《ステップ2》跡取りを抹消する

攻防一体。ごぶごぶ。

そんな聞きのいい言葉を並べて取り繕えば、悪くない状況だと思う。

だけど、当事者になると話は変わってきて。

撃たれた肩はまーだじくじく行ってるし

足撃たれたせいで無理すると転びそうになる。


長く続けていけば劣勢って言うのは、身体が零れていってるあいつも一緒だと思いたいな。


さっき思いついた身代わりの願い。

要するに”スケープゴート”みたいなもの。

詳しく説明するのは難しいけど、私が持ってる物は地面とか、他の物に触るまでは変化の対象って判定らしい。


それを利用して、何か私に加害が飛んできた時に物を投げて、投げた物を”私”なのだと、加害者とこの世界を誤認させる事でそっちに飛んでいってる……気がする。


実際の事はわからない。やってみたら出来ただけだし。

ただ、それが本当だとすれば、使う度にやたら消耗するのも納得がいく。


て言うか、こんなチートじみた変なことしてやっと互角ってなんなんだよどんなバケモンなんだよ人の事言えねぇよ私も


とにかく今は集中しないと、既に擦り傷かすり傷は無数に増えていて、ワンピースの裾も少し短くなっている。

青い空に照らされていて色はよく分からないけど、土埃や私の体液で汚くなってるんだろうな。


だけど、それも私だけじゃない。小さな切り傷が隠せなくなってきてるのは相手も同じだ。

まともに入った時に限って起こる自己回復する赤い光も、もう使おうとはしていない。


私達は一度距離を取り、呼吸を整えた

既に月は傾いている。


「いい加減さぁ…っ、お前も疲れてきただろ。私だってヘトヘトだよ」


その言葉に返答する言葉は小さな唸り声だけだった。

最早彼は人間性も失ってるんだ。


彼は右手に持つ変異した銃を、くたびれた私へ乱射する。

弾丸はおよそ8発程か、殆どは弾幕を張るようにして、私の退路を塞ぎ、最後の1発を私のドタマ目掛けて飛ばしてくる。



__使えるのもこれで最後か。

私は鞄の中から適当な物を取り出して、上空へと投じた。

私へと跳ぶ凶弾へ指を指し、指した指を上空へ、投げた物へと掲げた。

狙った獲物は此処に立つ私ではなく、放り上げたそれだと認識を誤認させる。

パッと目を開けば、既に跳んでいた軌跡から、それは空から落ち行く物体へ飛んでいくものと、世界が塗り変わっていた。


ガラスの割れる音が聞こえる。残ってたものにガラスなんてあったか……?

少し間が空いて、私にびちゃびちゃ謎の液体が掛かる。それと同時に割れたガラス片と、そこに貼られていたのかラベルが一つ。目の前に落ちたラベルは十字が描かれていた。


ぴりぴりする熱が浸透していく……これ、もしかしてさ。



残ってた回復瓶じゃないの?


あ、凄い力みなぎってくる。さっきまでの疲労と不快感は何処に……殆ど万全なんだけど。これもしかしてめちゃめちゃ高い代物なんじゃないの?


私は大鎌を構え直し、大司教へ向かってこう言った。




「け、計算どぉーりっ!!」




自我も人間性も失ったはずなのに、何処か冷めた目線を感じた。悲しくなった。



そんなメンタルエイクを誤魔化すように、私は大鎌を堕ちた大司教へと投げつける。

彼はその鎌を腕で受けた。切断するには至らないが、受けの姿勢は確実な傷を増やしていく。


あの黒い鎌、どうやら投げたら絶対に当たるみたい。

彼は最初の方、普通に避けようと尽力していたが、横を通り過ぎた鎌が大回りに帰ってきて死角から刺さったりした。

尤も、彼自体学習しない訳では無く、今のように受ける形になってしまった訳だけど…。


小さくダメージが入る分、引っこ抜くまで丸腰になってしまうのがたまに傷。さっきまでのジリ貧状態なら、そこに付け込まれて一瞬でお陀仏だっただろうけど、今は違う。


投げた鎌に追いつくように同時に走り出し、突き刺さった鎌に右足で蹴りを入れ、更に傷を深く。

それだけでは切断には僅かに足りず、大きく腕を振り回し私を払おうとして来た。


そんなに暴れるなら使わなきゃ損でしょ。

私は大鎌の柄に捕まり、揺れに合わせて反動を作り、最高点のタイミングで大きく鎌を振り抜いた。


飛び散る血液と共に、ごとりと腕が落ちた。

すかさずもう一発、胴体を軽く切りつけ、柄で足払いを掛ける。

うっわこいつ体幹強い。転ばない事がわかったので、柄の部分を支点にアクロバットでも決める様に頭に踵を落とした。

その反動を利用し、もう一度鎌を一文字に振り被った。


『ゥアアァァア……ァァ゛ア゛ア゛ア゛!!!』

「おいおい、回復なんて常套手段、お前だってしただろ?これでやっとお相子だよ」


被った鎌は残った腕で防がれ、跳ね返すように上空へと飛ばされた。


「えっ…うっそマジ」


その隙を見逃さず、堕ちた大司教は懐から何やら橙の入った瓶を懐から取り出す。


……マグもどじゃねぇかあれ。


大司教は瓶の蓋を飲み口ごと粉砕しその液体を__


___なんだかすっごく嫌な予感がした。

あのマグもどは触れたら最後、岩は爆ぜるし骨は爆ぜるし剣と鞄は無事だったけど…とにかく、あのままにしてたら嫌な事だけは何となくビビッと伝わった。


反射的に動いた私の手はバッグから物を取り出すことすらせずに、バッグそのものを瓶に投げつける。

驚いたか衝撃か、どちらかはわからないが、手放させる事に成功した。


投げたバッグと一緒に走り出した私は、落としかけた瓶を上に蹴り上げる。零れたマグもどが足元に掛かって生暖かい。


蹴飛ばした瓶は落ちてくる鎌と交差する。

1瓶丸ごとマグもどを被った鎌は妖しく輝いて見えた。


黒紫の彗星の様な鎌は自由落下している。

大司教はそれに合わせ、回避行動をとった事だろう。


はは、もう一つ閃いた。飛んでくる物に私を誤認させて対象をブレされることが出来るなら、さ。


自分の意識を内側から外側に、視点を自分から世界に切り替えていった。

他人に私をどう見せたいか、世界から見た私をどう映したいか。


口が三日月のように広がる。口角が上がる。




私はお前になるよ、大司教。




そのまま私は落ちてくる黒紫の大鎌を受け入れた。





身代わりスケープゴート




大鎌は、大司教へと堕ちていった





高笑いがこだまする


_____

「なんか投げて走って蹴ってばっかだな私」


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