第22話 フィオナはワシが育てた

「フィオナさーん! そろそろ切り上げましょうか?」


 レベル上げ開始から九時間後。声をかけられたフィオナは言葉もなく頷き、その場にぶっ倒れた。


「あらら、大丈夫ですかー? 良かったら干し肉でも食べます?」

「……もらえるか」


 私はマジックポーチから干し肉と水筒を取り出し、フィオナへと手渡す。さすがにいきなり九時間はやりすぎだっただろうか?


 でもお母様の病気のためだし、今日できることは今日やるに限るよね。


 さて、それではレベル確認と行きましょうか。まずは自分のステータスからオープン!



☆☆☆

 名前:リオ

 才能:盗賊(レベル:92→95)

 残りスキルポイント:523→532

☆☆☆



 うーん、まずまずかな?


 経験値の振り分けもあったせいか、私自身に大きなレベルアップはなかった。


 とはいえ成長限界のレベル100も目前に迫ってきた。そろそろ別の才能を獲得する準備も始めたほうがいいかもね。上限解放用のオーブ調達もそのうち考えないと。



「フィオナさん、ステータスの確認はもうされましたか?」

「……リオが先に見ておいてくれ。私はもう少し、頭を空っぽにして休みたい」

「わかりました。それでは失礼して!」


 私は続けてフィオナのステータスも確認する。


☆☆☆

 名前:フィオナ・リビングストン

 第一才能:魔法剣士(レベル:47→72)

 第二才能:氷魔術師(レベル:41)

 第三才能:風魔術師(レベル:22)


 残りスキルポイント:43→118

☆☆☆


 あっ、少しだけオーバーラン。


 だが目標のレベル70を無事に一日で越えることが出来た。満足、満足。


「フィオナさんもレベル72まで上がってましたよ、お疲れ様です!」

「……そうか。本当に一日で達成したのか」

「これでにでも十九層を目指して、探索を開始できますね!」


 私の言葉を聞いたフィオナは、口を半開きにして硬直。瞳にぶわっと涙を溜めながら言った。


「な、なあ、リオっ……。明日は一日くらい休まないか? 十九層まで潜るなら往復に一週間はかかるし、食料や寝泊りの用意だって……」

「それなら昨日のうちに買いそろえてあります! 全部ポーチの中に入ってますよ!」


 私は喜んで欲しくてそう答えたのだが、なぜかフィオナの表情は絶望に染まっていた。



 ダンジョン深層に潜る際は、一日に五~六層までという目安がある。ダンジョン内では外の正確な時間がわからないので、ペースがまばらだと人間の体内リズムが狂ってしまう可能性がある。


 そのため一定のペースを保ち、ダンジョン内に寝泊りする必要がある。テントを張って『魔除けの香』や『聖水』で休憩所を作ってダンジョン内に泊まるのだ。


「お母さんのためにも、一日でも早く薬を作ってあげましょう! もしフィオナ様が望まれるなら、今から探索を開始しても……」


 そこまで言いかけたところで、フィオナにがしっと両肩を掴まれる。


「リオっ! 母上を気遣ってくれて本当に嬉しいのだが、今日くらいはベッドで休ませてくれ。頼む……」


 と、泣きそうな顔で言われてしまったので、大人しく帰ることにした。




***




 そして翌日。ついに探索開始の日、私とフィオナは出発前にグレイグの部屋を訪れていた。


 今回の依頼は表に出していない特別クエストだ。そのため登録手続きを人目のないギルマス部屋にておこなっている。


「すごい……! 本当に一日でレベル72まで上がってます!」

「これまでの常識が覆された瞬間だな……」


 投影の水晶を覗き込んだガーネットがつぶやくと、グレイグも額に汗を浮かべてうなっている。奈落の探索は危険なクエストにあたるので、ギルドには出発時の情報をしっかりと確認する義務がある。


「ハハハ……リオのレベル上げは、すごいですよ。本当に……」


 フィオナがどこか疲れた声で答えると、ガーネットが心配そうに聞き返す。


「フィオナ様? 顔色が優れないように見えますが、大丈夫ですか?」

「……気遣わせてすまない、大丈夫だ。それにリオの話によれば、今日は戦闘しないと言っていたからな」

「そうですね。今日はエンカウントなしで、ひたすら奥に潜るだけになると思いますので……」

「リオさんはなにをしてるんです?」

「フィオナ様のスキルポイントを、どう振り分けるか考えているんです」


 話している間、私はずっとフィオナのスキル盤を眺めていた。


 フィオナは現在178のスキルポイントを保有している。


 レベルも72まで上げたので、基本ステータスは充分に育ち切った。だが万全を期すなら、しっかりと必要なスキルも取得させておきたい。


 これからの戦闘を楽にするためにも、風魔法剣と風魔法をそれぞれ【LV:5】まで上げておきたい。そうすればコラボ魔術、吹雪ブリザード剣と吹雪ブリザードを習得できる。


 フィオナにその提案を申し出たところ「リオの言うことなら」と快諾してもらえた。


 そのため以下のスキルを習得&レベルアップ。


☆☆☆

スキル:

・風魔法剣【LV:2→LV:5】 必要ポイント:20

・風魔法【LV:2→LV:5】 必要ポイント:20


吹雪ブリザード剣  必要ポイント:15

吹雪ブリザード   必要ポイント:15

☆☆☆


 これで残りは118→48、まだポイントは十分に残っている。


 残りは魔力自動回復LVや、ステータスの上昇補正に振りたい。でもこれはフィオナのスキル盤だ、他人が口出し過ぎるのも気が引ける。


 Sランクダンジョンへの挑戦であるとはいえ、予想される戦闘は二回だけだ。それだけのためにフィオナのステータスを、自分好みにいじくり回すのは違うような気がする。フィオナとパーティを組むのは今回限りなのだから。


(でも高火力の魔法戦士、パーティに欲しいよなぁ……)


 身分の差がなければ、首を縦に振るまで勧誘し続けたと思う。


 お父様のような立派な騎士を目指しているとはいえ、年頃の美しい女性なんだから周りも放っておかないだろう。きっと縁談の一つや二つ来ているに違いない。


 期間限定のパーティーを転々してるとも聞いたけど、もしかしたら辞める時のことも考えてるのかもしれない。こんな強い人が固定パーティーに所属しないなんてありえないし。


 と、そんなことを考えていると、ガーネットの声で現実に引き戻された。


「――はいっ、これで登録手続きが完了しました!」


 そして居住まいを正したグレイグが、私の目を覗き込みながら言う。


「リオ、フィオナ様のこと。よろしく頼んだぜ」

「はいっ!」

「それと見つけられたらで構わないが……人の痕跡らしき物を見つけたら、持って帰ってきて欲しい」

「人の痕跡、ですか?」

「ああ。Sランクパーティー、聖火せいか炎竜団えんりゅうだんが失踪してもうすぐ四ヶ月になる」


 その話を聞いて、表に張り出されていた依頼書を思い出す。


「無理にとは言わんが、なにか見つかったら届けて欲しい。アイツらは二十層ボスの討伐を目標に掲げてた。十九層まで行くなら、なにか見つかるかもしれねえ」

「はい、わかりました!」

「ついでで構わねえからな。お前たちまで帰って来れなくなったら、元も子もねえからな」


 私はその言葉に深くうなずき、ヒュドラのいる十九層を目指して探索を始めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る