《ステップ3》現国王を看取る
「おや、ここに居ましたか、キール」
「……っ、は。ここに。大司教様」
彼は怯えた様子で、私に会釈した。
心細かっただろう、外からずっと金属音と悲鳴が鳴り止まないのだもの。
だけれど君の地獄もこれで終わる。尤も、別のが始まる気もするけれど。
「急ぎで馬車を用意してくれますか?死体を太陽山経運ばなければならないのですよ」
「……今から、ですか。それに太陽山…?」
「はい。直ぐにでもお願いします。日が明ける前に」
「了解……しました」
キールと呼ばれていた司祭の男子は、10階バルコニーの横にあった休憩室みたいな場所から出ていく。
なんなんだこの部屋本当に、スペース無駄遣いしすぎだろ
「っく、ぁあ〜〜……眠。てかこの喋り方ダルすぎ、シラフで出来てる奴人間じゃねぇよ」
とか言いながら人間じゃなさそうなやつはバルコニーに戻ってリムちゃん達と合流しに行きます。
^^^^^^^^^^
薄暗い光の中、私達は馬車に乗ってケルオム神国を出ていた。がらがら言う音と鳥の鳴き声が耳につく。うっさい。
最低限、誰かに見つかった時様に死体(死んでない)は椅子に座らせている。って言う体で座らせた。
実際外傷は無いし、パッと見死体だと気づくこともないだろうな。死体じゃないけど
んでまぁ、私はルダーのガワ被りながら馬車内に居るんだけど……。
まぁ地獄の空気だよ。誰も喋らないし全体的に死んだ目してるしさ。
馬車も山道を登り始めて乗り心地最悪。朝だから寒いしさ。
不平不満も出ますよそりゃあだって私さっき死闘繰り広げたばっかなんだよ!?
なんか、褒めてよ誰かさぁ!!
憤りは口を衝かず心の中に留めておいて、雰囲気を壊さないようにしておく。別に私は空気読めないわけじゃないんだ。多分。
暇だなぁ、外の景色ずっと変わんないし、中の景色もずっと変わんない。
……元いた場所だと、こういう暇な時に何してたんだっけ。
突然、ガタンゴトンと揺れる筒の中に座っている気がした。
細長い座席と、無数の人達。
揺れる吊革、車体。混ざりあった機械と人の匂い。
パッと瞬きすれば、それは最初からなかったみたいに消えて、つまらない馬車に戻っていた。
今のは……?
と、考えようとした所で馬車が止まった。山頂まで来たらしい。
御者が扉を叩き、ルダーの名前を呼んだ。
「こんな時間期ありがとうございました。貴方の信心はきっと、ノービス様に伝わります」
気持ちわりぃ台詞を吐いて、私は死体を運び出す。
「い、いえ……信仰の為、ですから」
御者は気まずそうに帽子を深く被った。余っ程ルダーは怖がられているらしいな。
「お疲れ様です。もうケルオムに戻っても良いですよ」
「?で、ですがそれでは」
「いいえ、それで良いのですよ」
「では、その様に…」
死体を両腕に抱えた私を見送り、馬車は去っていった。
山だし朝だしてっぺんだし、流石に冷えてくるな。息を吐くと、寒暖差による白い水蒸気が現れる。
空はすっかり白く染まり、もう少しで夜明けを感じられるだろう。遠くの山から小さく光が漏れていた。
頂上は簡素なもので切り出した石の塊がぽつりと置かれているだけだった。
「…もう、良いですね、死体の振りは」
左に担いだ死体が首を上げた
「あ、あれ死体の振りだったんだ」
「出なければあぁする必要も無いでしょう」
リムは私の腕から滑り落ち、右に担いだ死体をひったくる。
「お父様、着きましたよ……お墓、だったんですね」
リムは切り出した石に書かれたへにょへにょの字を見ながら、そう言った。返答はなかった。
ゆっくりと墓の前に寝かせ、首を遠くの山へと向けてやる。
つられて私もそっちを見る。
そこには、ゆるりゆるりと、朝日が昇って居た
「正しく太陽山、って感じ。すっごく綺麗に見える」
「……っ、そう、ですね」
リムに抱えられた物は既に動かなくなっていた。
そこに幾つか雫が垂れている。
「私は…っ、答えを、知れました……」
「お父様は……ッ、私を…愛していた……!」
よく見ると、切り出された墓石には、三つの文字が書かれている。
直接的には読めないけれど、何となく何が書いてるかは解ってしまった。
今の私に出来ることは、泣きじゃくるリムの背中を支えてやるくらいだった
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