第5話 目標は自分のクランを作ること!

 朝。


 九時間の回収作業スティールアンドアウェイを終えた私は、朝日に目を細めながらステータスバーを開く。確認するのはもちろん獲得したアイテム量。



【所持アイテム】

 竜のウロコ×212

 竜のツメ×52


 薬草×2

 毒消草×1




(よしっ、これを売り払えばしばらくお金には困らないぞ!)


 私はウキウキ気分でニコルに舞い戻り、目についた買取屋に駆け込んだ。


「おじさんっ! 買取りをお願いしますっ!」

「おう、朝早くから元気だな。で、なにを買い取って欲しいんだ?」

「竜のウロコと、竜のツメです!」

「ほう? 竜の素材は希少だからどんなものでも大歓迎だ。じゃあカウンターの上に品を置いて見せてくれ」

「はいっ!」


 私は背負っていたクソデカリュックを、どすんとカウンターの上に乗せる。


「……これは?」

「ですからウロコとツメです!」

「おいおい、冗談はいかんよ。いくらなんでもこんなにたくさんの……って、ええええっ!?」


 リュックの中身を見た店主は寝ぼけ眼をかっ開き、すっとんきょうな声をあげた。


「ぜ、全部で何個あるんだ?」

「全部合わせて200個以上あります!」

「に、にひゃく!? ちょ、ちょっと待ってくれ。ウチに買い取るだけの現金が残ってたかな……」


 店の中に引っ込んでいた奥さんも出てきてくれて、二人はいそいそと検品作業をし始めた。


 検品には時間がかかるらしく、待っている間に近くの椅子を貸してもらった。が、座ったと同時に爆睡。


 そこで二時間くらいの睡眠をとった後、ウロコとツメの売却代金を受け取った。


 もらった額は――――全部で158万クリル、超大金だ。私は店主と奥さんにお礼を言い、買取屋を後にした。


 ちなみにこの世界に貨幣や紙幣は存在しない、互いのステータスバーを使って電子マネーを受け渡すような形になっている。アイテムを所持するためには袋が必要なのに、お金だけ完全デジタル化されてるなんて明らかにおかしい。


 が、ここはゲーム世界なのだ。便利ならそれに越したことはない。


(さて、昨日の朝からなにも食べてないし、そろそろゴハンにしようかな?)


 稼ぎに夢中で食事を忘れていた。どこかで軽食でも食べようかと考えていると、狙いすましたかのように甘い物を焦がしたような香りが漂ってきた。


 おいしそうなニオイはたちまち空腹を加速させる。気付けば煙を上げて鶏肉を焼く、露店の前にたどり着いていた。


「うわ~~~、めちゃめちゃ美味しそうっ!」

「嬢ちゃん、よかったら食ってきな! コカトリスの焼鳥、一本150クリルだ!」

「くださいっ!」


 受け取った焼鳥を頬張ると、甘じょっぱいタレの味が全身に染み渡る。もも肉のプリプリした触感もたまらない。気付けば五本も注文しており、お腹は幸せな重みで満たされた。


 食べ終わった後は近くの石段に腰かけて一休み。


(さて腹ごしらえもしたことだし、冒険者ギルドでクエストでも受注してこようかな?)


 ベビドラ先生のおかげでお金には当分困らないだろう。でもクエストを達成したわけではないので、冒険者ランクはFのままだ。


 クラジャンの世界に来た以上、私はクランが作りたい。そのためにはまず、冒険者ランクをBまで上げないと。




 ちなみにクランとは――生活種や戦闘種の才能持ちを、別けへだてなく集めて作る共同体だ。戦闘種だけで構成された、冒険者パーティーとは少し違う。


 冒険者パーティより所帯が大きくなることが多いため、結成するにはリーダー冒険者のランクがB以上という条件がある。


 この世界で私はクランが作りたい、MMORPGは交流してこそだ。


 それににも、信頼できる仲間や家族が欲しいという願いがある。その点でのやりたいことは共通している。


 クランとは大きな家族みたいなものだ。


 生活種の人は家を守り、戦闘種の人が戦いを有利に進められるような物を作って送り出す。戦闘種の人はクランの生活を支えるため、大きな報酬を求めて依頼クエストをこなしていく。


 実績を重ねたクランは国や貴族の援助を受け、土地を借りて村や町を興すこともある。つまりクランを持つと領地経営にも発展していくのだ。


 領地に専念するため剣を置くリーダーもいれば、経営を側近に任せてダンジョンに潜り続けるリーダーもいる。


 どちらにしろクランという大きな家族を築くことこそが、冒険者の社会的な成功であるともいえる。


 いまはまだFランク冒険者だけど、クエストをこなしていけばBランクまではたどり着けるだろう。


 だって私は十一回目の盗賊という、恵まれた環境に転生できたのだから!




