第49話 続けて二十層ボス:ビートルパンツァー
ハチノスを倒した後、私たちは十四層まで歩いてそこでキャンプを張った。
今日のスピカはおとなしく携帯食料を食べている。……といっても、昨日と同じモノを食べているわけではない。
ハチノス戦でドロップしたハチミツ。それをパンケーキ味の携帯食料に塗り、無理くりに
私も甘いものは好きだが……さすがに甘すぎると思う。スピカがそれでいいならと思いつつ、私とフィオナは顔を引きつらせてその様子を見守っていた。
そして翌日。
いよいよサタンモスクの出現階層に入る頃合いだ。
本当であればその姿を見た瞬間、スティールアンドアウェイをしまくりたい。
が、今はその欲求を抑え……先に二十層ボスを討伐してしまうことにした。
「いいのか? もちろん私はリオの指示に従うまでだが」
「構いませんよ。だって私のスティールアンドアウェイをずっと見てても、みんなヒマだと思いますから」
私はコラプスロッドを複数本確保するつもりでいる。が、未実装レアの複数確保が一日で終わるはずもない。
だから先に二十層ボスを討伐し、脱出ゲートでスピカとフィオナを先に帰れるようにしておく。そうすれば私は気兼ねなく、スティールアンドアウェイに集中が出来るという
私はなにげなくその考えを口にしたのだが……フィオナはひとつ深呼吸を着いた後、真面目な顔で言った。
「リオの心づかいには感謝する。だが私はリオの騎士だ、
「あ、えっと、はい…………」
フィオナのあまりにも真っ直ぐな言葉に、思わずドモってしまう。
(ううっ、顔が熱いよぅ……こんな美しくもイケメンな女性に、告白みたいなこと言われたら照れるって!)
おそらくこれが騎士の在り方、生き方なんだろう。でも転生してきた私には馴染みある物じゃない。生涯を捧げるなどと言われ、平然としてられるほど私だって女子をやめていない。
私はてれてれでフィオナの言葉にうなずくと、安心したように肩の力を抜いてくれた。くうぅっ、カッコいい女子ってずるいなぁ……
ちなみにスピカにもこの提案をすると「うん、わかった!」と秒で頷いてくれた。素直でよろしい。
ということで二十層ボスの前までやって来た。いよいよ特注ダンジョンの初踏破も目前だ。
「次はどんなボスが出るんだろうね! スピカ楽しみ!」
「今度のはハチノスより強いボスだと思うよ。
「りょーかい!」
……と説明したが、実際はスピカが弱体化しただけだ。
スピカはあれからずっとハチさん着ぐるみを身に着けたまま。チート防具であるエレクシア一級法衣は、マジックポーチの中で眠っている。
私たちが討伐困難な敵と遭遇するまで、しばらくはスピカにはハチさんのままでいて欲しい。いや衣装に飽きた時に備えて、別の衣装を揃えておいたほうがいいかもしれない。ここは縫製師のレファーナに要相談だね。
と、話が脱線しかかったところでボス部屋へいざ入室。
扉の奥にいたのは……戦車だった。
名前:ビートル・パンツァー
ランク:A+
ドロップ:火薬
レアドロップ:ヘラクレスのお守り(B)
盗めるアイテム:鉄鉱石
盗めるレアアイテム:鉄球
(よりにもよって、めちゃキモいの引いてるし!)
目の前にいるのは魔物というより、戦車だった。その戦車をぐるり取り囲むようにカブトムシの頭がついており、ツノの代わりに多数の砲門がついている。
ゲームでもめちゃキモかったのに、実物で見るとそれ以上だ。ぬらりと黒光りする外郭が一層キモさを引き立てている。
(っと、いつまでもボーっとしてられない。まずは挑発で後ろの二人から狙いを外さないと!)
とりあえず私は戦車に向かって前進、挑発でこちらに注意を向ける。
……が、そこで自分の行動の無意味さに気付く。なぜなら戦車は全方位に砲門を持っているのだから。
「二人とも! 砲門の射線に入らないように注意して!」
私が叫ぶと同時、戦車から爆発音。すべての砲門から一斉に破壊の一撃が放たれる、全体攻撃だ。
「――っ!」
突然のことだったが、運よくフィオナは射線から外れていたため無傷。顔のすぐ横を砲弾が掠めていった。
が、スピカはそうもいかなかった。顔に砲弾が直撃したのだ。
大きな破裂音と共に、首から頭部にかけて白煙が立っている。
人の頭に砲弾がぶつかるという光景に、私の背筋と足は凍り付く。最悪の想像が私の脳裏を掠める、が……
「いたーーーっ! なにすんだよぉー!」
白煙の中から、涙目でおデコをさするスピカが姿を現した。
(…………はーーーっ、心臓が止まるかと思った!)
