魅入る、られる
寝転びながら、私達は焚き火を囲んでいる。
てか焚き火じゃなくてこれ殆ど火事とか小火とかそこらじゃない?暖取れてるからいいのか。ぐでっとしながら朝までの暇つぶしついでに生い立ち聞いてみたは良いんだけどさぁ…。
_そして私は4歳となり、図書館の出入りが許され、そこで様々な教本を手に取りこの世界のことについて調べました。『生きている間に詰められる記憶の量は限られている』と[精神の深み 著アルカドニー 328p]に記載がされている通り、私達が命を貰い受け天寿を全うするまでの時間は」
まーさか覚えてるもの全部話すとは思わないじゃーん?
ちなみに0〜3歳でもう体感5時間は経ってる。なんなら一回意識飛んだし。
いつまでもAI生成みたいな延々と続く会話を聞いてもいられないので、一度ストップを掛けることにした
__の為私達は現在出来ることにおいて最も効率的で最適解な」
「あーごめん、私が悪かった。あんまりにも範囲大きくしすぎたな。3行くらいに纏めてくれるかい?」
「…はい」
常に開き続けて居た口が一度閉じ、何を話すべきか取捨選択するようにもごもごと動く。
暫しの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「私は、お父様の期待に添える事を為せませんでした。
何時も閉じこもってばかりの私を見捨てずに居てくれたお父様を尊敬していました。
お父様は、約立たずの分、言われたことだけを忠実にこなせと言いました」
「おぉ…本当に3行だすげぇ。いやそんな事よくて。期待って何?なんか血筋の問題?て言うかそもそも見捨ててないのにここに放置されてるの…?どういう事」
「…それは」
そうして彼女はここに来るまでの話をしてくれた。
少しの日常とか、軽い世界の常識。名前だースキルだーって、そこら辺。
…てことはあのかんかん鳴り止まなかったのって
「それ以降の指示が無いからずっと待ってたってこと…?」
「はい」
この子はーあれだ。指示待ち人間というよりもうただのプログラムだ。プログラムアドバンスだ。人を機械仕掛けにするとか本当に同じ人間か?
…私は人間なのかすら解らないけど。
だけどー、私こういうタイプに色々と聞いてみたいんだよね。
なので質問タイムです。帰り道の恨み。
「どうして才能が無いってわかったんだい?」
「生まれつき世界には魔力を宿さず産まれてくる子が居ます。数十万に一人の確率です。それが私でした。スキルや純粋な武力、立場。この世界では全ては魔力に依存しています」
「難儀な枠組みに収まったもんだね。魔力とやらがない分何かあっても良いのに。なんか無いの?」
「私の場合、それは神理眼ではないもう一つスキルに割り振られたものだと考えられました」
「もう一つ?」
「はい。[鉄籠]。そう書かれています」
「かんかんうるさかったのはそのせいか…」
一つづつ疑問が解消されていくのは悪くない気分だ。まだまだ聞きたいことは残ってる。
「昔は普通に過ごしてたんだよね?意欲的に本読んでたみたいだし」
「はい」
「こうなった切っ掛けはそのお父様の言葉?」
「はい」
「いつかな」
「8年と2ヶ月前です」
「成程、子供の心へし折るには十分な年月だ」
弱くなってきた小火にうごうご近づきながら、私は話を続ける
「大体は分かった。話してくれてありがとう。ただ一つ気になってさ」
「…」
「お父様とやらは私と話せって言った?」
「っ……」
「今更改めても遅いんじゃなーい?」
大の字に転がって空を見上げた。蒼天を覆い隠す森の暗さに大して、自分の近くに健気に灯る焚き火ちゃんが何処か恋しく感じる。
すっかり黙りこくってしまった彼女はどこか遠くを見つめていた。
「見限られたんだな、お前」
「……」
彼女自体、頭が悪い訳では無いと思う。思考を組みたてて言葉にするロジック自体壊れてるとも思えない。ちょっと出力の仕方がぶっ飛んでるってだけで。
「どうした?返す言葉も無いかい?」
「………」
「そりゃあここは体のいい厄介払いに最適だろうさ。生まれたて一日目の私だって解る。禁足地なんて名前が着くくらいだし、どうせ放置されてたんでしょ?」
「…………」
「所詮お前は、尊敬するお父様にとっての重荷だったんだな。良かったじゃないか。自分が犠牲になって負担が減らせたんだ」
「…と……まは」
「…なぁに?」
「お父様は……私の事が邪魔だったんでしょうか」
彼女の瞳から水滴がポロポロと流れ落ちる。出会ってからここまでずっと仏頂面だった彼女が。
精神的な限界を、期待と希望だけで補ってきたんだろうな。ちょっと突っついただけで直ぐこれだ。
抑圧された感情は、穴を開ければ直ぐに決壊する。そんな事を何処かで知っていたみたい。
顔をぐちゃぐちゃにしながらしゃくりあげていく彼女を、私はそっと見守っていた。
やべぇちょっと言い過ぎたかな
「あんまり気にすんなよ、私の言葉なんて。ただお前からの話を聞いて何となく考えてみただけ。本当の事なんてそのお父様しか知らないよ」
「……そう、でしょうね」
「さて、一応お前の目的は聖剣の回収なんだろ?だけどこれを持って帰ったところで、その心底ダルそうなのおいたんはお前の処遇に悩む訳だ」
「……ッ」
ここまで粘った小火がフッと消え、辺りを照らすのは青い月明かりと聖剣の光だけになった。結構明るいな。
私は立ち上がって、リムへ向き直る
「私さ、一回やってみたかったんだよ。お姫様拐って城を駆け回るやつ」
空に線が流れた。
流れた星が何処へ行くのか、それを知る者は存在しない
「だからさ、良ければなんだけど」
私はリムへと手を差し伸べる
「私と一緒に来てみない?」
「私は…私には」
「いーやお前が決めるんだ。誰かに示された道を自分で選んだとか思い上がるなよ。手をとるか取らないかも、蹴っ飛ばしてサクッと聖剣持って帰るも、私には決められないし指示もしない」
「これ以上約立たずなんて言われたくなけりゃ、良く考えな」
「……私、は」
リムは両の手で、私の手を取る
「私は、自分の目で確かめに…行きたいです」
「よく言えました」
手を取る彼女を抱き抱え、その場を去った。
傍から見ればきっと、少女が悪魔にでも唆されて人道を去ったように映るだろうね
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます