第13話 やりすぎレベルアップ

 アサシンダガーが出来るまでの三日間。


 レファーナに言われた「先にレベルを上げろ」の約束を守るため、しばしの戦闘行動をお休みすることにした。


 思えば転生してから忙しい日々が続いていたので、ゆっくりと体を休められたのは久しぶりだった。


 空いた時間を使って防具も新調した。


 回避には極振りしてしまったものの、レベル上げの際になんらかの理由でダメージを負うかもしれない。


 購入したのはドラゴニックパーカー。四属性に対してそこそこの耐久を持つCランク防具である。フードを被ると結構かわいく見えるのがお気に入りだ。



 あとは空いた時間でレファーナの家にも遊びに行った。


 昨日の今日で遊びに来た私に、レファーナは白い目を向けてきたが本気でイヤだったわけではないのだろう。作業の手を止めてハーブティーを出してくれた。


 お茶請けに出してもらった砂糖菓子もたくさん食べてしまった。無遠慮に食べる私を見てレファーナは呆れていたが、困ったような笑みはまさにお姉さんのようだった。


 その会話の中でレファーナは私に、意外な提案をしてくれた。


「……のう、リオ。失敗作のポーチ、タダで貸してやろうか?」

「いいんですかっ!?」

「誰かに売るアテがあるわけでもないしの。それに4000万クリルの回収が早まるのであれば、アチシにとってもメリットばかりじゃ」

「でしたら是非、お貸ししていただきたいですっ!」

「だが約束せい。絶対に死なずに帰ってくるとな」

「はいっ!」


 ということで、幌馬車一杯分が入るというポーチをお借りしてしまった。


 嬉しい。


 便利なポーチを借りられたのはもちろんだが、レファーナの向けてくれた好意が嬉しかった。




 そしてアサシンダガー受け取りの日が来た。


 気付けば食っちゃ寝生活を繰り返したせいか、お腹の肉がつまみやすくなっていた。


「……食べたあとにはしっかり運動をしないと、ね」


 私はそんないましめを口にしながら、モルガンの鍜治場へと向かう。


「こんにちはっ! モルガンさんっ、注文の品を取りに来ましたっ!」

「おう、嬢ちゃんか。しっかりと出来てるぜ」


 そう言ってモルガンさんは、刀身を青紫に光らせた短刀を差し出してくれた。


「これが実物のアサシンダガー……」


 アダマンタイトの美しさを一層引き立てる、鋭利な刀身に思わず息を呑む。


「扱いには十分注意してくれよ、なにせ即死の追加効果付きだ。それは持ち主だろうと関係ねえ、刀身舐めて死んだバカもいるから気をつけな」

「ひいぃぃぃっ! 気をつけますうっ!」


 舐めはしなかっただろうけど、頬ずりくらいはしていたかもしれない。それほどまでにこの武器は美しい。


さやはサービスでつけといてやる。あと自分で上手く研げない時は持ってこいよ、格安で研ぎ直してやるから」

「はい、なにからなにまでありがとうございます!」


 アサシンダガーを受け取った私は挨拶もそこそこに、鍜治場の外に飛び出した。


 だってせっかく手に入れた最強武器だ、これを使って早くレベル上げをしてみたい!


 我慢できなくなった私は、奈落に向かう途中で出会ったストーンゴーレムに試し切りをしてみることにした。


 エンカウントなし・絶対先制からの、新規習得した強奪を仕掛けてみる。


 ダガーを握った右手で――ゴーレムに一閃。


 硬い岩肌を切りつけたはずなのに、右手への反動はまったくない。アサシンダガー切れ味が良すぎるのだ。


 攻撃した後は後方へ跳躍、スティールアンドアウェイ。


 魔物が自分を見失うまで警戒は怠らない。切りつけたゴーレムを観察していると、痙攣けいれんしたように体を震わせ始めた。


 そして切りつけた傷口から、黒い煙のようなものが立ち昇る。するとゴーレムを形作っていた大岩がボロボロと崩れていき、生きていた痕跡はまるで見当たらなくなった。


「す、すごい……!」


 傷口から噴き出した黒い煙は、ゲームの演出でも見たことがある。あれは即死の演出エフェクトだ。


 どうやら一発で即死を成功させたらしい。


「じゃあ、もしかして……!?」


 念のため自分のステータスを確認する。するとレベルは……1から12にまで上がっていた。


 ストーンゴーレムはDランクの魔物だ。およそレベル1の冒険者に討伐できる魔物ではない。そのため大量の経験値を得た私は、一足飛びのレベルアップを果たしたらしい。


「すごいっ! これを奈落でやったら、もっとすごいことになる!」


 興奮した私は左手に握りしめていた鉄鉱石を仕舞い、今度こそ奈落へ向かって一直線。


 ちなみに握っていた鉄鉱石は『強奪』で盗んだアイテムだ。どうやら強奪を仕掛けた場合、盗むモーションを取らなくても左手に盗んだ品が収まる仕様らしい。とても便利だ。


 そうして足早に奈落へと到着した私はサソリ君――ではなく、今日は経験値の多いレッドドラゴンを集中的に狩ると決めた。




 名前:レッドドラゴン

 ランク:A+

 盗めるアイテム:竜のツメ

 盗めるレアアイテム:炎のリング




 全身が赤いウロコに包まれた、四メートルを越える大型の魔物だ。狩れることがわかっていても、つい尻込みしてしまうほど大きい。


 だが、これまでの経験で不可能じゃないことがわかっている。だったらビビってなんかいられない、女は度胸だ!


