第3話 ニコルの町と、冒険者ギルド

「おぉーーーっ! ここが本物のニコルかぁ!」


 石造りの建物が並ぶ町、ニコル。


 スタンテイシア王国の東にあるこの町は、隣国と国境に面する交易の盛んな場所である。


 荷車や馬車がたくさん止まっており、その場であきないをしてる者もいる。限界集落から出てきた私は、賑やかな雰囲気に当てられワクワクが止まらない。


「と、まずは冒険者ギルドに行ってライセンスをもらってこようかな?」


 私は近くの人に道を尋ねようと、通行人の男性に話しかける。


「すみませーん、ちょっといいですか?」


 ……返事がない。ただのおじさんのようだ。


(いやいや、この距離で気付かないとかありえないでしょ!)


 無視するにはあまりにも態度が自然過ぎる、本当に気付かなかったのだろうか? もう一度、大きな声で話しかけてみる。


「す・み・ま・せーん! ちょぉっと聞いていいですかぁーーーっ!?」

「………………うわっ、なんだ!? ビックリしたな!?」


 話しかけた男性はワンテンポ遅れ、こちらの問いかけに反応した。まるでようやく私の姿に気が付いた、とでもいうように。


(あれっ、もしかしてこれってエンカウントなしの効果じゃない?)


 もしかしたらこのスキルは人間にも効果がある……のかも?


「で、嬢ちゃん。いったい俺になんの用なんだ?」

「あっ、驚かせてしまってごめんなさい。実は冒険者ギルドの場所を聞きたくて」

「冒険者ギルド? それならそこの大通りに入って、三つ先のかどを曲がった先にあるぜ」

「わかりました、ご親切にありがとうございます!」


 男性と別れてギルドに向かう途中、何度か『エンカウントなし』状態で通行人に手を振ってみた。


 結果は予想通り、誰も私に視線をくれることもなかった。


 通行人の道を塞いだりもしてみたが、ぶつかってようやく気付くという有り様だった。


 やはりエンカウントなしはヒトにも有効のようだ。この気づきは後々、なにかの役に立つかもしれない……!



 検証も済んだので案内された道を歩いていくと、大きな屋敷のような建物が見えてきた。近くで雑談する人々もしっかりした武器や防具を身に着けている、どうやらここが冒険者ギルドのようだ。


 中に入るとゲーム上でよく見た、冒険者ギルドの風景が広がっていた。


 制服を着た受付嬢とカウンター、待合席にたむろするガラの悪そうな冒険者。私はそれらを一人のキャラクター視点から眺めている。


(うわぁ、やっぱり現実の光景として見ると違うなぁ! ていうか受付嬢もみんな可愛い!)


 受付嬢たちをキラキラした目で眺めていると、続けて入ってきた冒険者にぶつかってしまった。


「おい、嬢ちゃん。入り口前で立ってねえで、並ぶか出てくかしてくれや」

「あっ、はい。すいません……」


 私はバンダナを巻いた冒険者に謝り、カウンターの順番待ちに加わった。それから待つこと十分ほど、最前列にやって来た私にメガネの受付嬢が優しく微笑んでくれた。


「冒険者ギルド、ニコル支部へようこそ! 本日はどんな御用ですか?」

「わっ、すごい可愛いお姉さんだ!」

「うふふ、ありがとうございますっ」


 ウザ絡みにも完璧に対応、可愛らしい笑顔まで返してくれた。私はその愛嬌のある姿に一秒もかからずファンになってしまった。


「ところで今日はどういったご用件でしょうか?」

「あ、えっと、実はですね。今日は冒険者ライセンスの発行をお願いしたくて……」

「ライセンス発行ですね、かしこまりました! 市民証明などを提示いただければ、ライセンスにも記述しておけますがお持ちですか?」

「ないです! 市民権どころか家も家族も友達もいない、天涯てんがい孤独こどくの身ですっ!」

「あらら、大変。では私がお友達になってあげますね」

「やったーーー!」


 なななんと、ファンの垣根かきねを越えて友達にまで昇格してしまった。


 これはファンとして逸脱いつだつした行為ではないだろうか、他のファンの嫉妬を買って石を投げられたりしないだろうか? そんなどうでもいい心配をしていると、青い水晶がカウンターの上に準備された。


「これは『投影の水晶』と呼ばれる魔道具マジックアイテムです。名前と才能を鑑定しますので、こちらに手をかざしていただけますか?」

「はいっ!」


 私は言われた通りに水晶の上に手をかざす。すると鏡文字となったステータスバーが受付嬢向きに表示された。


「レベル1の盗賊、お名前はリオさん。お間違えないですか?」

「間違いないです」

「ではこちらの書類に名前と才能を記入してください。ご自分で文字を書くことはできますか?」

「はいっ!」


 この世界の識字率しきじりつはそこまで高くない。だが孤児院を出た後に備えて、が勉強を済ませてくれている。


 さらさらと必要事項を記入する中で才能欄に、第二才能・第三才能という項目が目に入る。


(そっか、運がいい人は最初から複数才能を持つことができるんだよね)


 複数才能持ちは『覚醒の儀』で同時に複数さずかるか、後天的に自然覚醒するかのどちらかだ。


 才能は多ければ多いほど有利だ。だがレベルは才能ごとに独立しているので、すべてを同時に育てようとすると結構大変だ。もちろん一人三役をこなせると考えれば、最終的には恩恵のほうが大きい。


 この世界では自然覚醒はめずらしいことのように扱われているが、それはみんなが方法を知らないだけ。


 ゲーム知識を持ってきた私には、意図的に才能を自然覚醒させる方法を知っている。


 ……とはいえ、レベル1の私にはしばらく無関係な話。第一才能欄に盗賊とだけ記入し、書類を受付嬢にお返しした。


「では冒険者ライセンスをお渡しします。今日からリオさんはFランク冒険者となりました」

「お手続きありがとうございます!」

「それとリオさんは天涯孤独とのことでしたが、冒険者パーティーを組まれる予定はありますか? なければ募集をかけることもできますが……」

「とりあえずは大丈夫です」

「かけなくてよろしいのですか? さすがにレベル1の盗賊さんだと、ソロでクリアできるクエストは少ないと思いますが……」

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です!」


 レベル1の盗賊が募集をかけても、仲間にしたいと思う人はいないだろう。


 スティールアンドアウェイがあれば戦闘に苦労することもない。もちろん力はないから、しばらく討伐クエストに挑戦はできないんだけど。


「かしこまりました。受けられる依頼クエストは掲示板に張り出しているので、そちらを確認してくださいね」

「はいっ!」

「最後になにか聞いておきたいことはありませんか?」

「お姉さんの名前を教えてくださいっ!」

「ふふっ、私の名前はガーネットです」

「メガネをかけた、メガーネットさんですね、覚えました!」

「メガーネットじゃありませんよぉ~っ!」


 ><な表情でガーネットがツッコミを入れてくれる。


 なんて可愛らしいお姉さんなんだ、結婚したい。ガーネットをめとるためにもたくさんお金を稼がないと。


 私はそんなおバカなことを考えつつ、依頼書の張り出されている掲示板へと向かったのであった。




―――――



 この世界では大体がアルファベットでランク付けされてます。冒険者ランク・クエストランク・ダンジョンランク・魔物ランク・装備ランク・魔法ランク……など


 Fが最低でAに近づくにつれて優秀・強力になり、その上にはSランクもあるようです!

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