忘れ物
馬鹿みたいに長い階段を降りて、辿り着いたのは光が殆ど届かない堀の底。
全体的に黒い染みみたいなものが壁にびっしりしてて、街中の路地みたいな汚さ。
そこを私達はランプをつけながら歩き回っている。なんだか内側から毒されていってるような錯覚を覚える。正直早めに帰りたい。
「ルダーの呪いの源がここにある筈……」
「あ、聖剣担げばマシかな」
「何を……?」
鞄から例の聖剣を取り出すと、眩い光が辺りの黒い染みを無くすと同時にすんごい勢いで光が弱まっていってるんだけどこれどういう事!?」
「こびりついているのが厄と呼ばれる物であり、聖剣の光がそれを吸収、対消滅させているのでしょうか。……しかし、聖剣にそんな効果があったとは」
「い、一旦閉まっておこう!日からなくなったら困る!」
「先日ランプを買っておいて正解でしたね」
「まさか電池切れとはな……」
ぼんやりした明かりだけを頼りに進んでいくと、黒い染みが大きく広がった場所に出た。あんまりにも多いから踏んでいくしか無くて、靴底がべちゃべちゃ音を立てる。
雨が上がったあとの泥濘とか、飲食店の路地裏にある油汚れみたいな……とにかく中々に気分が悪い。
「良いよな、お前はずっと担がれててっ」
「……心中お察しします」
ムッとしながら行くと、道端に人影があった。
160くらいの背丈で、ふらふらしてるけど確実に歩いているような。
「……人?こんな所に?」
「近づいて見ましょうか、警戒は怠らず。武器があればそれを」
「聖剣使えないしなぁ……我が鍛え抜かれた肉体でいいか」
「ぷにぷにでしょう」
「うっさい」
ゆっくりとそれに近づいていく。
ランプの光に照らされ、ぼんやりと面影が見えてきた。
赤黒く濁ったドレス。
半端に濁ったブロンド。
体の一部が溶け落ちたような要望のそれは、最早人としての原型を留めてはいなかった。
「……ゾンビ」
「あれは……っ、キャドル……なんですか」
「キャドル?誰だっけ」
「ルダーの妻です……およそ十数年前、私が幼かった頃に国家反逆罪の汚名を着せられ、堀に身を投げたと読みました」
「なんてもの読んでるの…って、なんで10年も前に死んだ人がこんな所に」
などと会話していても、件のキャドルは此方に気が付かない
「聴覚が…いえ、視覚までもが無くなっている?」
「あー暫く情報整理タイムだ。一旦安全な場所まで避難しまーす」
担いだまんま、私達は取り敢えず入口まで戻って行った。
^^^^^^^
「……死霊術は思念の力、と、申し上げましたね」
「あ、終わった。言ってたねぇ、呪いがどうたらって」
「もしも、現世への未練と、誰かへの執着があった時……人間性を捨ててでも生きたいと願えば、死霊術はそれを叶えてくれるのでしょうか」
「実際……なんだっけ、死後呪い?なんてものがある辺り、一番呪いを吹き出すのは死ぬ間際なんだろうね。丁度呪いの溜まり場だったここに落ちて、自分が触媒になれば、着いてくるものは憑いてくるんじゃないかな」
長い階段を登りながらそんな話をしている。
リムはなんだか元気なさそうに項垂れていた
「彼が操る呪いの原本はキャドル本人なのでしょう。尤も、本人はそれを知りませんが」
「要するに、怖気て死体を見に来ることも弔うことも出来なかったからあぁなったってこと?」
「可能性は高いでしょうね」
「夫婦揃って空回りしてるわ」
「そして、ルダーが息絶えた時、キャドルを中心としてこの堀全体が国中見境無く呪いを振りまくことになります。この量であれば死んでしまうのも一人や二人では済みません……」
そこで、流石にこの世界数日目の私だって気がついた。
「てことは、早めにキャドル殺してやれば勝ちじゃない?」
「……そう、なりますね」
「じゃあ早速殺りに行くか」
「いえ、っ待って下さい」
後ろ髪を引かれ、踵を返した足をその場に留める
「どうしたのさ、念願の為だろう?」
「ここまで1人を思い続けて、命だけは永らえてきたんです……再会させずに、私達の事情で殺してしまうのは」
「じゃあどうやってルダーを止めるのさ。あいつに目標があるように私達だってやらなきゃならないことがあるだろ」
「それ、は……」
泣きそうな顔になって口を噤んでしまった。
別に私は虐めるつもり無いんだけどな、たーだ願いを叶えようとしてるだけで
「……上階に上がるまでに方法は考えます。ですから今は…」
「ふーん、まぁ良いけど」
別に信念が揺らいだとかじゃなく、ただ単に人情のそれが邪魔しているんだろう。
何も方法がそれだけだと決まった訳でもないから、少しだけ彼女を信用して待ってみる。
だけど
「方法が無くなった時は自分でやりなよ。少なくとも私が手を下す機会を奪ったんだから」
彼女は肩に顔を伏せ、小さく頷いた
_________
[リムのレポート]
・死後呪いの範囲
〈死後呪い/しごまじない/とは、死霊術における最も一般的な呪いである。死後に自ら生まれる呪いの対象を生前に確立することによって、膨大な思念を形にすること。要は怨念の類である〉
範囲は城を中心とした無作為な民衆達だった。
・ルダーの目的は?
国の掌握とは考え難く、何か別の、それも感情的な何かであると推察される。
追記、見つけた。深い矛盾した執念の塊だ。仮説が正しければ、これは、誰も幸せになれない物だ。
彼は目的を見失った。彼を止めなくては
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