第27話 クエスト達成、復路へ
二体目のヒュドラを見つけた私たちは、すぐさま二手に分かれて作戦通りの行動に入る。
まずはヒュドラの側面に回りこみ、先制の一撃を加えるため攻撃の構えを取る。
が、もちろんアサシンダガーで攻撃は出来ない。だから私は極光のリングを指に嵌め、ヒュドラに向けて込められた魔術を解き放つ。
「くらえっ、破壊光線っ!」
周囲の光を吸収したリングから、強力な破壊光線が解き放たれる。
予備動作は大きいものの、絶対先制のおかげで気付かれることなく命中。ヒュドラの頭を七つ吹き飛ばすことに成功した。
そのまま挑発で注意を引き付けた後、フィオナが攻撃しやすい位置にヒュドラを誘導する。そして――
「
私はそれらの攻撃を回避しながら、二発目の破壊光線をヒュドラに解き放つ。残った二対の頭も吹き飛ばされ、足元を固められたヒュドラは完全に無力化した。
「……ふう、これで心臓の回収に専念できますね」
「待て、リオ! なにか様子がおかしい!」
フィオナの言葉で異変に気付く。なんと先に吹き飛ばした七本頭の傷跡から、グニグニと次の頭が生えてきているのだ。
「くっ!? まさかヒュドラの再生能力がこんな形で発現するなんて!」
「ここは私に任せろ!
ヒュドラの背後に立っていたフィオナが、再生中の頭を切り飛ばす。
「リオ! 炎のリングで切断面を焼いてくれ!」
「っ、わかりました!」
私はポーチの中に右手を突っ込み、炎のリングが欲しいと念じながら手を引き抜く。すると五本の指すべてに、炎のリングが嵌められていた。
「五倍威力っ、
頭を失った傷口に向かって、火炎球をひたすら叩きこむ。
何度か火炎球を打ち込んで傷口を塞ぐと、ヒュドラの頭はもう再生できなくなっていた。
「すごい! こんな方法、良く知ってましたね!」
「以前、同じような再生力の高い魔物と戦ったことがあってな。その時に組んでいた
フィオナが少し照れ臭そうに解説をしてくれる。
現実の戦闘について私はまだまだ素人だ、ゲーム知識はあっても経験が足りない。やはり色々な人との出会いは大事にしないとね。
私がしみじみとそんなことを考えていると、フィオナがヒュドラの胴体に『吹雪』をかけ直して抵抗を押さえつける。
「さて。それでは心臓の採取に取り掛かるか」
「えっと、フィオナさん。念のため確認なんですが、心臓の採取って……」
「もちろん解体するしかないな。私が剣で胴体を捌くので、リオは再生しないよう切断面を焼き続けて欲しい」
「ま、マジですか?」
「当たり前だ。これだけ大きな胴体だ、心臓の位置も深いだろうな」
「ひええええっ……」
こうして地獄の解体作業が始まった。
フィオナが心臓を傷つけないよう胴体を刻んでいき、私が切断面を焼きながら再生を防いでいく。もちろん生きた素体なので抵抗もするし、切断面からは血がドバドバあふれ出してくる。
そして二時間近くかけて心臓を取り出した頃には、二人とも返り血で全身が真っ赤に染まっていた。
「部位の切除って、こんなに大変な作業だったんですね……」
「大型魔物の内臓が必要になることは稀だがな。でも、いい経験になっただろう?」
「二度と経験したくありませんけどねっ!」
こうして私たちは無事にヒュドラの心臓を手に入れることが出来た。
途中で二十層へ降りる階段を見つけたが……さすがに準備も足りないのでガマン。薬の材料となる心臓を持ち帰るのが最優先だ。
だが少しだけ寄り道だ。十九層の岩山エリアには大きな湖があったので、そこで水浴びをすることにした。
レディー二人が生臭い返り血を浴びたままなんてありえない、装備の洗濯も含めて休憩を取ることにした。
「仕事終わりの水浴びは最高ですねーっ!」
「そうだな。もちろん帰るまで気を抜くことはできないのだが」
そう言いつつもフィオナの口調はやわらかい。目当てのモノが手に入ったことで、ようやく気を抜くことができたのだろう。
ポニーテールを解いた半裸のフィオナは、ヴィーナスのように美しい。出るとこがしっかり出ていて、ヘコむべきところは引っ込んでいる。
もし転生する時にアバター設定が出来たなら、「私もこれでお願いします!」と鼻息荒く注文していたことだろう。
「……リオ。あまりジロジロ見ないで欲しいのだが」
「ムリです」
「なぜ拒否されなければならない……」
「だってそんな綺麗なカラダ、見ないなんて逆に失礼ですよっ! 私なんてこんなに貧相なカラダなのにぃっ!」
いまの私は十五歳になりたてのほっそりボディだ。この世界では結婚できる年齢だが、大人らしさは欠片ほども存在しない。
盗賊の素早さを生かすには申し分ないが、もう少しくらい発育してくれたっていいと思う。どうにかスキルポイントを胸の脂肪に割り振れないだろうか。1ポイント1センチ、いや10ポイント1センチでも……
私がそんなどうでもいいことを考えていると、フィオナはおもむろにこんなことを聞いてきた。
「話は変わるが、リオはこの依頼を終えた後はどうするつもりなのだ?」
「前にお伝えしたとおりですよ。私の目標は自分のクランを作ること、当面はクラン設立条件になっている冒険者Bを目指します!」
「それは戻り次第、達成されるだろう。この依頼の達成で、Sクエスト達成相当の昇格ポイントがもらえるはずだ」
「そうなんですか!?」
「当たり前じゃないか、奈落での人探しでさえSクエストなんだ。護衛任務とはいえヒュドラの討伐も含んでいる以上、S相当のクエストになってなければおかしい」
「そ、それもそうですね……」
グレイグに依頼の話をもらってからはトントン拍子だったので、今回の達成報酬などは考えてこなかった。
冒険者Cに昇格したばかりだが、Sクエストを達成したとなればB冒険者には間違いなく昇格できるだろう。
「クランを立ちあげたらリオも一国一城の主だな。やはり向かう先は領地経営か?」
「当然です! でもまずは仲間を集めてからですね。クランハウスや土地が手に入ったとしても、一人だと寂しいだけですから」
「リオが一人でいるのなんて今だけだろう。きっとお前の元にはいずれたくさんの人が集まってくる」
「そう思いますか!?」
「ああ、リオといると楽しいからな。冒険者稼業が命がけであることを、忘れそうになるほど――」
話の途中で、フィオナが急に湖の中へ飛び込んだ。バシャンと音を立てた
突然の奇行にポカンとその様を眺めていると、フィオナが片手を掲げながら言った。
「見てくれ、リオっ! これって……お前の持つポーチによく似ていないか?」
フィオナの片手には、コケの生えたポーチが握られていた。どうやらフィオナは
「確かにレファーナさんから借りた
フィオナが拾ったポーチは、使われている素材や色が違うだけでほとんど同じ物だった。
「リオ、もしかするとこれは……」
「はい。奈落を訪れていた冒険者パーティー、聖火炎竜団の物かもしれません」
帰る途中に立ち寄った湖で、思いも寄らぬものを見つけてしまうのだった。
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