対面して解ること

彼に抱き抱えられた私は、そのままどこかへ連れていかれる。草木を飛び越え揺れる心地は、風に吹かれ安定しない場所だとしても、馬車なんかとは比べ物にもならない程に良いものだ。


「いい子を手に入れられたもんだよ。私産まれたてだからここの事なんにも知らなくてさ、道も一般常識もステータスがどうとかなんもかんもわかんない」

「私に出来ることならば」

「…つってもよく私と一緒に来る気になった。中々ボロクソ言った気がするんだけど」

「貴方は私を見つけてくれました。私に食料を分け与えてくれました。そしてこれから私の願いを手伝ってくれます」

「そういや6回助けてたわ…これから逃げるなりなんなりしなよ」

「はい」

「相変わらず淡白な返事だ」


軽く弾んだ会話を尻目にして、足取りが緩やかになっていく。

流れていた水の音が近くなる。地図に描かれた禁足地への道とは少し外れた場所。暗い森の背後に聳え立つ太陽山から湧き出た水が流れているのだろう


「そろそろ着くかな」

「どうしてここに?」

「折角ご挨拶に行くんだから、泣き腫らしたあとじゃ格好がつかないでしょ。あと作戦会議」


私は彼に運ばれ、川の側までやってきたようだ。


「ごっくごっくまずッ!何この水色々溶かした石灰水みたいな味する…」


彼の隣に赴き、黒い水で顔を洗った。


「えっマジで…大丈夫?連れて来といてなんだけどあんまり触らない方が良いかもよ」

「平気です」


一通り、服で拭ったあと私は彼へ口を開いた


「私も…今、色々聞きたい」

「んぉ…?あぁ、なぁに?言ってごらん」


あれから疑問がふつふつと湧いてくる。今まで何も感じなかった物が嘘みたいに。


「貴方は、誰?」

「…あー……おー……んー………」


幾つかの種類悩む様な顔を見せたあと、煮え切らない顔で彼は答えた


「……わかんない」

「わかんない?」

「さっきも言った通り生涯一日目で、ステータスってあるじゃん?あれもほら、こんな通り」


彼が虚空に手を翳すと、そこに青白いパネルが表示された。

そこには____


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幾重にも展開されるパネル全て書かれているのはunknownの文字。その文字群は揺れ動き、まるでステータスパネルが窮屈だと言いたいかのように蠢く。


「…これは」

「簡素なもんでしょー。3行って何さ3行って…結構色々冒険したってのに何も変わらないし」


彼と私では確認出来ているものが違う…


「冒険者ギルドのステータスカードなら、もっと詳しく載るはずです」

「おぉ!ギルド!やっぱ友人Sの言う事は正しいんだな…」


冒険者ギルド、と言う言葉を聞いて、彼は少し元気を取り戻したようだ。

質問は続く


「貴方に抱かれている時、魔物は襲ってきませんでした。どうしてですか?」

「そりゃあ消えてるから。…なんでリムちゃんに見えてるかは知らない」

「消える…?」

「そうそう。折角だし見せてあげようかね、私の仮装大賞」


そう言って彼は辺りから木の棒を探し、私に渡す。


「お父様描いてみて?」

「…何故」

「良いから良いから」


言われた通りに描いてみる。凡そ30フーン程で全体像が出来上がった。


「出来ました」

「ん…ふぁ、やっと出来た?どーれどれぇぇぇええ???なにこれ写真!?」

「シャシ、ン」


上手く表現出来たかは解らないが、描いている途中は何処か不自然な高揚感を得ていた。


「これくらい正確なら…色は適当に、そぉいっ」


辺りの暗闇と、霧が混ざるようにして、彼の身体は変化していく。数ビヨも掛からずして、その姿は形を変え終えた


「どうだ、リム。傍から見れば誰だか解らぬだろう」


お父様に変わった彼が、お父様の声で私にそう囁く。

何時もと変わらない疲れきった声ではなく、数年前の優しかった頃のような


気がつけば私の目からは暖かいものが垂れていた。


「おおおぉぉぁぁあ!!!?ごめんごめん直ぐ解くはい戻りました!!!」


一度瞬きすると、彼の容姿はパッと切り替わり、元のワンピース姿に戻った。


「……っ、何故でしょうか、どうしてこんなにも痛いのでしょうか」

「それを確かめる為に行くんでしょ、元気出せって」


彼は私の背をぽんぽん叩く。ぽんぽんじゃなくてバンバンだけど


「腕の骨が折れた…」

「ごめんなさい」

「謝る必要は無いよ…しっかし本当に絵上手いんだね、描いてたって話したっけ」

「いえ、これが人生で初めての絵画です」

「それはもう才能だなぁ…そっちで食べて言った方がいい」


そして彼は閃いたような顔で私へと詰め寄る


「そうだ!私の事描いてくれない!?鏡代わりにと思って水場来たけど水黒いしなんも映んないしでガッカリしてたんだよね〜」

「解りました」


人生二度目の絵、私は既に慣れた手つきで筆の代わりの棒切れを土につける。

彼は全体的にモノクロームな表現をそのまま現実に呼び出したような存在で、アッシュの長い髪を腰まで伸ばし、不自然な程に白い肌と同じ色のワンピース。勇者の物であっただろう色褪せた魔道鞄と、トレードマークの麦わら帽子。所々に靄が掛かっていて、少しそこに居るのだと認知するのが難しい。前髪が長い訳でもないのに、顔は影に隠れてよく見えない。


そんな特徴を捉えながら描くこと45フーン。


「すやぁ…マヨネーズは……レシピ覚えてくるんだった」

「出来ました」

「んぇあ…あー……すや」


困った、全くもって起きようとしない。

起きるまで待とうか、だけど…だけど今見て欲しい?

理由はどこかへ置いてきてしまったのか、イマイチ理解に苦しむ自分の欲に困惑してしまう。


「あ、あの」


ゆさゆさと揺さぶる。

何時もなら何事も考えずそこで待っていただけだと言うのに。

…私の自我は何処かで狂ってしまったようだ


「あごっ、な、何…ぁぁあふあっ、うぁ〜〜ぁぁあ」

「絵が、完成しました」

「あ、ほんと?見せて見せて」


彼を描いた場所へ案内する。正確に描けているとの自身はある。そして描いてる時の高揚感も、先程よりもさらに強いものだった。

そこへ辿り着くと、


「ゥゥァウ゛ウ゛ウ゛ウ゛」


闇の魔力を纏った狼の精霊が、エサを取りに徘徊していました。幸い踏み荒らされては居ないようですが、このままでは近づけずこのままタチオウジョ「邪魔」


彼が振り抜いた聖剣ベインフォーリーは、まるで闇そのものを切り分けるようにして狼の精霊を真二つにした


「これ?おー…こんな感じなんだ私、態々全体像で…。ん?顔は?」

「ありません」

「そっかー……?なんて?」

「ありません」

「仮面つけて黒塗りになってやろうか…っ」


彼は私の絵をまじまじと見つめ続ける。時偶何処か感心したように頷き、一通り見終えると私の元へ戻ってきた。


「ありがとう。良く描けてるねぇ」


そうして私の頭に手を当て、ゆっくりと撫で始めた。

この感覚は何時ぶりだろうか、褒められたのも、撫でられたのも。

今だけは、少しだけ、こうしていても良いのだろうか

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