5分で分かる!国家を転覆させる方法
5分で分かる!国家を転覆させる方法
《ステップ1》
王女を拉致する。
〈point〉
屋外で迷子になってるところにつけ込むとやりやすいぞ!出来るだけ恩を売ろう!
悩み事を聞いてあげるのも効果的だゾ☆
《ステップ2》
跡取りを抹消する。
_______
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「こ、こちらです。殿下」
「あぁ、世話を掛けたな、司祭」
「いえ……こちらこそ、お世話になりました」
「……」
老体を引き連れた若い男は足早に去っていく。
10階バルコニー。
フラフラとした足取りで、王様は男の元へと向かった。
生垣の中心には、大きな魔法陣と、その中心に立つ男。
長くぼさっとした印象の白髪。それを引き立たせるような黒の修道服。十字架のネックレスは反転し、モノクルが月明かりに反射する。
ルダー大司教の姿がそこにあった。
「お待ちしていましたよ、殿下」
「……あぁ」
「すっかりと元気を取り戻されて、わたくしは感激でございます」
死んだ瞳と痩せこけた体付き。
極めて衰弱している、と100人居れば100人がそう答えるだろう。
「此方へ来ていただけますか?」
「……」
「病み上がりではお辛いでしょう。どうぞ横になって下さい」
もはや否定や疑問すらも無意味だと感じたのだろう。王は大司教に導かれ、そこへ横たわる。
時刻は12。世界の頭上には、まるで私達を見下ろすような大きな青い三日月が昇っていた。
儀式を進める彼を横目に、儂は何を考えていたのだろうか。
身体を蝕む無数の呪いに、思考と思念を食い荒らされ、人間性を失った儂は何なのだろうか。
名前と自我が託されれば、そこに意思が無くてもそれは生命と呼べるのか。
ノービス様からは万物に生命が宿ると教えられた。その言葉に虚実は無いだろう。
だから儂は生きている…儂は……私は
^
「…今です」
王様へ手を掛ける瞬間、私達は主犯へと駆け出した。
今の一瞬だけ、呪いが空へと向かっていく。
だからこそ、ここを逃してしまえば、真っ当な手段は無くなってしまう。
私は近付き様に鞄から聖剣を取り出した。
刀身の光は何時しか少し弱まり、くらいバルコニーをぼんやりと照らす。
残り数m。聖剣を大きく振り被った時。
主犯が私の方へと目を向けた。一切合わない焦点で私を見る。
手に持ったそれは間違いなく__
__銃だった
「っ避けてッ!!!」
遠くからそんな声が聴こえた。
いや、近かった筈なんだ。それは近くで聴こえていた。
身体が飛ぶ感覚がした、声は遠ざかって行った。
床に跳ねた。遅れて右肩に鈍い痛みを感じた。
手で抑えると、そこから黒い、濁った、生暖かい、ドロっとした液体が零れていた。
遠くにリムが見える。大司教のすぐ側に
「付け焼き刃でしたが……うっすらとですが、存外見えるものですね」
大司教はモノクルを捨て、リムの胸倉を掴む。
「離し…てっ」
「貴女の瞳の事はよく知っていますよ。連れて来てくれてありがとうございます。故も知らぬ者よ」
私は直ぐにリムの元へと駆け出した。痛む身体に鞭を打ち、床を蹴って走り出した。
大司教はもう一度、私へと銃を向け、引き金を引いた。
バン、乾いた音が開けたこの場所で響いていく。
弾丸は脇腹を掠め、酷い擦り傷が私の黒い液を滲ませた。
「血なのか何かはわかりませんが、落ちている場所があるならば特定は容易い。少しじっとしていて下さい。邪魔さえしなければ危害は加えませんよ」
「悪いけど…そうは行かないんだよね、そんな契約だからさ」
「ふむ……でしたら手早く済ませましょう。時間が押しています」
彼はリムの瞼に指を合わせ、そのまま__
「…や、め……っ」
目の中に指を滑り込ませ、眼球をくり抜いた。
「嫌ッ、……あ、あぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
筋繊維の千切られる音と、リムの絶叫がこだましていく。