 食後の休憩を終えた後、私は冒険者ギルドに張り出されているクエストを再チェック。


(う~ん。やっぱり討伐クエストより、高ランクの採集さいしゅうクエストの方が美味しいよねぇ……)


 討伐クエストは戦闘を前提としたクエストだ。こちらは命の危険があるため、自分の冒険者ランクより高いものは受けられない。


 だが採集さいしゅうクエストや捜索そうさくクエストは、自分のランクより二つ高いものまで受けられる。


 おまけに採集したアイテムは、ギルドで買い取ってくれるので集めた分だけお金になる。


 もちろん高ランクに設定されるような採集クエストには、別の危険も潜んでいるので注意が必要なのだが……


(エンカウントなしと装備だけ固めていけば、これを受けても大丈夫そうだよね?)


 そう考えた私は一枚の依頼書を剥がし、ギルドの受付に持っていく。もちろん並ぶのはガーネットのいる列だ。


「あら、リオさん。一日ぶりです!」

「はいっ、ガーネットさんに会いたくて来ちゃいました!」


 笑顔のガーネットにしっぽを振りながら、剥がしてきた依頼書を差し出した。だが依頼書を受け取ったガーネットは、困惑した表情で聞き返してきた。


「って、リオさん!? これDランクの猛毒草もうどくそう採集のクエストですよね?」

「はいっ! 誰も受けたがらず、報酬も良いのでぜひお受けしたいです!」

「確かに報酬は高いですけど……これってDクエストの中でもかなり危険なんですよっ!?」

「ですよねっ!」


 猛毒草は触れるだけで『猛毒』の状態異常になる危険な植物だ。採集も難しく流通量が少ないので、植物の中でも高値で取引されている。


 おまけに猛毒草の群生地ぐんせいちには、毒に強い強力な魔物が潜んでいる。そのため受けたがる人が非常に少ない。


 ゲームでもD冒険者にはクリアが難しいクエストだった。防毒装備をパーティー全員に装備させて、ようやくD相当というところである。


(でもエンカウントはしないし、お金に余裕もあるから防毒装備も揃えられる。いまの私からすれば逆においしいクエストなんだよね)


 勝利を確信しているので、受けることにはなんの躊躇ちゅうちょもない。だが事情を知らないガーネットは、私の身を案じて食い下がる。


「考え直しましょうよぉ。毒に強い魔物もたくさんいるし、無理ですってぇ……」

「大丈夫です! 盗賊の私は、逃げるのだけは得意なんですっ!」


 心配してくれるのは嬉しいけど、私だって引き下がれない。私はガーネットに自信満々の笑みで、大丈夫と言い続ける。


 そんな押し問答をくり返した末、折れたガーネットが一枚の書類を差し出してきた。


 ランク外クエスト受託じゅたく同意書どういしょ


 警告を受けたにもかかわらず、私は無謀むぼうにも挑戦しますとの覚書おぼえがきだ。ギルド側が無責任な依頼を勧めてないことの証明である。


「……ううっ、ちゃんと生きて帰ってきてくださいねぇ?」

「もちろんです。せっかくガーネットさんとお友達になれたんですから!」


 同意書にサインを終えた私は、笑顔で手を振ってガーネットに別れを告げる。


 そして近場の防具屋で防毒の装備をそろえると、北東にある猛毒草の群生地に向かうのだった。




―――――



☆現在のステータス☆


 名前:リオ

 第一才能:盗賊(レベル:1)

 残りスキルポイント:860

 所持クリル:158万クリル→154万7000クリル

 装備品(装備ランク):防毒のローブ(E)・防毒の手袋(E)・防毒のブーツ(E)・防毒のペンダント(E)・クソデカリュック(F)



 習得スキル:

・エンカウント率減少【LV:20】

・先制成功率上昇【LV:20】

・逃走成功率上昇【LV:20】

・盗む成功率上昇【LV:20】


・常時ダッシュ【LV:5】

・観察眼



 所持アイテム:


・薬草×2

・毒消草×10(9個追加購入・念のため)

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