我を通す為の自分勝手な覚悟

「お邪魔しもす…あれ?ぼろぼろだ」

「やはり…そうですか」


翌日、私達は前日の話の通り郊外の教会までやって来た。

連日朝早くに起きたせいで多少眠い。

とは言え休みは取れたので御の字である。久々にまともにベッドで寝た気がする。


とまぁ来たは良いんだけど、前日と違って雰囲気がまるで違って居て。

昨日の秘密結社じみた本棚や何かしらの設備は無く、壊れた椅子とぼろぼろの窓が目立つ


「一度消えてみて貰えますか?」

「え?あぁ、はい?」


言われた通りしゅっと消えてみると、今度は前日と同じ様に教会が秘密結社スタイルへと変貌する


「……どういう仕組み?」

「殆どは私の仮説ですが、それで良ければ」

「少なくとも私よりは頭良いんだから信用してる。聞かせてくれ」

「ここは私達の暮らす元いた世界と少しズレた場所にあるのでしょう。引き金は恐らく、あのノービス様の像。そして貴方の消滅。それは現世とは少しだけ違う世界へと移動する様な力なのではないでしょうか」

「私が消えてる時はこっちに移動してるから、あの像を起動させてこっちに来た主犯とばったり会ったって事?」

「可能性はあります」

「なんでよりによってチャンネル被るかなぁ……」


私が項垂れていると、リムは教台に乗った物を調べている。

仕事のできる姫様だ。すると、リムは私へ振り返って口を開く


「動向を探る為、とにかく死霊術や日誌を見つけて来て下さい」

「人使いが荒い姫さんだこと…」


適当に部屋を漁ってそれらしきものをリムへ渡した。

家探しも慣れなもんだよ、全く持って慣れなくないけどさ


「こんなもんで良い?」

「はい。後は外を見ていてください。彼がここへやってきたら速やかに撤退します」

「了解。そっちも頑張ってね」


写本を作るリムを尻目に私は教会の外へと出ていった。

見張りほど退屈な時間も無く、2秒に1回は欠伸が出る。

基本的に退屈事が受け付けないタイプだからあんまりこう言うのしたくはないんだけど、

乗りかかった船だし、しょうがない。

……あ、なんかペンダント拾った


「リムちゃん掘り出し物」

「……これは?」

「そこら辺に転がってたやつ。ロケットペンダント?かな。中なんかあるかな」


蓋は少し錆び付いていて開きにくかった。中には若い主犯と金髪で赤いドレスの美しい妙齢の女性が仲睦まじく写っている。


「知ってる?この人」

「ルダーと……これは、彼の妻でしたか。名をキャドル、私が”あぁなる”前に逝ってしまったハズです」

「死霊術に先立たれた妻。甦らせようとでもしてんのかなーなんて」


……


……


…あの、黙られると辛いんですけど。

リムは口に手を当てたまま考え込んでいる。


あのー……。




行き場のない身体を外にぶん投げると、道の先に救世主にすら見える黒ローブらしき点が見つかった。


「あ、来たよ!!ほら!!」

「わかりました。直ぐに撤退します」


風のように本を片し、数枚のメモ書きを懐にしまった彼女は私の肩に飛び付いた。

一日かそこらですっかり定位置になってしまった


「逃げますよ」

「はいはーい!」


私達は一度宿へと戻る事にした。


^^^^^^^^


「んで、そっちは何かあった?」

「勿論。ご覧下さい」


リムがメモを広げる。……何やら難し事ばっか書いてる。

死霊術云々の……?何……?

あ、日記。よしよしこれなら簡単だ。えーなになに


「この研究結果と指向性から死後呪いの範囲は凡そ城付近それも地下の方だと推察され彼が死亡すると同時に地下にある何かと接触し」

「今日の夜が決行かー。中々タイムリーな所に来たんだねぇ私達」

「……そうですね」


あ、ちょっとムッとした。お気の毒。


「それで?これからの作戦はなんだいお姫様」

「一度城の地下、恐らく堀の底でしょうか。出来ることならば行って確かめてみたいことがあります」

「確かめてみたいことって、例の呪いがどの方向に向かってるかってやつ?……てかあの高さ降りるっての?しんどいってー」

「安心して下さい。見当は着いています」


リムはメモを取り出し、城の地図を広げた


「清掃用にしろ何にしろ、底へ続く道はある筈です」

「んまぁ、ただ掘っただけだと掃除とか出来ないだろうし?」

「私の活動範囲には制限があり、鍵のある場所へは近づかないよう言い聞かされました。その中に看板の掛かっていない物があります」


広げた地図の鍵のかかった扉の位置を指さした


「それが、1階ゴミ捨て場の隣の部屋ってこと?」

「暗く湿気った場所には厄が溜まります。死霊術の資源には適当でしょう」

「……鍵はどこから?」

「自分の我を通すには、細かい事は気にしていられないんでしょう?」

「…きひ、やっぱり私の目は間違っちゃいなかった」


そうと決まれば、私はリムを肩に背負い、城へと向かう。

コンピュータみたいなプログラミング思考から、最高に頭でっかちで合理的な思考へと変貌する。こんなに面白いことがあるかい?


全く持って”意思”という物は秋の空模様みたいに移ろいやすく、通った芯なんて物は横から小突けばあっさり折れてしまう。

だからこそ、ころころ変わる感情や信念はこんなにも尊いんだろうな

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