くり抜かれた眼窩からは夥しい量の血液と、白い線が流れている。
「……お前は、何を」
次に、自らの目をくり抜いた主犯は、リムの瞳を空いた自分の眼窩へと嵌め込んだ。
何度か瞬きしたあと、ぐるりと私の方へと目を向ける。
今度は目が合った
「あ、ははは。そんな姿だったのですね。それにその剣……」
「チッ……キメェことしやがって」
「貴方が邪魔をするなら、私は貴方と戦わなければいけないのですよね?」
「たりめぇだろ、一応この国の為」
「成程、そうですか。ではもうこれは必要ありませんね」
左手に持つ叫んで喉を潰したリムを空へと投げ飛ばし、銃を放つ。
「ァ、……ァア……が……」
二度吹き飛んだリムは言い知れぬ叫び声と共にバルコニーの下へと落ちていった。
数秒経った後、大きな金属音が何度もバウンドするように下から聞こえた。
「……もう良い、誰かの為とか国の為だとかそう言う言い訳はしない」
聖剣を左手に持ち、大司教へと構えた
「私は私が殺したいと思ったからお前を殺す」
「良いでしょう。わたくしも、わたくしの為に貴方と戦います」
戦いの火蓋は切って落とされた。
私は使えなくなった右手を無視しながら、聖剣を構えて大司教へ肉薄した。
放たれた弾丸は、流石に三度目ともなると着弾地点が何となくわかる。
聖剣で着弾地をガードしつつ、視界の内側まで潜り込む。
中段に大きく、聖剣を振り抜くが、懐に持っていた稲妻の様な形の短剣に防がれる。
「剣の使い方が上手なのですね、何処かで習ったのですか?」
「知らね、気がついたら覚えてた」
「あぁ。通りで直観的な振りざまだ」
「貶してなーい?」
防いだ拍子に腹に蹴りを入れられ、少し吹き飛ぶ。
その隙をついてあいつは右手に持ったフリントロック式ピストルのような物を連射してくる。連射するもんじゃねぇだろあれ!
「あっぶね……っ!」
横に転がるようにして避けた、そのせいで更に距離が開く。
さらに距離をとるようにして、大司教は遠くへ歩いていった
「どちらにせよ、今のわたくしを殺してしまえばどうなるかわかったものではありませんが……それでも戦います?」
「こんな化け物でも守らなきゃなんない物ってもんがあんのよ」
「あら、それはもしかしてこれの事でしょうか?」
彼は魔法陣に横たわる王様へと手を添える
「チッ、大当たりだっての……ッ!」
私は再度、聖剣を振り被って大司教へと向かうが
「同じ事を、学習力が無いのでしょうか?」
大司教は先程と同じく私へ銃を放った。
とうとう衝撃に耐え兼ね、聖剣は手元を外れた。
隙を見た大司教は私の足へ一発、楔のように撃ちつけ、
跳んだ聖剣へと弾丸は放たれ、バルコニーの下へと落とす
「レイ以外が使ったところで、紙も切れない筈ですが……ご存知ではありませんでしたか?」
「切れなくったって、色々便利なんだよ…、あれ」
「おや、聖剣をランプ代わりとは、面白い使い方をするのですね」
大司教は王様へと何かをしていた。黒い斑点は大きくなり、月の明かりがいっそう強くなる。
「はぁ…っ、お前……結局何がしたいんだよ、リムを殺して私を殺して王様を殺して……その先に、何があるんだ」
「……?さぁ、それはやってみないと分からないでしょう?」
「ははっ…そう言うと思った」
息が切れる。変化で無理やり風穴を塞ぎ、その場に立ち上がった
「お前、嫁さん居たんだってな」
「えぇ。それはそれは美しい。わたくしには勿体ないほどの。10年前にには死んでしまいましたけれど」
「お前は…それを確認したのか?」
「確認?」
私は鞄の中を漁る
「きちんと嫁さんの死に際見届けたのかって聞いてんだよ」
「……それが今何か関係があるのでしょうか」
「リムから聞いたよ。免罪かけられて堀に落とされたって」
「……余り無駄な言葉を介すようであれば止めを刺します」
「死霊術なんてふざけたもんに狂わせられてんじゃねぇぞルダー!!てめぇの目的も忘れて人様に迷惑かけてんじゃねェ!!!」
「戯言をッ!!」
