第一章 万事、代書うけたまわります⑪
〈四〉
──翌日、夏月は姉に会うために、後宮は
「藍夏月が紫賢妃にご
書物を台の上に広げて見せながら、夏月は
紫賢妃は侍女ふたりと
「夏月、具合はどうなの? ちゃんと食べているの?」
姉の美しい指先が夏月の両頰をやさしく挟み、心配そうに顔をのぞきこむ。
「は、はい……突然、お約束を破ってしまい、申し訳ありません」
まさか厄払いに行って死んでいたとは言えずに、夏月は頭を下げる。
「約束なんていいのよ。ただ、夏月は夜更かしするわりにこれまで倒れたことなんてなかったから驚いてしまって……」
みずみずしい頰に黒目がちな
(あのまま、死んでしまわなくてよかった……)
生きているよろこびを感じると同時に、黄泉がえるための引き替え条件──泰山府君の手伝いのことを思いだしてしまった。
──『現世の城で調べたいことがあったのだ。おまえの運命に働きかけてやろう。城へ行き、私の手伝いをするというなら、地上へよみがえらせてやる』
(ここも城のなかだけど……まさかこの訪問が手伝いではないでしょうね?)
泰山府君のことを考えて、夏月が姉から意識をそらせたときだ。
誰かが宦官を先触れによこしたらしい。紫賢妃の侍女と何事か応答をはじめた。
「まぁ、夏月と会っているところに来るなんて……いったいどなたでしょう」
姉は表情を曇らせたが、断れない相手なのだろうか。訪問の許可を与えている。
(久しぶりに会えたのに、わたしはもう帰らないといけないのでしょうか……)
事情がわからない夏月が肩を落としたときだ。官吏らしき
「紫賢妃に
入ってきたのは見た目の
(噂とはなんのことだろう? 幽鬼の代書をしていることが問題になったか、それとも)
「まさか、黄泉がえりの娘……?」
自分の悪評が多すぎて見当がつかない。夏月が相手を観察しているように、官吏も夏月を値踏みするように眺めている。多分に
「噂というのは『夏月の手紙がよく届く』というものかしら? まさか外廷にまで伝わるとは……写本府の長官ともあろう方が、ただ代書を頼みに来たわけではありますまい。なにか必ず届けたい手紙でもあるのですか?」
その言葉に驚いたのは夏月だ。
──『夏月に手紙を書いてもらうと、手紙が不思議と無事に届くのよ』
夏月が代書屋をする許可を父親からもらうのに、姉はそんな説得をしていたが、ただの方便だと思っていた。まさかそんな益体もない噂を信じて代書を頼みに来る人がいるとは思わなくて、夏月の頭は真っ白になる。
(そういえば……あの幽鬼も『先生にお願いすれば間違いがないという噂を思いだして』などと言っていた……)
噂の出所が姉なのだとしたら、やはりあの幽鬼は後宮にいたのではないだろうか。気になることが一度に頭に渦巻いて、噂を否定するところまで気が回らないでいると、
「ご明察のとおりです、紫賢妃。ある
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