第21話 魔法剣士レベルを育てましょう!
「グレイグ殿の言う通り、リオは有能な冒険者であった。失礼があったことをここにお詫びする」
「あ、頭なんて下げないでください! 恐れ多いですっ」
「いや、私は護衛を頼む相手に礼を失し続けた。
「気にしないでください、フィオナ様に安心してもらえたなら十分です!」
「……そう言ってくれると助かるよ」
フィオナが安堵したとばかりに肩の力を抜く。
「しかし先ほどのアレは……スティールアンドアウェイとか言ったか? あのような使い方をよく考えたものだ、とても冒険者になって二週間の発想とは思えない」
「あ、あはは……」
さすがにその辺は説明しようがないので、寝る前にひらめいたとか言って誤魔化した。
「リオの実力はこの目でしっかり見せてもらった。改めて正式に護衛をお願いしたい、頼まれてくれるか?」
「もちろんです。でもその前にレベルを上げておきましょう!」
「……レベル70まで上げるという話か。疑うわけではないのだが、本当に可能なのか?」
「もちろんです。フロアボスの戦闘が避けられない以上、フィオナ様には最低限のレベルまで成長してもらう必要があります」
奈落十層のフロアボスには二人で挑むのだ、フィオナに置物のままでいてもらっては困る。
「フィオナ様は二属性魔術の使える『魔法戦士』と伺ってます。レベル70まで上がれば火力はフィオナ様の方が上になるので、ボス戦では私がサポートに徹します」
「ま、待て待て待て! レッドドラゴンを一撃で
「それはそうですよ。盗賊がいくらレベルを上げても、全才能中でも屈指の火力を出せる魔法戦士には敵いませんって」
これはフィオナが魔法戦士と聞いた時から考えていた戦闘プランだった。
私が『挑発』でボスの注意を引いて
魔法剣士の使うスキル『魔法剣』は、物理攻撃と魔力を加算した大火力スキルだ。盗賊の私がちょこまかと短剣で傷つけるよりは、遥かに早く討伐できるだろう。
「そうだ! 差し支えなければフィオナ様のステータスを確認してもよろしいですか?」
「それは構わないが……」
「ありがとうございますっ!」
私は許可をもらうと同時――パーティメンバー、フィオナのステータスを確認する。
☆☆☆
名前:フィオナ・リビングストン
◎第一才能:魔法剣士(レベル:47)
第二才能:氷魔術師(レベル:41)
第三才能:風魔術師(レベル:22)
残りスキルポイント:43
装備品:プラチナムキャリバー(A)・フルメタルアーマー(A)・エンジェリックリボン(A)
☆☆☆
うーん、正直思った以上にレベルが足りていない。
ぶっちゃけこれでA冒険者に昇格できるんだ、なんて失礼なことまで思ってしまった。それになぜか第三才能だけ、やたらレベルが凹んでいる。
「風魔術師のレベルが低いのは、なにか理由はあるんですか?」
「氷魔法剣のほうが、弱点が付ける魔物が多かったからな。そのため風はあまり鍛えてない」
「両方鍛えなきゃもったないですよ! それに風属性も育てないと
「
(あっ、そこからなんだ)
どうやら私の想像以上にスキル知識が世間に浸透してないらしい。
フィオナは一時的なパーティーメンバーであるとはいえ、こういった知識は世界の発展には必要だ。情報の出し惜しみは誰にとっても損だと思う。だから私はコラボ魔法剣は絶対に習得すべきだとフィオナに力説する。
「なるほど、そんな技が存在するのか。リオは盗賊以外の知識まで幅広いのだな」
「ふふん、任せてください。質問だって受け付けてますよっ!」
「ではお聞きしたい。私の取得スキルについて、どう思う?」
「正直なところ、もう少し統一性を持たせたほうがいいと思います」
☆☆☆
フィオナの習得スキル:
・氷魔法剣【LV:6】
・氷魔法【LV:6】
・風魔法剣【LV:2】
・風魔法【LV:2】
・武器両手持ち
・回復薬効果上昇【LV:3】
・魔力自動回復【LV:5】
・挑発
・捨て身の一撃
・横薙ぎ一閃
・受け流し
・攻撃力上昇【LV:2】