ルダーは丸腰の私へ弾丸を五発放った。
「一個、閃いたことがあった」
一発目、狙いが定まらず立っていれば当たらない
「死霊術が思念の力で発生するなら、少なからず物を思う気持ちは、何かしらの力が発生するんだ」
二発目、頬を掠る。大した損傷は無い
「だったら、生きたいと願っていれば、どれだけ絶望的な状況でも生きる方向に力が発生するもんなんだと」
三発目、頭と肩の間を通る。髪が弾け、風圧で靡く
「生きたいと願っただろうな、もう一度お前と逢いたいと思っていただろうな」
四発目、五発目、射線は私の胴体へと向かっていた。
私は投げ捨てたインクの小瓶に当たれと強く念じた。
弾丸が命中した。
それは私ではなく空へと投げたインク瓶へと当たった。
「なッ……馬鹿な……っ!」
「お前の意思は既に腐ってるんだよ。死霊術とか言う誰が考えたのかもわかんない様な本のせいでな」
狼狽する大司教は儀式を進めていく。月が最大限まで青く輝いた所で、彼には何も見えてないだろう。
近寄れば直ぐにでも殺せそうな程に弱った彼だが、未だ呪いは各方向へと散りばめられている
「誕生と方向性の神、だっけ」
私は月を見上げる。
大司教は最大限の抵抗として、私へ銃を乱射するが、もう銃は当たらなくなってしまった
だからこそ、呪いを一つの方へ。私の方へ。
「あんたが目的を見失った時点で、ノービスからは見捨てられたんだと思うよ」
「黙れ……ッ!黙れ黙れぇぇえ!!」
何時しか大司教の身体は崩れていた。
服や身体が、まるで最近流行りの石鹸切るやつみたいにぽろぽろと崩れ始め、大きな天使へと___
なる筈、だったんだろう。身体の再構築はそこで止まる。身体の継ぎ目の一部が粒子状で零れ落ちていき、片翼と、肉の間から骨の垣間見える手足。足りない部分は、白の下から這い上がる黒い粒で構成されている。
堕ちた天使。それが一番近いだろう。
「……上手くやってくれたみたいだね、リムちゃん」
『ォォオオオァァァアアアア!!!!』
けたたましい咆哮と共に、行き場のない感情を私へと向ける。
成程、自我ってもの否定されるとこうなるのか。無くしたとしても天使を象ろうとするあたり、あいつも聖職者だったんだな
私にゃステータスとかそう言うのが見えないけど、きっと彼の《スキル》は無くなっている。
「……あんまり使いたくなかったんだけど」
私は鞄の中から紫黒色の大鎌を取り出す。
まとわりつく肉片が、何故か細かく鼓動していた。
「さ、第2ラウンドかな」
純粋な暴力の何かへ、私は大鎌を向けた
^^^^^╬╬╬╬╬
吹き飛ばされた感覚と、何時までも続く浮遊感。
右目には…右目だった場所からは、形容しがたい苦痛が生まれ、私の思考を奪っていく。
___不意に、地面に叩きつけられた感触がした。
どれ程時間が経ったか、それすらも曖昧になる。
抑えた右目から温かい液が流れ出す。
頭がクラクラしてきた。
ここまでして生きているのは幸運なのか、
早く死ねないのが不運なのかは分からない。
状況を……整理しなくては。
ルダーが持っていたのは?
魔道具であると考えられる、しかしあのような形状は見覚えが無い。
円筒より圧縮した無性質の魔力を飛ばしているのか…?
なぜルダーは彼を視認出来た?
目に着けていたモノクルは何だ?
観察眼のスキルが付与された魔道具……ギルドや役所で使用されていると読んだことがある。
ステータスや物の品質を見る為の道具であって……神理眼の様な存在の合間を垣間見える事が出来るはずは……。
……もし、彼に名前や、スキルの残滓が残っているとすれば……?
何を考えても机上の空論であることは分かっている。
今、為さなければならないことを考えなくては。
傷む眼窩を無理やり開き、此処が何処かを考える。
淀んだ空気と、届かない青い空。
募る石の壁と、遠くに見える上がった架橋……そこは
城の堀の底だ
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