たまのお休みくらい眠らせて

黒く濁った胸元の奥底から

浮かび上がる白の代償

入り込む記憶の幼稚さから

思う夢は白く染る

白い光の底の奥には

何時かの夢が眠っていた

それに私は手を伸ばし

取り返そうと握りこんだ


「…?」


開いた目に映り込むのは見知らぬ天井だった


「あ、起きた。良く寝たねぇ15じか…トキくらい?」


横には何をするでもなく、魔道鞄を漁る彼が居た


「ここは?」

「知らない宿。空き部屋があったから取り敢えず寝かせただけ」

「代金は?」

「無い袖は触れないよ」

「…後で必ず支払いましょう」

「収入があったらねー」


最早魔道鞄に上半身が埋まっている彼は、小さく感嘆の声を出し、勢い良く魔道鞄から頭を引き抜いた。


「あったあった。インクは…ちょっとしかないな。無いよか良いや。リムちゃん来てー」


彼に呼ばれ、布団を剥いで机の方に向かうと、彼の手元にはメモ帳と羽根ペン、残り少ないインク瓶があった


「お城の作りとか解る?廊下の繋がりだとか窓の場所だとか」

「ある程度は」

「よーしじゃあ頼む、このメモ帳どれだけ使ってもいいから」

「貴方のものでは無いでしょう?」

「拾ったもんは拾った人のもんなの」


私はメモ帳を捲り、記憶のまま展開図を描いていく。

部屋の間取りや入口、階段、諸々を、記憶のまま。


描いていたトキは2を越えていただろう。気がつけば彼はどこかへ行っていた。

しばらく待ち、夜が更けた所で彼は帰ってきた。


「よっす、出来た?」

「はい。項は28程。正確に描きました」

「すっごい描いたな…紙ちっちゃいもんね。ありがと」

「貴方は…一体何処に」

「いやーそろそろお腹空く頃かなと思ってさ」


そう言って彼は鞄から焼いた鶏肉のような物の串焼きを2本取り出します


「……くすねたものですか?」

「ちーがーいーまーすー。ちゃんと買ってきたもーのーでーすー」

「お代はどうしましたか?どこからくすねて来ましたか?」

「人を窃盗犯みたいに言わないで欲しいな…いやもう今更か。

いやね、歩いてたら変なおっさんが肩ぶつけて来たから、反射的に足蹴っ飛ばしちゃって、そのお詫びでにんじんジュース渡したらそのお礼で金貨的なの20枚とか貰って」

「どういうことなの…」

「良いから気にしないで食えって、お腹すいてたら大事な話してる時にまた鳴るぞ」

「ごもっともですね、頂きます」


はしたないとは思いながらも、その串へとかぶりつく。

柔らかく弾力のある噛みごたえは近辺の極楽鳥の物であると推察できた。甘めに味付けされたタレが鶏肉の繊維に染み込み、いくら噛んでも味が染み出していく。

濃厚な口当たりと食欲をそそる香りのそれは、私の食欲的な本能を満たすのに十分だろう。


「美味しい…」

「でしょ。もきゅもきゅ」

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