第14話 目標達成と、これからの目標

 次の日も私は奈落に向かった。


 レベルは92まで上げてしまったので、今日からはしばらくアダマンタイトの回収に専念。昨日はレベル上げ中に2個回収できたので、必要なのはあと13個。


 ちなみに今日からサソリ君に『強奪』は使えない。なぜなら私はレベル上げ過ぎたせいで、即死不発でもレッドドラゴンも一撃ワンパンで倒せるようになってしまったからだ。


 魔物を倒してしまうとスティールアンドアウェイのメリットが活かせない。これは逃げて再エンカウントすることで、魔物から盗めるアイテムを復活させるシステムを活かしている。


 その仕組みで魔物を探す手間を省いているので、倒せば回収効率は落ちてしまう。すなわち回収目的の時は、魔物を倒してはいけないのだ。


 だから私は『強奪』ではなく『盗む』スティールアンドアウェイを、サソリ君に繰り返していたのだが――ある異変に気付く。


(あれっ? まだ魔物にタッチしてないのに、なんでもう左手にアイテムが収まってるの?)


 いままでは魔物のふところに忍び込み、相手の体に触れることが『盗む』行動のキーになっていた。だが気付けば魔物に触れる前に、自分の左手に盗みたい物が収まるようになっていた。


 何度か検証した結果、頭の中でいまから『盗む』動作に入る――そう思った瞬間に、左手にアイテムが収まるようになっていた。まるで左手に突然アイテムが現れでもしたかのように。


(理由はわからないけど、とにかくこれは便利だ!)


 そのおかげで以前より効率も上がり、私は三日かけて13個のアダマンタイトを回収。目標の数をそろえた私は、にっこにこでレファーナの元を訪れた。




「……リオと会うのは、今日が四日ぶりであったな?」

「はい、久しぶりに会えて嬉しいですっ!」

「そういうことを言うておるのではない……」


 レファーナの前にあるのは15個のアダマンタイト。


 腰に携えられた最強の短剣、アサシンダガー。


 数日前には感じられなかった、強者のオーラ。


 初めて会った時とはすべてが変わってしまった、盗賊リオの姿がそこにあった。


「その様子じゃと、しっかりレベルも上げることができたようじゃな?」

「はい、おかげで92まで上げることは出来ました」

「92って……お主、もうこの国で一番強いのではないか?」

「そんなことないですよっ、盗賊はレベルが上がりやすいだけですから!」

「にしても限度というものがあるじゃろうが」


 レファーナはため息をつきながらも、また私にハーブティーをお出ししてくれた。


「わーい、レファーナさんのハーブティーだー! とってもいい匂い!」

「ふん。茶菓子でもつまんで待っておれ」


 言いながらレファーナは、新たに持ち込んだアダマンタイトを丁寧に検品していく。


「……すべて問題のない品じゃ。これで約束の4000万クリル、確かに受領した。ご苦労じゃったな」

「ではマジックポーチ、作ってくれるんですね?」

「もちろんじゃ、制作には二週間ほどかかるがの」

「やった!」


 第二目標、マジックポーチの取得をクリア!


 奈落の存在を思い出すことが出来たので、予定よりだいぶ早く達成してしまった。あとは第一目標である、クランの結成に向けて冒険者ランクを上げるだけだ。


 そこで私はふと、当たり前のことに気付く。


(レファーナさんとはマジックポーチをきっかけに出会ったけど。作り終わったら会う機会は少なくなっちゃうのかな……?)


 不意にさびしい気持ちに襲われる。少しツンツンしたところはあるけれど、私の身を案じて怒ってくれた優しい人だ。いまではレファーナを母や姉のように思っている、これで疎遠になってしまうのは悲しい。


 ヒマな時は遊びに来ていいと許可はもらったが、理由がなければ会う機会は減ってしまうだろう。


(……ん? だったらレファーナさんをクランに勧誘すればいいのでは?)


