第29話 Sランククエストの依頼者②
断片的に聞いていた情報が、一本に繋がった。
レファーナは聖火炎竜団と旧知の仲で、たびたびクランへの勧誘をされるほどの間柄だったようだ。
だが四ヶ月ほど前、奈落に向かった彼らは消息不明に。レファーナは移住していた王都からニコルへ戻り、冒険者ギルドに捜索依頼を出したというのが一連の流れだったらしい。
そう考えると私が奈落に入ったと明かした時、お説教を受けたことにも別の意味を持ち始める。レファーナは身をもって経験していたのだ、ダンジョンに旅立った知人が知り合いが、帰って来なかったことが。
「……フン、やはりヤツらのポーチじゃの。アチシが作ってやった装備品まで、ご丁寧に入っておるわ」
製作者のレファーナにはポーチを開ける手段があったのだろう。
封をされていたポーチからは自分が作ったという防具や装備。それに食料や回復薬など、生きるためには必要不可欠な物まで次々と。
それらを取り出してカウンターに並べるレファーナは、物憂げな笑みを浮かべ続けていた。いつしか近くで見ていた受付嬢や冒険者たちも手を止め、その光景をじっと眺め続けていた。
「……これで、決定的じゃな。収納袋を失った冒険者パーティが生還できるはずもない」
レファーナの自嘲的な物言いに、グレイグも言葉を返せない。
「ヤツらは死んだのじゃ。食料も道具もないパーティが四カ月、全滅したも同然じゃ。これでクエストの取り下げは受け付けてくれるじゃろ?」
「し、しかし……」
「グレイグよ、アチシも疲れたのじゃ。帰ってくること期待をして待つのも、楽ではないからの」
苦笑交じりにつぶやいたレファーナの言葉に、辺りは重苦しい沈黙に包まれる。
状況から見れば、聖火炎竜団の生存は絶望的だ。
Sダンジョンという挑戦者の少ない場所では、別のパーティーに助けられたという可能性も考えにくい。それに助かっていたのなら、なんらかの形で連絡くらい寄越すだろう。四ヶ月も音信不通になることなどありえない。
彼らの生存を示せるような物は、どこにも残っていない。でも――
「その依頼、受けさせてください!」
グレイグが下げようとしていた依頼書を、私は強奪する。
「私が探してきたのは十九層までです、その先についてはまだ探していません!」
「……なにを言うておる。
「可能性はあります。だって彼らが十九層までたどり着いたなら……二十層の脱出ゲートから帰ろうと考えるかもしれません」
私の言葉に、グレイグがハッとした表情をする。
「リオの言う通りだ、アイツらは前々から二十層ボスの討伐を考えていた。もし十九層までたどり着いたなら、二十層から帰ろうとするかもしれねえ」
「そんなバカなことがあるか! 二十層には討伐記録のないフロアボスがいるのじゃぞ? いくら脱出ゲートが目と鼻の先にあろうと、そのような無理をするハズが……」
「するのさ、冒険者という生き物はな」
グレイグが迷いもなく言うと、レファーナがグッと奥歯を噛みしめる。
普通の冒険者はエンカウント回避の手段を持っていない。そのため十九層から十層に戻るまでの間にかなりの時間と戦闘が必要になる。だが二十層ボスを討伐できればすぐに帰りつくことが出来る。アイテムや宿泊道具がないという極限状態であれば、逆にそちらの道を選んでもおかしくはない。
「し、しかし、ヤツらが四ヶ月も行方不明であることには変わらん。いまさら本格的な捜索を始めたところで……生きて見つかるわけもなかろう」
「いえ、生きてる可能性は十分にあります」
「なにを根拠に言うておる! それにリオまで探しにいった末、帰って来ることがなければアチシは……」
「必ず帰ってきますって!」
「そんな言葉は信用できん! 冒険者は必ずそう言って旅出るものじゃ!」
「それでも、大丈夫なんです!」
私にはこの世界の原作知識がある。
だから二十層ボスに討伐歴がない理由にも見当がついている。だってあのボスは初見殺しで有名だ、事前に対策を練っていなければ出会った瞬間ゲームオーバーになる。
私はそれに対策をして挑むことが出来る。そして炎竜団が初見殺しに引っかかっただけであれば……炎竜団が生きてる可能性は十分にある!
「な、ならん。頼むから行かないでくれ、リオのクランにだって入ってやる。だから死んだ者のために、死にに行くようなことはしないでくれ……」
「ダメですよ、レファーナさん。そんな後ろ向きな気持ちの人はお誘いできません、それに私の実力は知ってますよね?」
「……確かにそれは知っておるが、貴族様と別れたお主は一人パーティの盗賊じゃ。炎竜団でも勝てなかった相手に、一人で勝つつもりではあるまいな?」
(うっ、痛いところをついてくるなぁ)
さすがに二十層ボスにもなってくると、レベルを上げた盗賊でもソロ討伐できるとは言い難い。盗賊は盗むや逃げるでパーティを豊かにする便利枠で、それらが通用しないボス相手には性能で引けを取る。
スキルポイントを攻撃スキルやステータスに盛っても、性能差や手数には限りがある。抜け道がないわけでもないが、効率を考えるなら仲間を連れて挑みたいというのが本音だ。
私がどう返答しようか悩んでいると――しばらく口を閉ざしていたフィオナに肩をたたかれた。
「……話しが立て込んでいるところ、すまない」
フィオナがどこか不機嫌そうな顔で割り込んでくる。
「あ、ああ! フィオナ様、すいません! 先に依頼の達成報告をしないとですよね!」
受付前でレファーナの姿を見てから、話がすっかり脱線していた。フィオナは治療薬が出来次第、お母様の元へ帰る手筈になっている。先にそっちの手続きを済ませないと。
「……なにを言っている? 私が訊ねたかったのは、そんなことではない」
「えっ?」
「なぜ、頼らない。お前は困っているのだろう? だったら仲間の私に、どうして声をかけてくれないのだ」
「……仲間?」
「そうだ」
なにを思ったのか。フィオナは後ろに一歩下がり、床に
「――騎士フィオナ・リビングストン、私は貴女に忠誠を誓いたい。どうか貴女の剣として、私を使ってはいただけないだろうか」
突然の申し出に、ギルドの中はまた騒然とし始めるのであった。
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