第44話 戦が終われば、宴が始まる!

 大侵攻が始まってから半日。日もとっぷり暮れた頃、サンキスティモールの町長より大侵攻の収束が宣言された。


 ケガ人は多数出たものの、死者はゼロ。奇跡と呼ぶべき快挙だった。


 その日は夜まで続いた戦闘により、町にいた人たちは全員が疲労困憊。休息を求めて皆が爆睡したが……翌日は大戦果を祝ううたげが開かれた。




「と、ゆーことでっ! みんなの命はスピカが守ったよ! ほめてつかわせ!」


 町の中心にある広場で、スピカが誇らしげに自らの戦果を報告。するとスピカを囲んでいた町の人たちは、熱狂の声と共にその功績を褒めたたえた。


「さすがはエレクシアの大聖女さまっ! あなたこそサンキスティモールの救世主だ!」

「神の子じゃっ。天の裁きを自由にあやつる貴女様は、神の子じゃっ……!」

「あのような大魔法、生まれてこのかた見たことがありません! スピカ様はエレクシアの生きる伝説に御座いますっ!」


 スピカが聖光瀑布ホーリー・フォールを打ち込むところは、町の誰もが目にしていた。


 もちろん実際の討伐数もスピカが断トツでトップだ。およそ9割が聖光瀑布ホーリー・フォールの餌食となり、防衛線まで到達した魔物は1割にも満たなかったようだほどだ。


 防衛線にたどり着いた魔物も、約二百人の精鋭とフィオナが死守。修道女たちの回復魔法や、強化付与のバックアップも大いに役立った。


 だが今回の英雄は間違いなくスピカだ。そのことに異を唱える者は誰一人としていなかった。


 私たちリブレイズの三人も、宴の一席でスピカが称えられる様を眺めていた。


「フン、スピカのやつ。すっかり調子にのっておるな」

「ですが被害を最小限に抑えられたのは、スピカとリオの作戦があったおかげです」

「アチシも異論があるわけではない。あそこまで自らを誇れるのも子供の特権じゃな、と思うての」

「それがスピちゃんのいいところなんじゃないですか」


 私たちは雑談しながら食事に舌鼓を打っていると、修道女のマチルダが私たち一礼をして感謝を口にした。


「リオ様、スピカ様を無事に連れ帰ってくださってありがとうございました」

「いえいえ! 無事に連れて帰るのは約束でしたからね!」

「リオ様が大胆な行動をとってくださらなければ、町の被害はもっと大きくなっていたことでしょう。エレクシアの危機に力を貸してくださり、本当にありがとうございました」

「そんなにかしこまらないでください。いまは無事に危機を乗り越えられたことを祝いましょう!」

「……ありがとうございます」


 近くの席に座ったマチルダは、広場でちやほやされるスピカに目を向ける。そして額に手を当て、大きくため息をついた。


「まったくお恥ずかしい限りです。皆を導くべき大聖女が、みずから民に称賛を求めるなど……」

「可愛らしくていいじゃないですか。スピちゃんもまだ子供なんですから」

「私もたまになら構わないと思います。ですがスピカ様は、本聖堂でもずっとあの様子なので」


 スピカは根っから元気少女だ。貞淑ていしゅくな態度を求められても、自分を取り繕うことなどできないだろう。


「エレクシアに大聖女が誕生したのは数百年ぶりです。そのためスピカ様には、本聖堂で民の安寧あんねいを祈る役目についていただきたいのですが……」

「大人しくってワケにもいかなさそうですね」

「はい。聖堂内でも一番の大変な仕事は、スピカ様の世話係であると呼ばれるほどに」

「……あはは。ちょっとだけわかる気がします」

「ですが最近はこれでも大人しかったのです。それも今年の世話係が、スピカ様のお気持ちを上手く誘導しておりましたので」

「でも。その世話係は……」

「はい。スピカ様を懐柔かいじゅうして私益をむさぼることが目的でした。聖職者の風上にもおけぬ者たちです」


 皮肉な話だ。安心してスピカを任せられると思った人は、欲を満たすため周囲を上手く騙していただけだった。


「大聖女の逃亡という不祥事で、本聖堂にも大きな組織再編があるでしょう。スピカ様が聖務を負担と思われているのであれば、きっとお気持ちを汲んだ対応がとられるではずです」

「と、言いますと……」

「はい、やはりスピカ様には本聖堂にお戻りいただきたいのです」


 マチルダはそう言うと同時に、真面目な顔で私に向き直った。


「今回のことでスピカ様はとても強い力を示されました、ですが彼女はまだ十二歳。先代大聖女のように、流転巡礼に出るには早すぎます。……ですので恥を忍んでお願いします。リオ様からも本聖堂へ戻るよう、お口添えを頂けないでしょうか」


(うぅっ、マジかぁ……)


 思いのほか、スピカの引き止めは強固だった。


 だが、わからないでもない。だって先代の大聖女は勇者パーティと冒険の旅に出てはいるが、最終的に全滅したのがこの世界の歴史だ。


 親心なのか政治的事情なのかは置いておくにしても、スピカの安全を確保したいという願いであることに変わりはない。


 私は一緒に話を聞いていたレファーナとフィオナに顔を向け、「どう思います?」と視線で訴えかける。すると二人も返答に困った表情を返すだけだった。


(スピちゃんを連れていくのは難しいかなぁ……)


 ここまで食い下がられると強くは出られない、スピカの所属はあくまでエレクシア。やりすぎると誘拐と変わらなくなってしまう。


 私は思わず頭を抱え、広場に視線を戻す。するとスピカはまだ民衆の中心でちやほやされていた。


 ――が。突然スピカはこちらを向き、私に指を差しながらこう叫んだ。


「そしてぇーーー! あそこにいるのがっ、スピカの所属するクランリーダー、リブレイズのリオです!」

「え?」


 スピカを取り囲んでいた人達が、期待のこもった視線を私に向けてくる。そして兵士を鼓舞するような大弁舌を振るい、民衆の前で高々と宣言した。


「スピカは確信した! この力はみんなを守るために、魔物をぶっ潰すためにあるのだと! だからスピカはリブレイズのみんなと流転巡礼るてんじゅんれーの旅に出ます!」


 勇気ある発言に民衆は揃って「おおっ!」と声を上げる。


「まずはこの町を攻撃しようとした魔物を徹底的にやっつける! だからスピカたちは北のダンジョンで、そこのボスをとっちめてきます!」


 うら若き大聖女の勇気ある発言に、民衆の歓声はピークに達した。


「さすがはエレクシアの大聖女様だ!」

「スピカ様、町に真の平和をもたらしてください!」

「大聖女が戦いに出るなんて、まさに古くから伝わる英雄譚えいゆうたんそのものだ!」

「いずれは魔王も倒してくださいね、リブレイズのみなさん!!!」


 スピカの勝手な宣言により、私たちは魔王討伐に向かう勇者パーティのような扱いを受けた。この話は隣町にまで瞬く間に伝わり、


 隣に座っていたマチルダは、白目を剥いて呆然としていた……



―――――


 大人の都合は破壊したので、次回からダンジョン持ちの領地へ遊びに行きます!

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