第45話 北の領地に向かって出発!
宴の明けた翌日。マチルダの呼び出しを受けた私たちは、ふたたび町の聖堂に集合した。
「……こうなってしまっては仕方ありません。年齢的には少し早いですが、本聖堂には『
「やほーい! きせいじじつサイコー!」
「なにが最高ですか……
「まっちーも大変だねぇ。あ、もしウザいやつがいたらスピカにゆってよ。ほーりーほーるで消し炭にしてあげる!」
「ス~ピ~カ~様ァ~? ですから、そのような短絡的な考えと行動を慎んでくださいと何度も……!」
「いはいーーー!」
スピカの顔がまた横に伸ばされている。一通りスピカへのお説教を終えたマチルダは、改めて私たちに向かって頭を下げる。
「……と、いうことで。リブレイズの皆さまもよろしかったでしょうか?」
「はい! 私もスピちゃんが一緒のほうが楽しいので大歓迎です!」
「わーい! リオ大好きー!」
スピカが真っ直ぐに抱きついてくる。ストレートな好意が嬉しく、私はスピカの頭をわしゃりと撫でまわす。
「これから早馬で本聖堂に許可を取らせに行きますが……おそらく降りるでしょう。大聖女失踪の不祥事を拭い去るには、これを認めるのが最善の解決ですから」
「でも……大丈夫なんですか? 大聖女の巡礼開始って十五歳からでしたよね?」
「大丈夫です。そもそも十五歳と言われているのは、先代がその年齢で始めたというだけ。特に厳格な決まりや歴史で、そう決まっているわけではありません」
「あ、そうだったんですね」
「それにスピカ様を本聖堂に縛り付けても、お世話を持て余すというのが正直なところですから……」
「あはは……」
確かにこの元気っ娘を管理しようと考えるのが、そもそもの間違いかもしれない。
次につく世話係がいい人たちだったとしても、型にハマらないスピカのことだ。また家出をくわだてるかも知れない。
(つまり……なんだろう。私たちは大聖女を仲間にしたというより、世話係を押し付けられたってこと?)
そう考えるとチートキャラを仲間にしたというより、ハズレくじを押し付けられたような気がしてくる。別に不満はないからいいんだけど。
「では今日からスピちゃんをクランメンバーとして扱って大丈夫ですか?」
「そちらは問題ありませんが、ひとつだけお願いがあります」
「なんでしょう?」
「本聖堂から公式発表が出るまでの間、町からは出ないでいただきたいのです。本聖堂も大きな組織ではあるので……発表前に動かれると
なるほど、つまり顔にドロを塗られるということか。
確かにそうなってしまっては心証を悪くするかもしれない。余計なトラブルの元は避けるに限る。
(でも町から一歩出ない、ってのはなぁ……)
私もスピカほどじゃないが、ずっと町にいろと言われるのはしんどい。
北の特注ダンジョンは目と鼻の先だ。
コラプスロッドという実装前レア装備を目にした以上、潜りたい欲を抑える自信がない。本聖堂の発表なんか待っていたら、私の激しい貧乏ゆすりでサンキスティモールが地盤沈下を起こすかもしれない。
そうすれば多数の死傷者が出る、これは人命にかかわる最優先事項だ。そう考えた私はせめて北のダンジョンくらいには……とマチルダへお伺いを立てる。
「……うーん、そうですね。北の地は人の出入りが少ないと聞いております。目立った行動をしないと約束いただけるのであれば、私としては問題ありません」
「絶対に大丈夫です! おとなしくするのは得意ですから!」
私が元気にマチルダへ返事をすると、なぜか味方二人がジト目を向けてくる。ひどいなぁ、私は
「では北の領地までということであれば許可いたします。私もしばらくは聖務で町におりますので、戻られた際は一声かけてください」
「了解です!」
こうして私は正式に大聖女スピカをクランに加え、特注のダンジョンがある北の領地へと出発したのだった。
***
と、その前に冒険者ギルドへ。
無事にリブレイズ入りしたスピカは、一応Bランク冒険者としてスタート。もう少し高ランクからスタートしていい気もしたが、レベルの低さが足を引っ張った。
