第35話 一段落からの、一人ぼっち

 その後。私たちは脱出ゲートを使って、二十層で発見した五人を奈落の外へと運び出した。


 途中で炎竜団の四人は目を覚ましたが、ひどく衰弱していて立つことも出来なかった。


 まずはどこか落ち着く場所で休ませてあげないと。すると話の中で炎竜団のパーティハウスがニコルにあることがわかった。まずはそこに運んであげよう。


 奈落入口の見張りにも協力を頼み、ニコルから馬車を呼び寄せてもらった。


 衰弱しきった彼らは回復魔法じゃ治せない。できるのは体を休めさせることと、栄養のある物を食べさせることだ。




 ややあって到着した馬車は、振動の少ない最高級の物だった。どうやら行方不明だった炎竜団を運ぶと聞き、一番いい物を手配してくれたらしい。


 私たちは護衛として、町までその馬車に付き添った。町の門近くまでやってくると多くの人たちが、道を空ける形で人垣を作っていた。


 どうやら馬車を呼ぶ際に、炎竜団生還の知らせが広まったらしい。多くの人は仕事の手を止め、彼らの帰りを不安そうな目で見守っていた。


 パーティハウスに到着すると、炎竜団に縁のある人達が先に集まっていた。


 もちろん、そこにはレファーナの姿も。


 レファーナは馬車の護衛をする私と目が合うと、真っ直ぐこちらに駆け寄り――抱き着いてきた。


「リオっ、よく無事で戻った……!」

「約束したじゃないですか、私は大丈夫って!」


 レファーナとしばらく抱擁を交わしていると、開いた馬車から軽口が飛んでくる。


「……久しぶりだな、レファーナ。俺たちが奈落で寝てる間に、娘でもできたのか?」

「なにいってるの、兄さん。リオさんよりレファさんの方が小さいじゃない、きっとお姉ちゃんになってくれたのよ」


 馬車から肩を担がれながら出てきたルッツとアイシャ、そして炎竜団のメンバーたちだった。


「……四ヶ月ぶりだというのに、くだらん冗談ばかり言いおって」

「四か月ぶりだから、だろ。……まったく恥ずかしいぜ、ダンジョン帰りにこんな出迎えをもらったのは初めてだ」


 ルッツの飄々とした軽口が止まらない。だがレファーナは……こらえていたのを我慢できなかったのか、瞳から涙をあふれさせ始めた。


「ばか、もの……お主らは、どうして、どうしてっ……!」

「心配させて悪かったよ、レファーナ。そして集まってくれたみんなも、ゴメン」


 ルッツが辺りを見回しながら言うと、集まっていた人達のあいだに穏やかな空気が流れ始める。だがそれとは対照に、真剣な顔をした人達が一礼をして割り込んできた。


「お取込み中のところすみません、私たちはニコルに居を構える医術師いじゅつし薬師くすしです。領主様の言いつけで彼らの健康状態を確認しに来ました。申し訳ありませんが今日のところは……」

「あっ、そうですね! レファーナさんは……どうします?」

「アチシはパーティハウスで、こやつらの診断が終わるのを待たせてもらおう。少しばかり、話もできればと思うからの」


 レファーナはこの四ヶ月、ずっと炎竜団のことを心配し続けてきたのだ。彼らの側にいたいと思うのは当然である。


「そうですね、レファーナさんはみなさんと一緒にいてあげてください」

「恩に着る、クエスト報酬はギルドから受け取ってくれ。リオには本当に……」

「いいんですよ、細かいことは気にしないでください! 私も今日はぐっすりと宿で休みたいので!」

「そうか。では……」

「はい、また後日お会いしましょう!」


 炎竜団は周囲の介添えを受けながらパーティハウスに戻り、レファーナともその場で別れた。そうして私たちが屋敷に背を向けようとしたところ、医術師の人に声をかけられる。


「すみません。炎竜団と一緒に見つかったという少女は……いかがなされます?」

「……あ~~~」


 そういえば一緒に見つかった謎の少女がいたなあ。


 炎竜団は全員意識を取り戻したが、少女だけはいまも鼻ちょうちんだ。深刻な状態ではないと思うけど、お願いできるなら彼女の健康状態も見てもらったほうがいいよね。


「ということで、お願いできます?」

「ええ、もちろん構いません」


 ということで私は医術師に少女のことを丸投げし、フィオナと炎竜団のパーティハウスを後にした。




 そして宿に戻る途中の分かれ道。フィオナが立ち止まって、申し訳なさそうな口調で言う。


「すまない、リオ。私もできれば母上の元に……」

「もちろんです、すぐに駆けつけてあげてください!」


 本当であればヒュドラの心臓を確保した時点で、フィオナはお母様のいる実家に戻るはずだった。二十層ボスの討伐にまで付き合ってくれたのはフィオナの善意だ。私に引き止める理由なんてない。


