第37話 炎竜団ハウスでお見舞い

 翌日。私は冒険者ギルドにクエスト達成の報告に向かった。


 受付はいつものようにガーネットの元へ、昨日ぶりの再会に私たちは軽く笑みを交わす。


 まずはSクエスト、聖火炎竜団捜索の達成報酬として800万クリル。そして奈落二十層ボス、初討伐特典として500万クリルを受け取った。


 初討伐特典は現実オリジナルの特典だ。


 特典を受け取った冒険者は、報酬を受け取る代わりに『攻略備忘録』の執筆が義務付けられている。


 この世界には攻略サイトがない。そのため二十層ボス初討伐をした私には、続く冒険者のために攻略情報を残す義務が発生する。……つまり備忘録の執筆代というわけだ。


 少しばかりめんどくさいけど、自分がこの世界の攻略記事を残せると思えば楽しみでもある。


 これで手持ちのお金は2989万7328クリル。あまり端数はすうを残したくないので、7328クリルは募金に回した。


「それとリオさんの冒険者ランクもBからAに昇格です、おめでとうございます」

「ありがとうございますっ」


 パーティーランクは先んじてAと認められていたが、冒険者個人としてのランクもようやくAに昇格。すると今日は周囲の冒険者たちが、私に向かって拍手を送ってくれたのだ。


「ど、どもです……」


 あまり人前で褒められた経験もないので、しどろもどろになりつつ周囲にペコペコと頭を下げる。


 いままでこんなことはなかったのに急にどうして……? と思っていると、ガーネットがこっそり耳打ちで教えてくれた。


「昨日、ほとんどの人は炎竜団が帰ってくる馬車を見守っていたんです。だから護衛についてたリオさんの顔、みんな覚えちゃったみたいです」

「な、なるほど……」


 どうやら炎竜団を救ったのは、護衛についた二人であるというウワサはニコル全体に広まっているらしい。……う、うーん。有名になりたかったわけじゃないので反応に困る。


 その後、ガーネットに促されてグレイグにも挨拶をしてきた。


「おお、リオ! よく来てくれたっ!」

「お疲れ様ですー、今日はずいぶんとゴキゲンですね?」

「そりゃそうよ! お前のおかげで炎竜団の帰還、それに第二のSランクパーティも誕生しそうだしなっ!?」


 グレイグの光り輝く視線から目を逸らしながら、私は「ははは……」と乾いた苦笑を返す。


 領地を持った時のためにランクは高いほうがいいとは言ったが、いまこのタイミングで昇格するとちょっと目立ちすぎるなぁ。まだ貯金も少ないし、できれば少し時期を開けてから昇格の方が嬉しいかもしれない。……と、グレイグにも言ってみた。


「つっても、リオのことはもうニコル全員が知ってるからなぁ。それに奈落二十層を踏破したパーティをSに認めないと、オレが無能認定されてギルマスの座を追われる」

「なんか政治っぽい話にまでなってるし……!」

「つーことでパーティ名、いやクラン名は早く考えておいてくれ。冒険者協会への申請に必要だから」

俄然がぜん、名前を決めたくなくなってきたんですけど……」

「もし申告がなければ『英雄リオと愉快な仲間たち』で本部に提出しておく」

「やめてください! そんなダサイ名前つけたら今度は誰も仲間になってくれなくなっちゃう!」


 とりあえずなにか考えておいてくれと言われ、私はギルマスの部屋を後にした。


(パーティーの名前かぁ……)


 すぐに思いつく名前は、ゲームで使っていた時のクラン名だ。別に同じ名前でもいいのだが、ちょっと気分転換をしたいような気もする。どちらにしろフィオナの意見も聞きたいし、帰ってくるまでは保留のままにしておこう。


 ギルドを出た後は炎竜団のパーティハウスに向かって歩いていく。もちろん炎竜団のお見舞いに行くためだ。


「昨日はじっくり見れなかったけど、立派な建物だなぁ……」


 二階建ての小綺麗な洋館だ。


 貴族が住んでると言われれば誰もが信じてしまうだろう。炎竜団は四人だったはずだが、二十人くらいは住めそうなほど大きい。


 おそらくメンバーが増えた時のことを考えて、大きめの建物を作ったのだろう。人が増える度に新しい拠点を立て直すわけにもいかないだろうからね。


 私はボス部屋の入り口ほどある大きな扉をノックし、中の反応を待つ。すると応対に出てくれたのはレファーナだった。


「おお、リオ。来てくれたか」

「レファーナさん、おはようございます! ちゃんと寝れてますか?」

「その辺は問題ない、あやつらもグッスリ寝ておるからな。付き添いで来たはいいものの退屈しとったところじゃ」

「それなら良かったです!」

「いまは起きていたアイシャと話してたところじゃ。ほれ、お前も入ってこい」

「ではお邪魔しますっ!」


 炎竜団の拠点にはきっと何度も訪れているのだろう。レファーナは勝手知ったるといった様子で、迷うことなくアイシャの部屋に案内してくれた。


 途中、何人かのメイドさんともすれ違った、彼女たちはクエストの過程で炎竜団に恩のある人たちらしい。彼らが帰らなかった四ヶ月、ずっと屋敷の管理を自発的に行っていたそうだ。なんていうか……炎竜団ってすごいんだなと改めて思った。


