい、広場には多くの人や冒険者が集まった。
夜には冒険者ギルドを訪問し、カウンターにチラシを置かせてくれるようお願いした。ギルドとしても冒険者の平均レベルが上がればいいことだらけ。こちらも二つ返事で許可をいただいた。
私たちは下山した初日で1000枚のチラシを撒き、別で500枚をギルドに置かせてもらった。もしすべてのチラシが牧場に持ち込まれれば……1500万クリルの報奨がもらえることになる。さすがに美味しすぎる!
もうずっとチラシ配りだけしていたい。……が、そうもいかない。
そもそもサンキスティモールに住む人には、今日一日でチラシを渡しきってしまった。もし蟲毒への訪問者を増やすなら、別の地域で配らないと意味がないだろう。
なにより私たちがこの地域に滞在していたのは、本聖堂からスピカ旅立ちの許可を待っていたからだ。
「……スピカ様、なんですかその恰好は」
「見て見て、まっちー! ハチさんだよ、イカすでしょ!」
「ああ。エレクシアの大聖女ともあろう方が、魔物の姿をして喜ぶなど……」
ため息をつくマチルダに向かって、スピカが針のついたお尻をぶんぶん振っている。
「そしてリオさんたちもです。昨日のうちに下山したのであれば、真っ先に私たちの元へ来て欲しかったのですが」
「あはは、すいません。ついチラシ配りに夢中になっちゃって……」
「……まあ、良いでしょう。とりあえず本聖堂からは、流転巡礼の許可が正式におりました」
「ホント!? やったー!」
「ただし、ふたつ条件があります」
マチルダがコホンと咳ばらいをし、真面目な顔をする。
「ひとつはスピカ様をお預けする前に、一度本聖堂へ戻っていただきたいのです」
「えー行かなくていいよー。もう
「……スピカ様は大聖女なのですから、旅に出ても聖堂との縁は切れません。それに本聖堂でお預かりしている、先代の持ち物を受け渡す必要もございます」
「あっ、それ気になる!!!」
新たなレア装備の予感に、思わず前のめりになる。
(大聖女の品は作中にもいくつか登場するけど、どれも強力な装備だからもらっておきたいよね!)
予定より長くニコルから離れることになるが、どうせなら色々なところを旅してまわりたい。それに蟲毒のチラシをもっと配りたいし、せっかくならクラジャン世界の中心地にも行ってみたい!
「わかりました! 本聖堂までスピちゃんをお連れします!」
「え~リオ行くの~? あんなトコ行っても楽しくないよ?」
「でも私は見てみたいなぁ、それに本聖堂があるのってエレクシアの首都ミラでしょ? できればスピちゃんにいろいろ案内して欲しいかも!」
私が両手を合わせてお願いすると、スピカは得意げな顔で肩をすくめてみせた。
「ふ~やれやれ、これだからおのぼりさんは。仕方ないからスピカが、しょみんの願いを聞いてあげよっかな!」
「ありがとー! スピちゃん大好き!」
ちょっと露骨すぎるかなと思ったが、スピカが気づいた様子はない。得意げなスピカを見て、周りの大人たちは私たちに微笑ましい目を向けている。
「ちなみに、もうひとつの条件はなんですか?」
「はい、これは本聖堂に行く過程でのお願いなのですが――私たち修道女がミラに戻る馬車を、護衛していただきたいのです」
「そんなことでしたら喜んで!」
「もちろん、これは正式な
私たちは臨時クエスト、修道女たちの護衛を任されることになった。
―――――
特別クエスト:馬車に乗る修道女たちを、無事に本聖堂まで送り届ける。
クエストランク:C
達成報酬:30万クリル
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