第17話 思わぬ苦戦? vsビッグホーリースライム

 容赦なく破壊光線を連射し続ける、ビッグ・ホーリースライム。


 私はそれに対抗すべく、同じような大火力で応戦することにした。


「くらえっ! 十倍威力の、火炎球ファイヤーボールっ!」


 私は指十本すべてに炎のリングを嵌め、拳を突き合わせながら火炎球を打ち放つ。


 もちろんゲームでは出来ない強引な使い方だ。炎のリングひとつではDランク級の火炎球しか出せないが、十個まとめて使えばBランク級まで攻撃力を上げられる。


 ――ギイィィィィィィィッ!


 直撃を受けたスライムが叫び声のようなものを響かせる。が、攻め手を緩めることはない。すぐさま光を集めてまた破壊光線の射出準備に入る。


「っ、いい加減、くたばってくれないかなぁっ!」


 跳躍、そして轟音。


 既に十発以上の破壊光線を打たれたが、いずれも回避には成功している。


 だが、さすがに疲れてきた。


 これを繰り返せば勝つことはできそうだが、ゲームと違い一度の回避でも結構な労力になる。さっさと終わらせてしまいたい。


 出会った時よりスライムは六割ほどの大きさになっている。それでもロザリオのおかげなのか、破壊光線は一向に止む気配がない。


(なんとか破壊光線だけ止められればいいんだけどなぁ……)


 盗賊である私には魔法を封じることも、反射魔法も使えない。魔力を吸収する手段も無ければ、聖属性を吸収する装備も持っていない。


 そんな私にできることはないだろうか。破壊光線を連発する敵に対し、盗賊の私が出来ること……







 ……盗賊の私にできること?


 …………盗めばいいのでは?


 目の前にいるスライムは小さくなったとはいえ、まだ一軒家ほどの巨体を保っている。


 ロザリオはスライムの体内深くに埋まっており、手を伸ばしたところで回収できる範囲リーチにはない。


 だが先日のレベル上げで、盗む過程をショートカットできることに気がついた。それは左手に盗んだ品を移動させるという技術。


 であれば、手が届かなくともロザリオを盗めるのでは?


 ボス戦では逃げるも即死も無効だが『盗む』は有効なハズ。そう考えた私はその場で『盗む』を実行。


 ――すると左手には当たり前のように、恵みのロザリオが握られていた。


「え、えーーーっ? こんなに簡単に取り返すことが出来たなんて……」


 これまでの苦労は一体なんだったの?


 ロザリオを失ったスライムはもう破壊光線を打つことはできず、思い出したように毒の粘液を飛ばす攻撃に切り替え始めた。


 私はそれをひょいひょいと横にかわし、再び拳を突き合わせて炎のリング×10の火炎球を解き放つ。


 それを繰り返しているうちに、スライムを難なく討伐することが出来た。


 入室と同時に閉じられていたボス部屋の入り口扉が開き、出口へワープできる脱出ゲートも出現した。


「無駄に苦労した感があるけど……まあ初めてのボス戦だしっ!?」


 誰もいないボス部屋で、なにやら言い訳くさい独り言を口にする。うん、空しい……


 とりあえずボスは倒したんだし、報酬くらいはもらって帰るとしよう。スライムのいた場所では、二個の宝箱ちゃんが私に開けられるのを待っている。


 盗めるアイテムとボスドロップ報酬は別物だ。もしボスドロップ枠にレアも設定されている場合、それはそれは過酷なボス周回が必要になることもある。


 ボスは脱出ゲートを攻撃して破壊することで再度戦うことが出来る。普通に帰還した場合は一ヶ月だけ討伐判定が残り、その間は脱出ゲートが使い放題になる。それ以降に訪れると再戦だ。


