第2話
その後も彼女が騒ぐので、言われた通りに、通話アプリをつなぎっぱなしにしました。物が当たって通話が切れてしまった時は、すぐに電話がかかってきました。そんな風にしてずっとつないでいると、午後にはバッテリーが切れてしまいました。すると、会社に電話がかかって来ました。僕はハラハラしながら電話に出ました。
「今の人誰?名前を名乗らないから変だなって思って…声も子どもみたいで」と、事務のおばさんに言われました。
「親戚の子を預かってて…」
僕は笑ってごまかしました。
「でも、学校行ってる時間じゃないの?」
すごい観察眼だと思いました。怖いくらいでした。
「もしかして…隠し子?」
「まさか…僕まだ二十代ですよ」
おばさんは納得いかないようでした。
僕はスマホを充電しながら、ずっと通話アプリを立ち上げていました。仕事なので、職場の女の人が話かけて来ることもあります。すると、ものすごい勢いでメッセージが来ます。
「そこに女の人がいる!」
「騙された!」
「死ね!」
「浮気者!」
「クズ!」
「帰って来るな!」
「家に火つけるぞ!」
「〇んでやる!」
「返事しろ!」
「無視すんなよ!」
こんな風に立て続けに100件くらいメッセージが来ました。
僕は家に帰って謝りました。そして、最終的には土下座を強要されました。僕は言われた通りにしました。すると、足で上から踏まれました。体重をかけて来ます。そんなに痛くはありませんが、なぜそんなことをするのか奇妙でした。
僕は気が付きました。恐らく、ニアちゃんは自宅ではこんな風に暴力を振るわれていたのだろうと。僕は彼女の苦しみを全力で受け止めることにしました。
暴力を振るった後、ニアちゃんは「お兄ちゃんが私のこと裏切るからこんな風になったんだよ。謝れ!」といつまでも言いました。僕は言われただけ謝ります。そして、いつまでも殴られ続けるのです。
ひどい時は、包丁を持ち出して僕を追いかけ回します。刃が当たると切れるので、僕はさすがに怖くなりました。包丁を持っていたら、大人の男でも子どもにはかないません。それに、もし、僕が包丁を取ろうとしたら、あの子に怪我をさせてしまうかもしれないのです。
もう、危険だと思った日、ニアちゃんが寝ている間に、僕は家にある包丁や凶器になるものをすべて捨てました。
ちなみに彼女は飲酒と喫煙もします。お陰で家はとても臭くなりました。僕が家に帰ると酔いつぶれていることがあります。飲酒はやめなよと言うのですが、酒を買って来ないと暴力を振るわれます。酒を飲んで泥酔しているのが一番静かなのです。
そして、頻繁に欲しい物をねだります。毎日、食べ物やら、小物やら、何かしら買って来てというメッセージが送られてきます。売っていないと言うと、僕のことを警察に言うと脅します。僕はニアちゃんが欲しいと言う物を買えるまで、店を何軒もはしごします。買って帰らないと暴れるので、怖くて仕方がないのです。
***
土日は二人で出かける時もありますが、近所の目があるので、レンタカーで行きます。ニアちゃんはもう新宿には行きたくないそうです。前にパパ活で知り合った人から連絡が来るそうですが、もう二度と会いたくないと言っています。歌舞伎町で一緒にいた子たちとはもう縁を切ったそうです。
「別に仲が良かったわけじゃなくて、他に知っている人がいなかったから」
ニアちゃんは友達のいない子でした。
嬉しい誤算でした。
一緒にドライブする時は一番平和です。暴力を振るわないし、機嫌がいいからです。車の中でニアちゃんの好きな音楽を掛けます。機嫌がいいと喋るし、そうでない時は黙っています。途中でおいしいお店に酔ったりします。そんな時は普通のカップルみたいです。
***
ニアちゃんは僕を奴隷のようにこき使います。理由は僕が逆らわないからでしょう。僕はMじゃないので、そんな風に踏みにじられるのは嬉しくありません。
僕からリアちゃんに触ることは許されませんが、向こうから寄って来ることもあります。僕に世話になっている。世界一好きと言います。
ニアは過去に暴力を振るわれていたトラウマから逃げるために、リストカットをしたりしています。ニアちゃんにはよくなって欲しいので、自費でカウンセリングに行きましたが、何度か通っても効果はありませんでした。
ニアちゃんは日々戦っていますが、いつも負けてしまいます。とても、かわいそうなので、僕に暴力を振るうことは許してしまいます。飲酒、暴力でストレスから逃げようとしているのだと思います。ニアちゃんに罪はありません。
酒を飲みながら、市販薬をオーバードーズします。いつか〇んでしまうのではと怖くなります。
毎日一緒にいるのがとても辛いです。それでも、ニアちゃんを愛しています。
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