化け物の使い方

淡い聖剣の光が、眼窩の洞に突き刺さり、蝕む呪いを吸収し、消滅させる。

何処までも続くような呪いの塊は薄れ、聖剣が眼窩に突き返された。


気がつけば、苛む声は止み、ここに居るのはただ一人私だけだ。

痛みも無くなり、私の下に転がるキャドルの死体が冷えてくる。


「…行かないと」


すっかり色褪せた聖剣を手に、私は階段を昇っていく_


╬╬╬╬╬╬╬╬


息を切らせながら、私は10階の露台へと辿り着く。

月は隠れ、少し空が白んでいた。


物色するように辺りを歩くと、足につまづく柔らかいものがあった。

暗いはずなのに何故か白黒だと解る様なそれがそこにあった。


「……生きていますか」


少し揺さぶってみると、ピクリと反応した後に口を開く。


「お、おぉ?生きてる」

「なら安心です……ルダーは」

「多分……そこ、すっかり伸びてるよ」


彼の指し示す方向に向かうと、真二つになったルダーだったものが居た。歪な羽根や骨格は、最早どうしたらこうなるのかはわからない。

そもそも何故羽が……?


彼の断面に気になるものが落ちていた。

白い球体であり、一部に青い丸と、その中には白の十字が描かれている様な


「…!」


間違いなくそれは私の眼球である。

鏡や、水に反射した時に見つめたそれと全く同じであった。


そして今


それと目が合った。

私の両の瞳が、瞳同士が目を合わせたんだ。

ふと、左目を手で隠した。

それでも見えた。


左目を隠す私が目に映った


╬╬╬╬╬^^^^^


失った気を取り戻してたら今度はリムちゃんが固まってる。

……取り敢えず立つか、よっせ、と。


「どうしたのそんな所でフリーズして、ゴルゴンと目でもあったの?」

「当たらずと言えども遠からず……」

「……えぇ?」


リムの視線の方向へ目をやると、そこにはくり抜かれてたリムちゃんの目がころんと落ちていた。

なるほどこれか。

そう言えばリムちゃん、目が今空っぽだな、可哀想に。

よーしこうしてあげよう。


私は落ちた目を拾い上げて、


「え、あの何して」


リムの空いてる方にぶち込む


「そい」

「あがぉ…っ、ぐお……」


リムは何度かお目目をぱちくりして、感覚を確かめている。

以外と何事も起こらなさそうだ。面白くない。


「感染症……腐敗……?」

「今は取り敢えずそれで、こんなことよりやることがあるでしょうが」


私は王様の方へ指を指す。戦闘前から変わらず、王様はそこに静かに寝転んだままだ。

彼女は驚いた様子で、慌てて駆けて行く。


^^^^^╬╬╬╬╬


「っ!、お父様」


お父様の身体には黒い斑点が大きなアザの様に広がっており、目に見えて呪いの進行が進んでいることが分かる。

ゆっくり目が開いた。目の中にまで、黒いアザが着いている。


「……リム、か」

「お父様……あぁ、……。…」


吐き出してしまいそうな程淀んだ息を飲み込み、お父様の手を握った。もう力は入っていない。


上手く感情が出せない。焦りとどうしようもない倦怠感に押し潰されそうだ。

最期に話すことを思い浮かべようとしても、頭が最後を否定する。時間が無いことは解っている。解っている……のに


「お、父様……何か、何かしてあげられる事はありますか?出来ることならなんだって……っ」


お父様は少し考えた後に、ぽつりと一言だけ零した


「太陽山の、頂上に行きたい」


「太陽山…ですか?」


こくりと頷く。禁足地の裏にある太陽山は、今から行くにはとても遠く、お父様の命が持つかすらも危うい。

せめて馬車か何かが出せれば、可能性はあるかもしれないのだが……ってな顔してるねぇ」


「貴方……は、ルダー?ではありませんね」


目の前にはルダーと瓜二つの姿の彼が居た。

一体なんのつもりでそれに化けたのか、それを尋ねる前に彼は行ってしまった


「攻めて骨を埋める所くらいは選ばせてやんないとね」


手を振ってバルコニーから出ていった彼を、私はお父様の手を握り見ているだけだった

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