 ビッググリーンスライムには重要なレアドロップはなかったはず。そのため私は神に祈りを捧げたり、乱数調整といって開ける時間にタメを作ることもなく宝箱を開いた。


 まず一つ目、そこに入っていたのは毒進化の結晶だった。


 本来、ビッググリーンスライムがドロップする固定報酬だ。


 属性結晶は装備を望んだ属性に変えられる錬金素材だ。いざという時にないとまあまあ困るので、とりあえず大事に取っておこう。


 そして二つ目を開けた時、私は自分の目を疑った。


「これは……極光のリング!?」


 極光のリングは、炎のリング同様に属性魔術が込められた指輪である。


 先ほど私がスライムへ攻撃手段として使ったように、素質がない者でも簡単に攻撃魔術を使うことができる。だが極光のリングは他属性の指輪に比べて性能がケタ違いである。なぜなら極光のリングが使用できる魔術は、破壊光線なのだから。


「きっとボスがビッグホーリースライムになってた影響だよね……」


 想定外の苦戦を強いられてしまったが、その分だけいい報酬がもらえてラッキーだと思っておこう。


 終わり良ければすべてよし。私は脱出ゲートを使って、滝裏を後にするのだった。



***



 依頼を達成した私は、一目散に冒険者ギルドへと戻った。そして完了報告を終えた私は……めそめそとガーネットさんの前で泣きべそをかいていた。


「もうっ、リオさんって意外とおバカさんですね。私は冒険者ギルドの受付嬢ですよっ? ケンカくらいで怖がったりするわけないじゃないですか」

「本当ですかぁっ……? 目の前でケンカした私のこと、嫌いになってませんかぁ……?」

「嫌いになるわけないじゃないですか。だってリオさんはなにも悪いことをしてないんですから」


 ガーネットは私の頭をよしよしと撫でながら言う。


「でもケンカが終わった後、ガーネットさんの表情が引きつってました!」

「あ、あれは違いますっ! リオさんがすごい冒険者だったということがわかって、私もどう対応していいか……ちょっと悩んでしまっただけです」

「暴力女を嫌いになるかどうか悩んでたですかっ!?」

「違いますって! 敬語を使ったりした方がいいかなーとか、いままでが馴れ馴れしかったかなーとか」

「ずっとこのままがいいですっ!」

「ですよねっ。私もそう思ったのでいままで通りにすることにしました。これでよかったですか?」

「はいっ! ガーネットさん、大好きですぅっっ!!」

「私も大好きですよー」


 無遠慮に抱きつく私のことを、ガーネットさんは大人の余裕で慰めてくれた。


「と、お話は少し戻りまして。これでリオさんはCランク冒険者に昇格です、おめでとうございます!」

「ありがとうございます!」


 私は青枠のCランクライセンスを受け取り、自分の首にかける。これでまた一歩、クラン結成への夢へと近づいた。


 ちなみに依頼達成報酬として12万クリルを獲得。これで手持ち金は353→365万クリルとなった。


「ところで……リオさん。これから少しお時間はありますか?」

「はい。特に用事はないですけど」


 するとガーネットは辺りを見回し、周囲の注目がないことを確認して私に耳打ちする。


「ギルドマスターがリオさんに話したいことがあるそうです。よろしければ私について来ていただけますか?」

「……ギルドマスターが?」

「はい。内容は聞いてませんが、昨日の騒ぎと関係してるとは思います」

「あらら、やっぱりお叱りですかね?」

「どうでしょう……詳しくは聞いてませんが、処罰ということはないと思います。その場合、リオさんに選択権は与えられませんので……」

「なるほど。とりあえず今からでも問題ないですよ!」

「ありがとうございます。ついて来ていただけますか?」


 ガーネットに促されて受付カウンターの中に入り、冒険者ギルドの奥へ案内される。


(ちょっとドキドキするなぁ)


 だってゲームにはこんなイベント存在しない。受付奥にあるギルマス部屋なんて、内部データも存在しないはずだ。


 そんな場所に足を踏み入れることが出来るなんて、一人のクラジャンファンとしてたぎるようなものを感じてしまう。


 案内された先は両開き扉の部屋の前だった。ガーネットは扉を軽くノックすると「冒険者リオをお連れしました」と声をかける。中からは「入りたまえ」のダンディボイス。


 私はガーネットと軽く目配せをして頷き合い、ギルドマスターの部屋へと足を踏み入れたのだった。

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