第43話 突然の魔物大侵攻②

 私におぶさったスピカが聖光瀑布ホーリー・フォールの詠唱を終えた。


 すると周囲には天使の降臨を思わせるような、優しい光が次々と地上へと降り注ぐ。……だがその照射光は、破壊光線が落ちる前兆を示す絶望の光だ。


 そして、轟音。


 光の柱が地上に向かって、次々と突き刺さる。


 直撃を受けた魔物は跡形もなく体をかれ、地上ではじけ散った光が魔物の体を吹き飛ばしていく。


 それが一撃ではなく、雨のように。まるでこの世の地獄を思わせる光景だ。


 私はその中心となる安全地帯で、絶望の雨をかいくぐった魔物をアサシンダガーで切り裂いていく。


 次第に大群の先陣を切っていたアーミーアントが後ろに抜け、中型サイズのセンボンアシ、ブレイドマンティスへと切り替わっていく。


 だが魔物ランクが上がったところで、聖光瀑布ホーリー・フォールの前にはなすすべもない。過剰火力の嵐を浴びた中型も、次々とその身を灼かれていく。


(……少し後方へ下がろう。中型以上の魔物はそこまで数が多くない。先陣を切っているアントの突撃を減らしたほうが、町の被害も減らせるハズっ!)


 そう考えた私は、取りこぼしたアントの群れを追ってやや後退。


 私にとってみればCランクの魔物でも、一般の人にとっては強力な魔物だ。そもそも防衛線に立っている人の中で、C冒険者以上の実力者が果たして何人いるだろう?


 であれば防衛線死守のためにも、数を減らすことが最優先だ。


 私が後退する間も、光の雨は絶えず降り続けている。戦闘に入る前におちゃらけていたスピカも、ちゃんと攻撃に集中してくれているようだ。あとでいっぱい頭をわしゃわしゃしてやろう。


 私はスピカを抱えながら、縦横じゅうおう無尽むじんに敵陣前方を駆けまわる。だが聖光瀑布ホーリー・フォールではすべての魔物を倒しきれない。


 この魔法は範囲攻撃のため、一匹一匹を丁寧に狙い打つものではない。そのため取りこぼしは必ず出るし、密集してない場所では効果が薄い。


 先陣をあらかた減らしたことを確認した私は、ふたたび敵陣の中央に向かって前進。取りこぼし分は防衛線で待機するみなさんにお任せだ。フィオナだっていることだし、あの程度の数であればなんとかなるだろう。


「スピカ、一回休憩していいよ!」

「……っはあ~~~! いっぱい出た~~~!」

「なにが出たのっ!?」


 一瞬、背筋がヒヤリとする。


 背中に濡れた感覚がないか意識を向けるが、既にたくさん汗をかいてるので自分の水分かわからない。もし漏らしていたら、わしゃわしゃしながらゲンコツだ。


「またタイミングを見てお願いするから、スピカはちょっと休んでて! 落ちないようには気をつけてね!」

「……は~い」


 さすがにスピカも疲れているのか返事もしおらしい。S級魔法を連発していたのだから、疲れているに決まっている。


 スピカを休ませてる間、私はアサシンダガーで中型の魔物をひたすら切りつける。


 そして後方の取りこぼしが多くなった辺りで――挑発。数匹の魔物が前進をやめてUターン。そして四方を魔物に囲まれたタイミングで合図を出す。


「スピカ、お願いっ!」

「おーきーどーきー!」


 挑発に釣られて集まってきた魔物に、破壊光線の雨が炸裂。周囲にいた三百匹近い魔物が、一瞬のうちに消し炭となった。


「ひゃっほー! 気ン持ちイィー!」

「そろそろ敵陣後方に入るよ、振り落とされないようにしてね!」


 中型の魔物も捌ききれた頃、ようやく敵陣後方の魔物が見えてきた。後方に控えるのは巨大な芋虫の形をした魔物と、蛾をモチーフとした魔物たちだった。




 名前:キングワーム

 魔物ランク:A+

 盗めるアイテム:毒針(D)

 盗めるレアアイテム:スネークウィップ(B)




 キングワームは奈落でも遭遇した魔物だ。A+ランクということは最奥近くから出てきた魔物に違いない。


 そして続くもう一匹。蛾の形状をした魔物を目にした時――私は足を止めてほうけてしまった。



 名前:サタンモスク

 ランク:A+

 盗めるアイテム:鉄仮面(D)

 盗めるレアアイテム:☆コラプスロッド(A+)




(えっ!?!? コラプスロッドってなに!?!?!?!?)


 知らない。


 クラジャン攻略知識だけしか取り得のない、私の脳みそに『コラプスロッド』という単語は登録されていない。これはつまり……実装前のレア装備だ!!!


 やはり大侵攻を起こしたのは、特注カスタムダンジョンの魔物たちだったのだ。だってサタンモスクの盗むレアは『魔王の仮面(B)』だったはず!


 盗みたい。


 絶対に盗みたい。


 盗んで効果と性能を知りたい。


 町が危機に晒されている、大侵攻スタンピード中だけど盗みたい。


 ひたすらスティールアンドアウェイで粘りたい。たとえ火事場泥棒と呼ばれても!!!


(私とスピカで中型魔物も半分以上は片付けた。それに大型魔物は数も少ないし、今はちょっぴりは余裕があるはずっ!)


 クラジャン廃人の考えが先行する一方、生真面目リオが「アホっ、いまそれどころじゃないでしょ!」と冷静になるよう促してくる。


 そうだよねとは思いつつ、私は武器をグラディウスに持ち替える。即死が入ったら困るからね、へへへ……


 私は来たる大型魔物たちを前に、グラディウスを構えて『強奪』の構えを取る。そして一番近くのサタンモスクに向けて――


「くらえーーーっ!!! 聖光瀑布ほーりー・ほーるっ!!!」

「え?」


 背におぶっていたスピカが、ひときわ大きな声で叫ぶ。


 すると今まで以上の広範囲に向けて、破壊光線の雨が降り注ぐ。


 目の前にいたサタンモスクや、キングワームもその威力の前にはひとたまりもない。大侵攻スタンピード殿しんがりを務めていた魔物たちは、すべて跡形もなく消滅した。


「ぎゃーーーーっ!!!」

「やったーーーーっ!!!」


 私は頭を抱えて絶叫し、スピカは勝利の歓喜に打ちふるえた。


「実装前レアが……私のコラプスロッドちゃんが……」

「はははーっ! 見たか、虫ケラどもめーー! 人間サマに歯向かうからこうなるのだーーーっ!」


 私の背から降りた大聖女スピカは、腰に手をあてて凶悪な笑い声をあげている。対してみみっちいコソ泥の私は、失意のあまりひざをついてメソメソと泣き続けている。


「ねぇねぇ、リオー。わたしがんばったよ、ほめてほめて!」

「……そうだね、スピカはがんばったね。間違ってたのは私の方だったよ」


 涙と鼻水をダダ流しにしながら、スピカの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。


(とりあえず今は残りの魔物を片付けよう。すべてが終わった後に特注カスタムダンジョンへ行けば、またサタンモスクとも会えるからね……)


 気を取り直した私はまたスピカを抱え、魔物の残党を狩るため町へ舞い戻るのであった。

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