第24話 一日目、十層めざしてひたすらダッシュ!

 私たちは本格的な奈落の探索を開始した。


 これまでと違って一層にとどまることはなく、下層に向かう道だけをズンズン突き進んでいく。もちろん『常時ダッシュ』と『エンカウントなし』のおかげで、道を阻む者はなにもない。


 ついでに『宝探し』も使って落とし物の確認もしっかりと。行方不明になっている聖火炎竜団の痕跡を見逃さないために。


 Sランクパーティがこんなところで負けると思わないが、事故が起こらないとも限らない。


 サソリ君だって正面から戦えば、麻痺と毒を付与してくるイヤらしい魔物の一匹だ。パーティ構成次第では苦戦することだってあるだろう。


(話を聞いた限りでは盤石なパーティーだから、あるとしたらもっと深層だよね)


 炎竜団についての事前知識は確認してきた。彼らの名前やパーティー構成、それに全員が装備につけているという紋章エンブレムも。だが炎竜団のメンバーは、既に生存が絶望視されているようだ。


 もう奈落に潜って四ヶ月。そこまで長期の探索は考えられないし、脱出ゲートなどで帰還していれば連絡だって寄越しているはず。それがないということは、全滅したとみるのが普通だろう。


 普通に考えたら誰だってそう思う。だが人の命だ、そう簡単にあきらめたくない。全滅したという事実が確定してないなら、どんなに低い確率にでも賭けるべきだ。


 捜索クエストが出ているということは、彼らの帰りをいまも待ってる人がいる。だったら出来る限りのことはしてあげたい。そんな事を考えながら足を進めていると、早くも六層まで辿り着いてしまった。


 必然的に私たちの足は、そこで一度止まる。五層まではクリスタルの輝く洞窟だったのに対し、六層からは青空ひろがる大草原に様変わりしたからだ。


「……驚いたな。まさか途中で内観が変わってしまうとは」

「これは高難度ダンジョン限定の仕様ですね。A以下のダンジョンだと最後まで景色が変わることはないので」


 Sランク以上のダンジョンでは、五層ごとに内観が変わる特殊仕様が施されている。


 だがこの風景は別のダンジョンからの流用だ、六層~十層はEランクダンジョン『草原』と同じ物が使われている。この先も別ダンジョンを模倣した景色が広がっており、たくさんのダンジョンを探索したプレイヤーにこそ刺さる演出となっている。


 が、いまは草原エリアに用はない。


 レアモンスターのインゴッドゴーレムがいれば寄り道をしてもいいが、今は十九層到達が最優先目標だ。宙を舞うグランドキメラや、地を這うキングワームとは遊んでいられない。


「……こうして魔物と戦わずに探索を進めていると、なんだか申し訳ない気がしてくるな」

「慣れてください。お母様の病気を一刻も早く治すためです!」

「それは、そうなのだが……本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫って、なにがですか?」

「私はリオに言われるがままレベルを上げたのだが、あのような魔物たちに勝てるほど強くなった実感がなくてだな」

「でしたら、試してみましょうか?」

「えっ?」


 私は近くにいた五メートル超えの芋虫を、げしと蹴りつける。


 キングワームに推定1のダメージ、怒ったキングワームとの戦闘が始まった!


「お、おいっ! なにをしている!?」

「フィオナさんの言った通り、成功体験も必要かなーって思ったんです。なので自信をつけるため、戦ってもらおうと思いまして」

「だったら先に一言かけてくれ! まだ心の準備が……っ!」

「ではすぐにしてください、もう戦闘は始まってますよ!」


 私は奈落に入る前に新規獲得したスキル『挑発』を入れ、キングワームの注意をこちらに向ける。




 名前:キングワーム

 ランク:A+

 盗めるアイテム:毒針

 盗めるレアアイテム:スネークウィップ




 記憶していた通り、特に価値があるような物は持ってない。そのため今回は注意を引くことだけに集中する。


 キングワームにはあまり知性がないのだろう、こちらに向かって大口を開けて突っ込んでくる。が、極限まで回避値を上げた私に正面からの攻撃は当たらない。


 私の役割は回避かいひタンク。体力と防御はなくとも、回避できれば盗賊にも盾役を変わることは可能だ。


 背後に回りこんで再度『挑発』、これでワームはフィオナに背を向けている。魔法剣も容易く打ち込めるだろう。


「っ――属性付与エンチャント吹雪ブリザード剣!」


 特に私が合図することもなく、フィオナが吹雪ブリザード剣をワームの背に叩きこむ。


 ワームは一撃の元に両断。氷漬けになった死体も、絶命と共に地面へ吸い込まれて行った。


「ほらっ! 余裕だったじゃないですか!」

「ま、まさか本当に私がAランクの魔物を一撃で屠れるなんて……」

「十層のフロアボスも同じような戦略で行きましょう。私が注意を引き付けるので、フィオナさんはガンガン攻撃をブチ込んでください!」

「わ、わかった」


 フィオナは自分の持つ力に驚いてしまったのか、どこか呆けた表情をしていた。レベル上げは済んでいるし、これ以上の練習は挟まなくてもいいだろう。とりあえず今日はすたこらと十層まで辿り着き、明日の朝一でボスに挑めるようにしておきたい。


 十層のフロアボス――ライオニック・ケンタウルスとの戦闘はまた明日のお楽しみだ。

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