 レッドドラゴンの懐に忍び込んで一閃、後方へ跳躍ッ!


 すると切りつけたドラゴンの腹から、また黒い瘴気が噴き出した。レッドドラゴンは断末魔の叫びをあげると共に――絶命した。


 盗んだ竜のツメの確認もそこそこに、私はステータスを確認する。


 レベル12→32


 今度は一気に20も上がった!


 これなら今日中にレベル60は余裕で行くんじゃないだろうか?


 そう考えるとワクワクが止まらなくなってしまい、私は無我夢中で近場の魔物を借り始めた。


 レッドドラゴン、レッドドラゴン、ブリザードフェンリル、レッドドラゴン、ゴブリンジェネラル――


 即死が入らなかった場合はもちろん、相手の警戒が抜けたことを確認してから再接敵。そして即死が入るまでスティールアンドアウェイを繰り返す。


 借りたポーチのおかげで今日は重さも気にならない。失敗作とはいえポーチの胃袋は幌馬車大だ。気にせず強奪をくり返して問題ないだろう。


 自分より大きな体を持った魔物が倒れていくのは、本能に訴える爽快感があった。


 転生してから一度も手に入らなかった経験値もドバドバと入ってくる。あふれ出る脳内物質も止まらない。ゾーンに入ったような高揚感に身を任せ、ひたすら目の前の魔物を狩り続けた。






 そして十五時間が経過した頃。


 脳内物質も枯れ、極度の疲労感に気付いた私は、ようやく奈落を出ることに決めた。


(さ、さすがに興奮に身を任せすぎた……)


 十五時間のフィーバータイムを終え、私のステータスは以下のように変化していた。



☆☆☆


 名前:リオ

 才能:盗賊(レベル:1→92)

 残りスキルポイント:250→523

 装備品:アサシンダガー(S)・ドラゴニックパーカー(C)・防毒ペンダント(E)・しっぱいポーチ(B)



新規取得アイテム:


毒消し草×42

アダマンタイト×2

竜の爪×102

炎のリング×11

氷の牙×82

ウルフの毛皮×7

鋼の剣×88

将軍のマント×4

鉄鉱石×1


☆☆☆



 フフフ、これが真のクラジャン廃人の力よ!


 一日でレベル1から92まで上げてやったぜ!


 三日間の食っちゃ寝で増やした体重カロリーなんか、とうの昔に消費してしまっただろう。


 ついでにすべての攻撃が強奪だったので、アイテムもたくさん集まった。


 その中でも『炎のリング』は戦いの幅を広げる良いアイテムだ。魔法の使えない私でも、指に嵌めればDランク級の火炎球ファイヤーボールを放つことが出来る。


「……それにしても今日は疲れた」


 重い足を動かしてダンジョンを出ると、来た時と同じく空は明るいままだった。


(あれ、なんでだろう? 来た時も昼間だったはずなのに?)


 ふとした違和感を覚えたものの、勘違いをしているのは自分であることに気付く。……どうやら夜になった後、また陽が昇ったらしい。


 十五時間もダンジョンにいたのだから当然だ。照りつける太陽もいつも以上に眩しく感じる。早くベッドで泥のように眠りたい、うっかりしてると思わず寝息を立ててしまいそうだ。


 ――だが、その時うっかりやらかしてしまった。


 気を抜いていたせいだろう、ふとした調子で『エンカウントなし』を無効にしてしまった。そのため出入り口に立っていた見張りに、見つかってしまったのだ。


「うわっ、なんだ!?」

「お前っ! いつからそこにいた!?」


 声を掛けられたことに私も驚き、返答に詰まってしまう。


「えっ、あ、そのぉ…………このダンジョンって、Dランクの私でも入れますかぁ~?」


 その場を誤魔化すために、私はわざとアホっぽい口調で自分のライセンスを差し出した。すると見張りの人たちは私のライセンスを確認すると、呆れた表情でため息をつく。


「……ここはSランクダンジョンだぞ? なにをどう間違ったらここにたどり着くんだ?」

「す、すいませ~ん。私ってめちゃくちゃ方向音痴で……ニコルの町はここからどう行けば戻れますか?」

「ったく、仕方ないヤツだなぁ」


 その場を誤魔化そうと下手な愛想笑いをする私に、見張りは親切に町までの道を教えてくれた。


 おまけにDランクの私が付近の魔物に殺されないようにと、わざわざ魔物除けの聖水まで恵んでもらってしまった。ウソでその場を乗り切ろうとした私の良心はズタボロである。


 今更ながら彼らもハリボテの見張りではない、一人の優しい人間なんだと実感したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る