・防御力上昇【LV:2】
・魔力上昇【LV:2】
☆☆☆
魔法剣と属性魔法をしっかり育てている点は問題ない。だが他の取得スキルがちぐはぐだ。
例えば『武器両手持ち』で盾装備を放棄しているのに、『挑発』も同時に取っている。味方の盾役になりたいのか、攻撃に回りたいのかがあやふやだ。
そのことを指摘すると、フィオナはバツの悪そうな表情して言った。
「それは……私が期間限定のパーティーを転々としていたせいだな。所属したパーティーの穴を埋める形で、盾役も対応できるようにもしていたから」
「なるほど。でもせっかく魔法戦士を授かったんですから、火力に極振りしたほうがいいと思いますよ?」
「わかった、今後は火力重視でスキルを獲得していこう。リオの意見は本当に参考になる」
「あっ、でもこれはあくまで私個人の意見です。盾役に戻る可能性を残しておくなら……」
「いや火力特化で構わない。少なくとも目の前の奈落探索を成し遂げなければ、母上の病は治せないのだから」
「……ですね。では、そろそろレベル上げをはじめましょうか」
「ああ、手を煩わせてすまないがよろしく頼む」
目標は第一才能:魔法剣士のレベルを70まで上げること。
レベルは保有する才能ごとに分かれているが、戦闘時のステータスはその時にセットしてる才能に依存する。
つまり魔法剣士レベルが100だったとしても、風魔術師レベル1をセットして戦えばゴブリンやスライムとも互角のステータスになってしまう。
レベルは1上げるごとにスキルポイントが3獲得できる。そのため才能を多く用意できるのなら、第二・第三才能も育てて多くポイントを獲得するに限る。
だが、いまは十九層に行き『ヒュドラの心臓』を確保するのが最優先だ。魔法剣士のレベルだけ足りていればそれでいい。
フィオナと意思のすり合わせが終わった後、私たちはレベル上げを開始した。
レッドドラゴンも
エンカウントなしからの絶対先制――その初撃をフィオナに任せ、私の二撃目で討伐する。
先ほどのフィオナは見学だけだったが、今度は攻撃にも行ってるのでしっかり経験値を得ることができる。経験値は戦闘に参加しないと振り分けられない。
ちなみに戦闘への参加とは、ダメージを与えることに限らない。回復魔法や補助魔法、アイテムを使うだけでも参加扱いになる。
そのため生活種のレベルも上げたい時は、後衛からアイテム参加させる事が多い。
フィオナは魔法を使うこともできるが、今回はあえて魔法剣を使用した上での戦闘経験をつませている。
なぜなら
これは先日、ビッグホーリースライムと戦って感じたことだ。
私は破壊光線を三十発ほど打たれたが、最終的に一度の直撃も受けなかった。これは私が逃げるや盗むの過程で、俊敏な動きに体が慣れていたから。
これはレベルやステータス値に完全依存せず、本人の才覚などで変化させられることの表れだと思う。
もし私の回避値とスライムの攻撃命中率をゲーム上で算出したのであれば、全弾回避なんて絶対にできなかった。
だからこそ完全には楽をせず、体を張った特訓もするべきである。それが現実のクラジャンで得た教訓のひとつだった。
そして手あたり次第の魔物を狩り続けて――二時間が経過した頃。
フィオナが疲れきった表情で聞いてきた。
「……リオ。このレベル上げはいつまで続けるつもりなんだ?」
「え? レベル70に上がるまでですよ?」
「一日ぶっ通しで続けるつもりだったのか!?」
「もちろんです! いまフィオナさんはレベル59なので、あと七時間くらいですかね?」
「…………リオはいつもこんなに過酷な鍛錬をしているのか?」
「過酷ですかね? ちょっと前に来た時は十五時間くらい潜ってましたよ」
「じゅ、十五時間……」
フィオナが遠い目をしながら「ハハハ……」と薄ら笑いをし始めた。
そして観念したように剣を持ち上げ、再びレッドドラゴンに切りかかっていくのであった。
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