そもそもスピカをダンジョンに連れてきたのは、絶対に安心できるスキルを複数持っていたからだ。
そのひとつが
どんなに強力な攻撃でも、ダメージを最大体力の一割に落とす超強力なバリアだ。
このスキルと回復魔法があれば、スピカにはそうそう窮地は訪れない。強いて言えば連撃や集中攻撃に弱いくらいだろうか?
「スピカ! 大丈夫!?」
「ちょっと痛かったけど、だいじょーぶ。……あいつムカつく! 仕返ししたい!」
「うつ伏せになりながら攻撃魔法だけお願い、フィオナさんも! 戦車の足止めは、私がなんとかするから!」
「わかったー!」
「了解した!」
挑発をかけた私までうつ伏せになったりしなければ、砲門が下を向くことはない。
スピカには絶対的な防御はあるが、痛い思いはさせたくない。ここは年上の私がすこしはカッコいいところを見せないと!
とりあえず現実では初見なので、戦車に近づいて何度か短剣での打撃をくわえてみる。が、鋼鉄装甲の戦車にはあまりダメージが通らない。すると有効なのはやっぱり魔法攻撃か。
「フィオナさん!
「やってみる、
不気味な鋼鉄の塊に向かって、極寒の吹雪が降り注ぐ。すると砲塔の駆動部とキャタピラが凍り付き、その場から動けなくなった。
今がチャンスだ。私はポーチから極光の指輪を取り出し、不気味な戦車に狙いを絞る。
「その外見は犯罪だからくたばって! 破壊光線っ!」
私の狙い通り、破壊光線は砲門の中心部を捉えることに成功。装甲の内部に攻撃を受けた戦車は爆発、そして炎上。
どうやら魔物扱いになっているが、構造は本物の戦車と同じようだ。炎上した戦車の内部で、誘爆した砲弾が次々に炸裂音を立てている。ややあって炎上する戦車は、さらさらと宙に溶けていった。
「……これで討伐、完了なのか?」
「みたいですね。フィオナさんもお疲れ様です!」
戦闘開始直後はヒヤッとしたけど、思いの外あっさりと倒すことが出来た。
「そういえばスピちゃんは?
「あそこで寝ている。どうやらうつ伏せになった瞬間に眠くなり、そのまま寝てしまったようだ」
「ボス戦闘中だったんですけど!?」
チートを持っているとはいえ、さすがに自由過ぎる。私よりもゲーム感覚でこの世界を楽しんでない?
「スピカは私が見ていよう、リオはその間に宝箱を」
「そうですね!」
お楽しみを譲ってくれる
まずは確定宝箱から。あまり確定枠にはトキメキを感じないのだが、未実装ボスとなれば話は別。
いい出会いに期待しつつ宝箱を開けると……中には
(うーん。大ハズレってことはないけど、これは買取屋行きかな)
守備力をわずかに上げるアクセサリだ、追加効果もない。プレーヤーの間でもオシャレ装備枠の扱いをされている、対してオシャレでもないけど。
続けて開けた宝箱にはノーマルの火薬。そして最後の宝箱にはレア枠の、ヘラクレスのお守り(B)が入っていた。こっちは比較的アタリだ。
ヘラクレスのお守りは、物理攻撃力に補正が入るアクセサリだ。アクセサリは様々な特性を持つ物が多いが、物理攻撃に補正が入る物は少ない。
必需品と言えるほど性能は高くないが、あればいつか役に立つかもしれない。大事に取っておこう。
「さて。これにて蟲毒の探索も終わったことだし……戻って、いいですか?」
ボス部屋に出現した脱出ゲートではなく、入ってきた時の扉を指差しながらフィオナにたずねる。
「無論だ。私はスピカが起きるまで、休んでおくとしよう」
「じゃあ私は……コラプスロッドを盗みに行きますねっ!」
「ああ、行ってらっしゃい」
「いやっほーーーう!」
ようやく待ちに待った未実装レアの無限周回だ。久しぶりのスティールアンドアウェイということもあり、私の廃人魂もうずいている!
サタンモスクの通常盗む枠は「鉄仮面(D)」だったので、ハズレを引いてもお小づかい程度にはなるハズだ。
コラプスロッドの確保目標は16本。バッチシ気合入れていきましょう!
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