 私の第一目標は楽しいクランの結成。


 クランは冒険者パーティーと違い、縫製師のような生活種のメンバーだってウェルカムだ。むしろ私たちが帰ってきた時に、レファーナが出迎えてくれたら最高以外の何物でもない。


「ねえっ、レファーナさん! いまフリーなんですよね!?」


 立ち上がって顔を寄せた私に、レファーナがギョッとした顔を見せる。


「……と、突然なんじゃ、驚かせるでない」

「ごめんなさい! でもレファーナさんがフリーなら、ぜひ私のクランに入って欲しいと思って!」

「クラン? リオはクランを作るつもりじゃったのか?」

「はいっ! だからレファーナさんがどこかに所属する予約がなければ、ぜひ仲間になって欲しいんです!」


 私はありのままの気持ちをダイレクトに伝える。するとレファーナは戸惑った表情をした後、申し訳なさそうな顔でこう言った。


「……すまんが、いまはどこのクランに所属するつもりはなくての」

「ええっ!? ダメなんですか!?」


 正直なところ、断られると思ってなかったので素で驚く。


「なんでっ、どうしてですか!? 私みたいな騒がしい小娘は嫌いでしたかっ!?」

「お、落ち着け。別に……リオのことを嫌ってなどおらんわ」

「えっ、じゃあ私のこと好きなんですか? 照れるぅ!」

「……お主、なかなかいい性格しておるのぉ」


 レファーナは引きつった表情を見せた後、居住まいを正してお断りの理由を教えてくれた。


「アチシは確かにフリーじゃ。しかし勧誘の声がまったくなかったわけではない」

「そうだったんですね! でもそちらに所属されてるわけじゃないんですよね?」

「ああ。勧誘した当のヤツらは……現在、長い旅に出ている途中での」


 そうか、他から勧誘は受けていたのか。ちょっぴり残念ではあるものの、私と会うまでにもたくさんの出会いがあったはずだ。


 多少の情を持ってくれたとしても、会って一週間ちょっとの私が割りこめるとは思えない。だから――


「ではレファーナさんがそちらのお誘いを蹴って、こっちに入りたいと思えるようなクランを作りますね!」

「……は?」

「私はレファーナさんと家族になりたいんです。だからそんな簡単にあきらめたりできませんよ!」


 本気の本気でレファーナをクランに迎えたい。それなのにあっさり引き下がったら、まるで誰でもいいから誘ったみたいじゃないか。レファーナの代わりはいない、だからあきらめない。簡単にあきらめたら逆に失礼というものだ。


「とりあえず冒険者ランクBにはシュシュッと上げてきます。そしたらタイミングを見計らってまたお誘いしますね!」

「な、何度来ても答えは同じじゃぞっ! 来る度に断り文句を聞かされるだけじゃぞっ!?」

「構いません! それに……断り続けるツンデレのじゃロリを落とせたら、サイッコーに気持ちいいじゃないですかっ!」

「…………???」


 私は残っていたハーブティーをグイっと飲み干して立ち上がる。


「今日はこれで失礼します。マジックポーチの件、よろしくお願いしますねっ!」

「あ、ああ……」


 呆然とするレファーナに手を振り、その場を後にする。


(よし。マジックポーチは手に入ったも同然だし、これで冒険者ランクを育てるのに専念できるぞ!)


 アダマンタイト回収をする成り行きで、レベルも十分に育ち切ってしまった。これならソロでもある程度のクエストはクリアできるだろう。


 明日は朝一でギルドに行き、クエスト攻略に乗り出してやる。変化の予感に胸を躍らせ、私は笑みを浮かべて宿の方へと戻るのであった。



***



 一方。リオが去った後のレファーナは、複雑な気持ちで感傷にふけっていた。


 リオが残した言葉が、胸に焼き付いて離れなかったからだ。


(家族になりたい。だからあきらめられない、か……)


 あれほど直接的ではないが、似たような言葉をかけた冒険者のことを思い出したから。


「……なあ。お主らが何度も誘っておったのは、そういうことじゃったのかの?」


 混ぜっ返された心が、不意に独り言を吐かせてしまう。


「帰ってきたら今度こそ頼みを聞いてやる。じゃから早く戻ってこんか、馬鹿者……」


 一人で飲むハーブティーは味気なく、最後まで飲み干すことが出来なかった。

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