第6話 収納限界と、重さが許せない!

 防毒装備を買いそろえた後、猛毒草の群生地に向かって歩き出した。


 少しでも移動時間を減らすため『常時ダッシュ』を起動。五倍速で過ぎ去る景色を眺めてながら歩いていると、次第に大きな湿地帯しっちたいが見えてきた。


 湿地帯の岸辺きしべには、紫の花を咲かせた植物がたくさん生えている。あれが猛毒草。


 近くを歩く魔物たちも、紫や黒の肌を持つものが多い。この周辺で生まれ育った魔物は毒耐性はもちろんのこと、毒を使った攻撃をする魔物も多い。


「エンカウントなしのおかげで接敵はしないけど……素手で触れないように気をつけないとね」


 十分に注意をしながら群生地に足を踏み入れ、草むしりの要領で猛毒草を引っこ抜いていく。


 背中のクソデカリュックには、詰め込もうと思えば40kgくらいの物が詰められる。


 採集クエストは集めた分だけ、多くの昇格ポイントを獲得できる。そのため今日はリュックがいっぱいになるまで採集するつもりだ。


 脳死周回で鍛えられた私は、単純作業を苦に思わない。しかもこれが現実のお金になるのだ、手を抜こうなんてこれっぽっちも思わない。


 買取屋の椅子で二時間も寝たことだし、サボった分だけしっかりと採集をがんばらないと。


 ――そうして私はどんどん単純作業に没頭していく。頭を使わない作業なので、気付けばまったく別のことを考えていた。それはクラジャンの主人公たちが辿る、本来のストーリーのことだった。




 クラジャンこと、クラン・オブ・ジャーニーの主人公は勇者である。


 物語は主人公が『覚醒の儀』で、勇者の才能をさずかるところから始まる。


 そして聖女せいじょの才能を持つ女の子と合流し、王の勅命ちょくめいで魔王の討伐を命じられる。それがクラジャンの基本となるストーリーだ。


 だがクラジャンはご存知の通り、MMORPGである。


 基本となるストーリーはあれど、仲間を増やしてワイワイやるのが目的だ。魔王が攻めてきて国が滅ぼされたりすることはない、なにしてんだ魔王。


 そしてストーリー序盤、チュートリアルに沿って主人公たちは冒険者ギルドに足を踏み入れる。


 ゲームの中でギルドはクエストを受けるだけの場所ではなく、仲間を増やす場所としても機能している。


 時間を空けるとランダムで募集リストが更新され、好きな才能を持つキャラを加入させることができる。


 ちなみに募集リストは、ガチャのようなものだ。


 序盤から終盤まで活躍する、明らかに強力な才能を持つキャラが存在する。


 特に「賢者けんじゃ魔法剣士まほうけんし錬金術師れんきんじゅつし」は大当たりだ。アカウントだけ作ってこの三才能が揃うまで始めないプレイヤーもいるくらい。


 そしてギルドで仲間を増やした後、いよいよ冒険開始。ダンジョンに潜ったり、クエストをこなしたりの大冒険が始まるという寸法だ。


(私は村娘として転生したけど、この世界で主人公って誕生してるのかな……?)


 主人公、すなわち勇者が旅を始めるのは、西にある旅立ちの村と呼ばれる場所だ。東のニコルからはだいぶ距離がある。


 だが現実にも勇者と聖女が誕生しているなら、二人のことはいつか耳にするだろう。一周目の攻略に彼らの才能は破格だからね。




 八時間が過ぎた頃、ようやくクソデカリュックがいっぱいになった。


 辺りは既に暗くなり始めている。湿地の方からは虫やカエルっぽい鳴き声が聞こえてくる。


 ……さすがに疲れた。現実世界でも丸一日の草むしりなんてしたことない。握力の使い過ぎで手には力が入らず、かがみ続けたのでスネと腰はガクガクである。


 なんとか震える足腰を立たせ、町に戻ろうと踏みだしたところで――ようやく致命的な問題に気付く。


(40kgって……重すぎるっ!!!)


 孤児院では食べさせてもらう代わりに、村の色々な仕事を手伝わされた。だから普通の女子より力はあると思うけど……さすがに無茶のある量だったかもしれない。


 だが時間をかけて集めた猛毒草だ、捨てて減らすなんて絶対にしたくない。


「この猛毒草っ……一束ひとたばたりとも捨てたりせんぞぉっ……!」


 私は執念でリュックを抱え上げ、足をプルプルと震わせながら帰路へ着くのであった。



***



 私がニコルに帰り着いたのは深夜だった。当然のごとく、冒険者ギルドは締まっている。


(仕方ない、今日はさすがに宿に泊まるかぁ)


 ガーネットに教えてもらった筋骨きんこつ隆々りゅうりゅうていに行き、空いていた一室を長期契約した。


 女性の安心できる宿といううたい文句は伊達だてじゃないのか、通路には鎧を着た女性の警備兵が立っている。


 私は頑丈な鍵のかかった部屋に入り――ベッドにそのまま飛び込んだ。


「はぁ~~~~、つっかれたあぁ~~~~……」


 丸一日草むしりをした後、40kgの荷物を持ち帰ったのだ。疲れてないはずがない。


(現実のクラジャンではアイテムの重さとか気にしなきゃいけないのか、めんどくさいなぁ……)


 ゲームではアイテムの重さなんて気にならない、薬草999個もエクスカリバー999本でも重さはゼロだ。


 それなのに重さや収納量を気にして、採集をたった八時間で切り上げなければならなくなった。これはあまりに理不尽というものだ。


 ――と、そこで私はとても重要なことを思い出してしまった。


「そういえば勇者と聖女が王様に謁見えっけんした時、なんでも入るバッグをもらってたよね……」


 名前は確か、マジックポーチ。


 かわいいデザインだからと聖女が身に着けていた、肩掛けタイプのポーチである。


 サイズはかなり小型でアイテムは無限に収納することができる、この世界ではおそらく魔道具マジックアイテムと呼ばれるものだろう。


 勇者と聖女の将来を見込んで、王様がタダでプレゼントした物だ。もしあれが複数存在するのであれば、なにがなんでも手に入れたい。


 そうすれば収納限界や重さに悩むことはない。十時間でも二十時間でも好きなだけアイテム収集をすることができる!


(よし、必ずマジックポーチを手に入れてやる……!)


 私はふかふかベッドの上でまどろみながら、新たな野望に胸を燃やすのであった。



―――――



 第一目標:自分のクランを立ち上げる(=冒険者ランクをBまで上げる)


 第二目標:マジックポーチを手に入れる


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