「ご協力ありがとうございました、しばらくはお母さんと一緒にいてあげてくださいね?」

「ああ、だが出来るだけ早く戻る。私にとってリオは、家族と同じくらい大切な存在なのだから」

「きゃー、照れちゃう!」


 そうしてフィオナは私に向かって一礼すると、早馬の借りられる厩舎きゅうしゃに向かって走って行った。




「……ふう。久しぶりに一人になっちゃったな」


 今日まで慌ただしい日々が続いていたせいか、一人の時間がとても寂しいものに思えてしまう。


 この時間を使ってなにをしようか。


 そうだ。強奪レベル上げで集めまくったアイテムが溜まっていた。時間もあることだしアイテムの整理でもしておこう!


 私はステータスバーを開き、マジックポーチに入っている物の一覧を確認する。





【所持クリル】

 1318万クリル


【所持アイテム】

 薬草×2

 毒消草×112→108(4枚干し肉に巻いて食べた)

 竜のツメ×102

 炎のリング×11

 氷の牙×82

 ウルフの毛皮×7

 鋼の剣×88

 将軍のマント×4

 鉄鉱石×1


 毒進化の結晶×1


 聖なる矢じり×1


 竜のキバ×22

 万能粉×30

 アルラウネの唾液×4

 亀の甲羅×44

 クリスタルアーマー×2

 骨棍棒×18

 不死身の兜×1


 闇進化の結晶×1

 磔十字×1

 闇仕立てのベルベット×1


 防毒のローブ×1

 防毒の手袋×1

 防毒のブーツ×1

 防毒のペンダント×1

 ドラゴニックパーカー×1

 グラディウス×1



 だいぶ所持品も溜まってきたところだし、取っておきたい物以外は売り払ってしまおう。


 ということで、買取屋で使い道のないアイテムや装備品を処分した。結果―――




【所持クリル:1318万クリル→1689万7328クリル】

(売却益 +371万7328クリル)


【残った所持アイテム】

 万能粉×30


 鉄鉱石×1

 アルラウネの唾液×4

 亀の甲羅×44

 闇仕立てのベルベット×1

 闇進化の結晶×1

 毒進化の結晶×1


 磔十字×1

 炎のリング×11

 ドラゴニックパーカー×1

 グラディウス×1



 一番高い値がついたのは、クリスタルアーマーの70万クリルだ。


 防具としてはかなり使える部類に入るが、決まった装備相手もいないのであまった二着は売ってしまった。もし本当に必要であればまた盗みに行けばいい。


 いまはフィオナとの二人パーティーだが、クランを結成したら炎竜団のような立派なクランハウスも作りたい。そのためには土地だって手に入れたいし、となればたくさんのお金が必要になる。


 炎竜団捜索のクエスト報酬も受け取れば、もう少し所持金は多くなるけど……それは明日でもいいかな。夜も近いし今日は早く宿に戻って寝てしまおう。


 ちなみに順番が前後したがイブリースの宝箱ドロップからは、確定枠の『やみ仕立じたてのベルベット』を回収している。錬金や防具として使い道の多いぬの生地きじだ。欲しいものが出来たらレファーナになにか織ってもらうとしよう。



 その後。私は久しぶりの筋骨隆々亭に戻り、ベッドに横たわりながら今後のことについて考えを巡らせる。


 が、体が疲れているせいか頭が働かない。もうこのまま寝てしまおうと、眠気に体をゆだねようとしたその時――部屋の扉が、控えめにノックされた。


 宿で声をかけられるなんてめずらしい。私は間の抜けた声で「はぁい」と、扉に向かって返事をする。



「お休み中のところ申し訳ございません。実はリオ様に面会したいと申す者が、ロビーに来ているのですが……」

「私に面会ですか?」

「はい。相手は冒険者ギルド所属の、ガーネットと名乗る女性で……いかが致しますか?」

「ガーネットさん!? すぐに行きますっ!」


 私はすぐに支度を済ませると、ロビーにいるガーネットの元へすっ飛んでいくのだった。

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