第12話 来たるレベルアップに備えて!

 レファーナの家を出た私は、その足で案内を受けた鍛冶屋へと向かった。


「広場を出て東、煙突のある建物……あれだ!」


 目当ての建物を見つけた私は、入口近くで作業をしていた職人風の男性に話しかける。


「すみません! こちらにモルガンという方はいらっしゃいますか?」

「……モルガンはここの親方だけど。なんの用?」

「レファーナさんに紹介状をいただいたんです。モルガンさんに作っていただきたい物があったので!」


 そう言って職人に紹介状を渡すと、中身を勝手に読み始める。


「あ、え、ちょっと……?」

「親方、字が読めねえから」

「そ、そうだったんですね」

「内容は把握した、ついてきな」

「ありがとうございますっ!」


 表情ひとつ変えない職人の後ろについて行き、大きな鍛工たんこうのある部屋へ連れて行ってもらった。


 そこにはいかにも親方というヒゲの男性が、真っ赤な鉄を金床かなとこの上で叩きつけていた。


「しばらく座って待ってな。親方は一度鉄を打ち始めると話聞かねえから、終わったタイミングを見計らって声かけてみ」

「はいっ、ありがとうございます!」


 職人にお礼を言って、私は物めずらしい鍛冶の様子をじいっと眺め続ける。


 いま叩いているのは長剣、だろうか。完成前なので観察眼を使っても武器の名前はわからない。


 鍛冶師かじしは生活種の才能でも便利な部類だ。ゲームでは錬金術師が一人クランにいれば広範囲なアイテム制作を任せられるが、鍛冶師や縫製師などの専門職でないと作れない高ランク武器が存在する。


 どうしても才能によって若干の優劣はある、完全に腐ってしまう才能はほとんどない。これがクラジャンというゲームのいいところでもある。


 やや厚みのある鉄をまじまじと観察し、必要なところに向かってハンマーを打ち付けている。


 少し楽しそうにも見えるが、大変な作業なのだろう。親方モルガンの額には汗がにじんでおり、時折つらそうに目元を押さえている。熱された鉄は真っ赤な光を帯びているので、目疲れもすごいのかもしれない。


 私は初めて見る鍛冶の様子に魅入られ、時間を忘れてその光景を観察し続けていた。


「……こんなもんか」


 モルガンが出来上がった剣身を眺めて満足そうに言う。目の前で一本の剣が出来たことに感動し、私は「おぉ~」と声を出して手を叩いていた。


「わっ、なんだお前。いつからそこにいた?」

「えっと……二時間くらい前ですかね?」

「そんな前からいたのかよ。声くらいかけてくれよ」

「す、すいません」


 話しかけても無駄と言われたから待ってたんだけど。って、別にそれはどうでもいいか。見てるだけでも楽しかったし。


 本題を思い出した私は、改めてレファーナに紹介状をもらって来た事をお伝えした。


「アサシンダガー? 随分とすげぇ注文だが……素材は持ってきてるんだろうな」

「はい、こちらです!」


 そう言って私はリュックからアダマンタイト3個を取り出した。


「ほぉ、なるほどな。これならすぐにでも取り掛かってやるよ。また三日後に来てくれや」

「そんなに早くできるんですか?」

「当たり前よ。俺はこの国で一番の鍛冶師だぜ?」

「すごいですっ! あ、そういえばお願いする代金はおいくらになるんですか?」

「ん? さっきアダマンタイトを三個もらったろ? 使わなかった分の余りを代金としてもらうから気にすんな」

「あっ、そういう取引なんですね」


 アダマンタイトはハンドボール一個分くらいの大きさだ。短剣一本作るのに、まるまる三個は必要ないということだろう。


「嬢ちゃん、名前は?」

「リオですっ」

「よっしゃ、リオ。最高の品を作っとくから待っとけよ」

「はいっ! よろしくお願いします!」


 私はモルガンに元気に返事をして鍜治場を後にした。


(想像していたよりいい人だったなぁ)


 話を聞かないコテコテの頑固オヤジを想像していたが、子供の自分にも愛想の良い人だった。もし鍛冶師の手が必要になった時は、またモルガンのところにお願いしよう。


「……さて、これからなにをしようかなぁ」


 順当に考えればマジックポーチのために、アダマンタイト回収に奈落へ潜るべきだろう。


 だがレファーナに危機意識が低いと注意されたことで、先にレベル上げをしたほうがいいような気がしてきた。そのために必要な武器、アサシンダガーが出来るまでにはあと三日かかる。


 めずらしくヒマを持て余すことになった私は、仕方なく宿に戻ってベッドに寝転がる。そして自分のスキル盤にアクセスし、これから取るべきスキルについて思いを巡らせる。


(アサシンダガーが手に入ればスティールアンドアウェイだけでなく、攻撃で魔物を倒すことも必要になる。だったらこれは取っといたほうがいいよね)


 盗賊スキルの中でも割と低ポイントで入手できるスキル――強奪ごうだつ


 通称、ぶんどるとも呼ばれている。


 強奪があれば攻撃と同時に盗むことができる、盗賊にとっては必須級のスキルだ。


 これまで取って来なかったのは、そもそも魔物を倒す攻撃力がなかったから。だがアサシンダガーを装備しての強奪は、即死効果も見込めるので入手と同時に必須級のスキルになる。


 強奪の取得ポイントは10なので、残っているポイント860で十分取得できる。


 その他に割り振るなら、単純にステータスアップがいいのかな。


 振るのであれば間違いなく回避値上昇だろう。


 アサシンダガーでのレベル上げをした後でも、盗賊の基本性能スペックは他の戦闘職に比べて劣っている。


 レファーナに言われた通り、命を大事にするのであれば回避に振るのが一番だ。


(ゲームでは盾役タンクを編成するから、回避に振りすぎる必要はないけど……死んだら終わりだもんね)


 そう考えてしまえば回避に振らない選択はない。私は新たに『強奪』と、ステータスアップの『回避率上昇【LV:20】』を取得。


 現在のステータスは以下のようになった。



☆☆☆


 名前:リオ

 第一才能:盗賊(レベル:1)

 残りスキルポイント:860→250

 所持クリル:353万クリル (マジックポーチ進捗1000万/4000万)

 装備品:防毒のローブ(E)・防毒の手袋(E)・防毒のブーツ(E)・防毒のペンダント(E)・クソデカリュック(F)



 習得スキル:

 ・エンカウント率減少【LV:20】

 ・先制攻撃率上昇【LV:20】

 ・逃走成功率上昇【LV:20】

 ・盗む成功率上昇【LV:20】

 ・常時ダッシュ【LV:5】


 ・観察眼

 ・強奪


 ・回避率上昇【LV:20】



 所持アイテム:

・薬草×2

・毒消草×70


☆☆☆



 回避値上昇にも極振りしたので、3300あったスキルポイントもようやく底が見え始めた。だけどこれは前回までに引き継ぎで持ってきた分だ、スキルポイントは才能レベルを1上げることに3獲得できる。つまりいまの十二周目で稼いだポイントはゼロ、まだまだ使える分は目に見えないところにたっぷり残っている。


 アサシンダガーが手に入ったら、即死効果に頼りながら奈落でレベル上げをするつもりだ。レベルが育てばそこそこの討伐クエストだってこなせるようになる。


 最強クラスの魔物が徘徊する奈落なら、きっと二日くらいでA冒険者並みのレベルまで到達できるだろう。


 私の十二周目はまだ始まったばかり、楽しくなるのはこれからだ!

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