「アイシャ、お前を助けてくれたリオが来てくれたぞ」

「あら、いらっしゃぁい」


 そういってベッドの上にいたアイシャは……近くに来たレファーナのことをぎゅう~っと抱き締めた。


「お、おいやめろっ! アチシはリオじゃない!」

「あぁ、ごめんなさい。十五歳になったばかりって聞いたから、つい小さい方と間違えちゃったわ~」

「なにが小さい方じゃ、ケンカ売っとるのか! っていうか、昨日は間違えとらんかったじゃろ!」

「あらら~そうだったかしら~?」

「……はぁ、まともに相手する気も起きんわ」


 シャキシャキ怒るレファーナと、おっとりスマイルのアイシャ。どうやらアイシャはずいぶんマイペースなお姉さんのようだ。


「それで、あなたがリオさんだったわよね?」

「はい、私がリオです!」

「助けてくれて本当にありがとう。一緒にいた騎士さんと助けに来てくれたんでしょ? 二人だけで二十層ボスを倒すなんてすごいわ~」

「い、いえ、それほどでも……」


 年上オーラを放ちまくるお姉さんに、こうも正面から褒められると照れくさい。


「こうして見ると本当に普通の女の子ね。それでもすっごい強いなんて、ギャップ萌えしちゃう」

「あ、ありがとうございます」

「肌もすべすべで羨ましい、チュ~しちゃいたいくらいだわ」

「え、えっとぉ……それよりお身体の方はもう大丈夫なんですかっ!?」

「すっかり元気! ……と言いたいけど、やっぱり四ヶ月も体を動かしてないとダメねぇ。体の筋肉が全然動かせないもの」


 炎竜団の四人は確かにかなり痩せている。アイシャもあまり顔色はよくないし、こうして話しているだけでも疲れさせてしまうのかも。


「どちらにしろ活動再開なんて当分できそうにないわね~。医術師の人にも三ヶ月は安静にしてなさいって言われちゃったし」

「そんなの当たり前じゃ。健康体に戻るまでは全員安静にしておけ!」

「は~い。ふふ、レファさんにお説教をもらうのも久しぶりだわ~」


 アイシャが嬉しそうに微笑むと、レファーナはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。……うわぁ、なんだか既視感のある光景だ。


「ゆっくり体を休めてくださいね。もし元気になったら、今度は一緒に奈落の探索にでも行きましょう!」

「あら、いいわねぇ。でもその頃にはリオさんたちが奈落の最深部まで到達しちゃうじゃないかしら?」

「あはは……もうちょっと戦力を揃えないとは踏破は厳しいですね。でも聖光瀑布ホーリー・フォールを使えるアイシャさんがいたら、道中はずっと楽に動けるようになるはずです!」


 私が転生して初めてダメージを負わされた、聖属性の全体攻撃魔術『聖光瀑布ホーリー・フォール


 Sランクパーティーの力を取り込んだとはいえ、あんな強力な魔術をこんな早く目にすると思わなかった。だが私の言葉を聞いたアイシャは、きょとんとした表情で首を傾げる。


「私、聖光瀑布ホーリー・フォールなんて取得してないわよ~?」

「え? でもイブリースは確かに……」

「そもそも賢者の聖光瀑布ホーリー・フォールって、もっと高レベルが条件じゃなかったかしら。レベル68だった私のスキル盤では解放できないわ~」


 ……そうだ。


 ゲームでも確かにそうだった、あれは賢者レベル100が取得条件に設定されたスキルだった。二十層挑戦レベルで習得してるには早すぎる。


 じゃあどうしてイブリースは聖光瀑布ホーリー・フォールなんて使えたんだ?


 元から持っているスキルではなかったし、炎竜団のメンバー「魔法剣士」「聖騎士」「魔道弓兵」が習得できるスキルではない。


 じゃあ一体、誰が……? 


 ――その時。部屋の扉がノックされ、外にいたメイドさんが声をかけてくる。


「お話し中のところ、失礼いたします。客間でお休みになられていたお嬢様が、ようやくお目覚めになられました」

「…………あっ」

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