スピカは
これでは
お次は討伐報酬。スピカがリブレイズの正式メンバーとなったことで、八割強の魔物は私たちが倒したことになっている。
討伐報酬は全部で1200万クリル。……が、私たちは200万クリルしか受け取らなかった。
死者が出なかったとはいえケガ人や一部施設の倒壊、畑や道は魔物たちに踏み荒らされたままだ。その復興に当てて欲しかったので、募金という名目でお返しした。
一通りの手続きが終わった後、ようやく北の領地へ向けて足を踏み出した。
「わーい、わーい! 冒険だ、ダンジョンだ、クエストだー!」
ご機嫌なスピカを加えた私たち四人は、徒歩で北のクラン領地に向けて山を登っている。
「スピカ、気を付けるのじゃぞ? 先日の大侵攻で街道は
「はーい!」
と、言いつつスピカは元気にはしゃぎまわっている。やっぱり十二歳じゃないでしょ、あのコ。
レファーナの言う通り、辺りは魔物の足跡でいっぱいだった。私たちがこうして徒歩で移動してるのも、馬車が走れないほど街道がデコボコになっているからだ。
「レファーナさんも疲れたら言ってくださいね? 生活種の人に長時間の移動は大変だと思うので」
「安心せい。アチシとて炎竜団と何度もダンジョンにも潜っておる、これしきの移動で……」
と、言いかけたところで窪みに足を引っ掛け、レファーナが前につんのめる。危険を察知した私は素早く移動し、転びかけたレファーナの体を横から支える。
「もう、気を付けてくださいね」
「す、すまぬ」
しおらしくも素直に謝るレファーナ、可愛すぎか?
可愛すぎなのでそのままお姫様抱っこで持ち上げてみた。
「……って、なにを抱きかかえとるのじゃ。さっさと下におろさんか」
「えーしばらくこのまま行きましょうよ。せっかくレファーナさんを
「ええいっ、離せっ! 頬ずりするな! フィオナからもなんか言ってやってくれ!」
だがフィオナは返事をせず、私に抱かれたレファーナをジッと眺めていた。
「お、おい、フィオナっ!? 聞こえておるのか?」
「……うらやましいぞ、レファーナ殿」
「な、なにを言っておるのじゃ?」
「どこぞの姫君のように抱いてもらうなど、羨ましいと言っているのだ。私のように背丈のある女は、誰に抱き上げてもらうことも叶わないのだからな……」
「「…………」」
私とレファーナは言葉を失い、黙って顔を向かい合わせた。
やがて互いの意思疎通が成功すると、私はレファーナをその場に降ろしてフィオナに近づいていく。そしてどこか寂しげに前を向くフィオナを……前触れもなく抱き上げた。
「ひゃあぁぁ!?」
突然抱き上げられたフィオナは、今まで聞いたこともないような甲高い叫び声をあげる。
「リ、リオっ!? いきなりなにをっ……!?」
「――こらこら。ダメじゃないか、子猫ちゃん。抱っこの時はおとなしくしないと☆」
「な、なにを言っているんだ? 私のような図体の大きい女を掴まえて――」
「うるさい口だな☆」
そういって私は人差し指をフィオナの唇に押し当てた。するとフィオナは目を見開き、めちゃめちゃに顔を赤くしていた。可愛すぎか?
本当はノリで唇を塞いでしまおうかと思ったが、クラジャンの
「……おお。フィオナも
「な、なにがメスなものかっ! おい、リオ悪ふざけもいい加減にしてくれ!」
「えー、たまにはいいじゃないですか。今日はフィオにゃん愛護デーということで」
「意味がわからん!」
「あーちょっとぉー! スピカのいないとこで、なに面白いことしてるのー! まぜてまぜてー!」
「まったく、ちっとも静かにできないクランじゃの」
こうして新しいメンバーを加えたリブレイズは、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら北の領地に向かうのであった。
―――――
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