第7話 天才縫製師、レファーナ
翌日。私は朝一で冒険者ギルドに向かった、背中に膨れ上がったリュックを抱えて。
「リオさん、おはようございます! ……って、今日はずいぶんと大荷物ですね?」
「はい。猛毒草を回収してきたのでっ!」
言いながらクソデカリュックをカウンターの上に乗せる。
どさりと音を立てて置かれたリュックからは、紫の怪しげなオーラが
「えっ? これ、全部ですか……?」
「はい。確認する時は気を付けてくださいね、猛毒草なんで」
「え、ええぇっーーーー!?」
ガーネットは大声を上げて飛び退くと「ちょっと待っててください!」と言って、先輩職員へ確認に行ってしまった。
だが話はそれだけに留まらず、別の男性職員も交えて話し合いが始まった。ややあって意見もまとまると、ガーネットが緊張した面持ちで戻ってきた。
「と、とりあえず猛毒草はお預かりします! これから採集量を数えますので、夕方ごろに来てください!」
「夕方、ですか。結構時間かかるんですね?」
「当たり前じゃないですかっ! 触ると死んじゃうかもしれないんですよっ!? それをこんなにもたくさん!」
「やっぱり多かったですか?」
「多すぎますっ!! 袋いっぱい持ってくるなんてどうかしてます!」
ガーネット
「それにあの地域には危険な魔物も多かったはずですよ!?」
「言ったじゃないですか、逃げるのは得意だって」
「得意で済むような問題じゃない気もしますけど……まあいいです」
そう言ってガーネットはため息をついた後、少し困ったような顔で微笑んだ。
「……でも、ありがとうございます。猛毒草は供給量が少ないので助かりました」
「いえいえ。ところでひとつお伺いしたいんですけど」
後ろに順番待ちがないことを確認してから質問する。
「この町にマジックポーチを売ってる場所はありませんか?」
「マジックポーチ、ですか。ずいぶんとすごいものを欲しがるんですね」
「やっぱりお高いんですか?」
「それはもちろん。すぐれた収納袋は倉庫の代わりにもなりますし、
なるほど、そういう使い方もあるのか。現実世界での使い方を例えに出されると、なんか不思議な気分になる。
「お金はなんとしてでも用意するつもりです。なので売ってる場所を教えてもらえれば……!」
「うーん、でもお店に並ぶ物でもないですからね。どうしても手に入れたいのであれば、高レベルの
「……最近、レファーナが帰ってきたんじゃなかったかい?」
話を聞いていた細目の受付嬢が、ガーネットに助言を出す。
「ニコルの
「……あっ、そうですね! しばらくはニコルに滞在予定とも伺いましたし!」
「彼女は国からの仕事も受ける、スゴ腕の縫製師だ。レファーナなら金さえ詰めばきっと作ってくれるだろう」
「本当ですかっ!? よければお住まいの場所を教えてくれませんか!?」
「ちょっと待ってな、地図を書いてあげるよ」
「ありがとうございます!」
私は手書きの地図を受け取ると、お礼もそこそこにギルドを飛び出していった。
「あ、ちょっと!? ……行っちゃった。自由気ままな子だねぇ」
「ええ、本当に。それに初クエストで猛毒草をあんなに持ってくるなんて、ぶっ飛んでます」
「いいじゃないか、面白くて。むさ苦しい冒険者ばかりより、彼女みたいなのがいてくれたほう楽しいよ」
受付嬢の二人は目を細めて、ギルドの出口を眺めるのだった。
***
「ここ、だよね……?」
地図を頼りに郊外の一軒家にやって来た。周辺にはご近所と呼ばれるような家もなく、ここが町の内部であるかどうかも疑わしいほどさびれている。
私はおそるおそる家の扉に近づき、軽くノックして声をかけてみる。
「すみませーん、ここはレファーナさんのアトリエですかー?」
中からの返事を待ち、黙り込む。が、返答はない。
念のため扉をもう一度たたくと――カギがかかってなかったせいか、扉が開いてしまった。
「……あの~、レファーナさんいますか~?」
申し訳ないと思いつつ、家の中をのぞき込みながら声をかける。だが家主は出かけているのだろうか、中には誰の姿もない。
仕方ない、出直そう。
そう思い扉を閉めようと思ったのだが……ところ狭しと置かれる、色とりどりの生地に目を奪われる。
エスニックな
(すごい! これが高ランク縫製師のアトリエなんだ!)
私は感動すると同時、好奇心で『観察眼』を起動した。転がっている生地などの鑑定をしてみたくなったからだ。
だが観察眼を発動すると同時、いままで見えなかったフード姿の幼女が目の前に現れる。
幼女は杖をこちらに向け、敵意のこもった目で私を睨みつけていた。
――瞬間。本能的な危険を感じ、私は家の扉から飛び退いた。すると私の立っていた場所に、
避けた火炎球は丘の向こうに飛んで行き――大きな爆発を巻き起こした。
(あ、危なかったあ……)
観察眼の発動が遅れていれば直撃を受けていただろう。思わぬ命の危険に、心臓の鼓動が耳の近くで鳴っていた。
私は警戒心を高め、アトリエの方に視線を戻す。するとフードを外した銀髪褐色肌の幼女が、不機嫌そうな顔で私をにらんでいた。
「お
「うわっ、のじゃロリだ!」
「……ノジャロリ? お主は一体なにを言っておるのじゃ?」
「あっ、いえ、なんでもないです」
純正のじゃロリに出会えた感動が大きく、思ったままを口にしてしまった。
「驚かせてしまってすみません。声をかけても返事がなかったもので」
「お主の声なぞ聞こえている、だが無視したのじゃ」
「えっ、なんでですか!?」
「当たり前じゃろ、アチシは天才縫製師レファーナ様じゃぞ? なんで小娘ごときに仕事のジャマをされねばならんのじゃ」
「えっ。あなたがレファーナさん本人なんですか?」
「いかにも、なにか文句でもあるのか?」
「い、いえいえっ!」
文句はないけど、驚いた。
背丈は私の肩くらいまでしかない、パッと見は小学生くらいだ。けれど話しぶりに貫禄もあるし、本人というなら本人なんだろう。
「しかし先ほどの火炎球、よく避けられたな?」
「あっ、はい。観察眼を使ったらレファーナさんの姿が見えたので」
「……観察眼、か。それでステルスフードを被っていたアチシを見つけられたのじゃな」
「ステルスフード?」
「このフードを被った者は、敵から視認されなくなる。観察眼を使われたことで、存在ごと見破られたのじゃろう」
「な、なるほど……」
「しかしスキル観察眼ということは……お主、盗賊か? 空き巣にでも入りに来たのか?」
「違いますよっ!」
空き巣と思われるのは心外だ。
盗むは魔物にしか使わない。人から盗んでしまえば、この世界で嫌われる盗賊そのものになってしまう。
私が必死に無実を訴えると、レファーナは肩の力を抜いて笑いながら言った。
「冗談じゃ、家を覗き込んでいたお主に、そんな素振りはなかったからの」
「本当に信じてくれてます!? そう思ってたら攻撃なんかしないで欲しかったんですけど!」
「あれくらい挨拶みたいなものじゃろ」
どこまでか本気かわからないが、とりあえず疑いは晴れたらしい。肩の力を抜いたレファーナは笑みを浮かべながら、中に入れと促してくれたのだった。
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